第180話 久しぶり
母さんが迎えに来て、いつもいない時間なのにいてくれた師範と挨拶合戦を繰り広げた後、出発となった。
朝湖はいなかった。陽太たちとも別行動……っていうか、奴はまだ起きてない。
「行ってらっしゃい」
そう言って手を振ってくれた師範の温かさを感じながら、車の中で二度寝。
「着いたよ。起きなさい」
「んが」
駐車場から県武道館までは遠い。
ちょっと不便なところにあるから仕方ないのかも。第一、剣道は荷物の多いスポーツだ。車が欠かせない。
おれとおんなじように歩く、剣道少年少女がたくさんいる。
みんな大きな荷物を担いで、まっすぐ会場へ向かう。
この中の誰かと、もうちょっとしたら試合するんだ。
あしうらに感じる床の感触、高い天井の照明を思った。
この県武道館に来たのは、小学生の頃から数えて4度目になる。今までの成績は最高で四位、入賞には一歩届かずという微妙な結果しか残せていない。
正直悔しいけど、相手が強かった。試合はトーナメントだし、自分より強い人なんかたくさんいると思ってる。
今日は勝てるかなと思いつつ、それよりも勝てないくらい強い人とやりたいって思う。
うぬぼれじゃなくて、強い人と試合するって凄い楽しいから。
集合場所は前回と一緒、南入口三枚目のドア前。近付くにつれて、剣道着一色になっていく。混雑してるけど、見知った顔を見つけて駆け寄った。
「おはよー」
声を掛けたら、後輩の緑川くんの向こうから猪瀬くんが顔を出して、おれの頭をつかんでグリグリした。
「おっはよう滝夜~、元気だったかよ!」
「ハハハ元気に決まってんじゃん」
懐かしいこのノリ。
「おー滝夜く~ん!」
「た~き~や~!!」
先輩や長谷川くんや吉田くんにもみくちゃにされて悲鳴を上げる。もうめっちゃ嬉しい。最高。
「ご心配かけました!」
「大変だったなあ」
「今どこ住んでるの?」
「バッカそれ言っちゃダメじゃん」
「あ、そうか」
色々聞きたい気持ちにさせたところまで含めて、みんなには迷惑かけたのに、こんな風に迎えてくれて感謝しかないよ。
「そろそろ時間だから移動するよ」
丸井先輩のお母さんがみんなに声をかける。
受付は団体ごとに一人が代表でするから、ちゃんと揃って行かなくちゃならない。
ロビーで大人しく待っていると、戻ってきた丸井先輩のお母さんがもらった用紙を渡しながら説明してくれる。
「聞いてると思うけど、今日は保護者席と選手席が分かれてます。一階が選手で二階が保護者。間に通路があるけど、必要なときは通路に近い私が連絡係です。行き来はできません」
思ったより厳重になってる。
おれのせいだってまた思って、胸が痛んだ。
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