第204話 供給過剰

 ガラッ


「出た? これ着替えて────」

「ぎゃああああああ」


 ビックリしてバッと離れた。


「誰?」

「~あああああああ!!」


 まだ叫んでた比護杜さん。

 息切れて、顔真っ赤にしてぜーはーぜーはー言ってる。


「落ち着いて? 何もしてないよ?」


 参がそう言って手を伸ばすと、ガッ! とその手を握った!


「ありがとうゴザイマッス!!」

「うん?」


 意味が通じないぞ?


「なんて供給……! 素晴らしき我が人生! 生きてて良かった! 滝夜だけど仕方が無い、いや大丈夫、脳内補完マスターの俺様なら完璧です!」

「あ~、あの……?」


 全員を置いてきぼりにして、踊る比護杜さん。


「ええっと……」

「いいからコレ着て!」


 戸惑うおれに突きつけられる服。そういや、おれパンイチ!


「キャー! 早く出てって!」

「誰も見てない興味ない早くして!」


 そんなに無表情で言われたら、しょぼんってなるじゃん。

 ブレなさ加減に定評のあるマコ、腕組んでもはや現場監督。


「来たらこっち戻って。ヘアとかメイクとかやるから!」


 や、まだボタンも留めてな……

 ぐいぐい引っ張られてみんなのところに戻る。

 一斉にこっち見る、りら、ハジメ、ハノさん。


「ハノさんお帰りなさい」

「まあ、滝夜くん大変ね、ホホホ」


 この人が笑うと、ピンチじゃなかったような気がするな。なんでもない、微笑ましい出来事の一つみたいな。


「ここ座って」


 既にスタンバイされたテーブルの上の細々した道具、手にはドライヤー。

 自信のある態度、得意なんだな。

 座った途端ドライが開始され、それはとても手慣れたものだった。


「坊主じゃなくて良かったよ。結構長さあるし、これならアレンジもしやすい……アレ?」


 ブワンブワン乾かしながら後ろ頭を掘り返す。ああ、アレか。


「そう、生まれつきなんだ。見えないようにしてくれる?」

「ふうん……珍しいね、へえ~」

「何?」

「後ろ頭に少しだけ赤い髪なの」

「へえ~」


 まあ、感心されても、ただ赤いだけなんだけど。


 おれの髪はあっち上げこっち上げされて上手いことスタイリングされた挙句、ちょっとカットされて完成した。

 それから顔にペタペタ塗られ伸ばされて、目ぇつぶってる間にこちょこちょされ、「ふぅ」って言うりらの満足気な吐息を合図に終わった模様。


「立って」


 服の着方をシャキッと直されて、ズボンの履き具合も手を入れられる。


「いや、あっ、ちょっと……」

「うるさい」


 センシティブなんだよ、配慮して。

 しかしりらさん、問答無用でジャケットを羽織らせ、「どう?」と、みんなを向いた。


「いーんじゃね」

「滝夜じゃない! ウケる!」

「カッコいいよ」


 どう受け止めていいか分からん反応、やめれ。

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