第144話 女子の笑顔は、いいものだ

 食堂のお片付けを済ませて部屋に戻ると、軍曹がごろんと転がった。


「あ~もう帰るのか~」


 大の字でため息をつくのを見て、みんなそばに座る。


「それな~、早いよな」

「軍曹は来んの遅かったから」

「うん、迷ったんだけどさあ」

「今日もあんの?塾」

「うん、ある」

「頑張ってな」


 応援するよ、マジで。

 ホテルのチェックアウトに合わせた訳じゃないだろうけど、みんなとは10時にさよならだ。


「まだ時間あるよねっ」


 ひょいっと起き上がって軍曹は部屋を出る。

 もちろんおれ達も後に続いた。


「外出ようぜ~」

「ぎゃ~!」

「開けんなコラ!」

「出てけ~!」


 女子の部屋の戸ををいきなり開けるとは……

 まんがみたいに荷物がガンガン飛んできて軍曹は撃沈した。


「くっ……だが……俺は屈しない!」


 どこのヒーローだ。


「ねーねー、外行かない? 動物見よーぜ?」


 戸にぺったり張り付いてお誘いしてみる軍曹。最初からそうすれば良かったのに。

 他のみんなも加勢する。


「散歩しよう?」

「はやくはやく~」

「ちょっと待って~」


 さすが怒られが日常の軍曹、秒で許されてる。すごいな。


「お待たせ~」


 戸が開いて、昨日とは違った装いの女子たちが出てきた。


「今日も可愛いゾッ!」

「キモッ!」


 まあ、ウインクはどうかとおれも思う。

 ゾロゾロと向かう玄関に服部さんが、モコちゃんといた。読書つながりで仲良くなったのか。


「コッコッコ~」


 今日もニワトリさんたちはちょこちょこ歩き回って元気ですなあ。


「何がいるって言ってたっけ」

「牛」

「ネコチャン」

「ヤギ」

「わんこ~」


 昨日とおんなじところにつながれている柴犬を、さっそくモフる八嶋さん。


「おまえなんて名前なの~?」

「返事するんか」

「ワフッ!」

「おお、返事した!」


 しかしほとんど地べたに座ってるな、八嶋さん。トラブルに遭いすぎて汚れるのを気にしなくなっちゃったのかな。


「首輪に書いてある! 豆助……? おまえ、豆助っていうのか~! ちっとも豆助じゃないなあ」

「めっちゃ可愛がるな」

「犬好き過ぎる」

「だあ~い好き!」

「わたしもわたしも! さわらせて!」


 それをにまにましながら眺める男子数名。

 女子の笑顔は、なんか、こう……いいものだ。


「滝夜くん」


 服部さんがおれの肩をたたいた。


「朝、稽古した?」

「うん、したよ」

「お寺、案内して」


 別に迷う道でもないからして勝手に行けばいいのに、とは思ったけどOKした。

 みんなは昨日行かなかったもんな、と思い出したプール行ったんだっけ。いや、この二人は行かなかった。

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