第138話 見られちゃった
ブイン ブイン ブイン ブイン
「うわあぁ……ぁ……?」
強振動音の震源に目をやると、グレイのリストバンドが見えた。
表示されていたのは時刻と『おはようございます』、輝夜だ。
おれはスッカリ約束を忘れていたことに気付いて輝夜に深く感謝した。
もう声は出せない。だってみんな、さっきの声を物ともせず熟睡中。
そろりと動いて自分のカバンに近づいて、道着が入ったバッグを持って外へ出る。
とりあえず玄関にそれを置いて、トイレを済ませた。音を立てないように階段を上り、陽太の部屋へ向かう。
ここにあるって言ってたけど、御刀は戸の前に置いてあった。大事なものだろうに、悪かったな。
って言うか、やっぱ起こされたくなかったんじゃん。いや、当たり前か。
御刀はズシッと重い。
抱えて階段を降り、そっと置いた。
着替えられそうな場所は道場にはなさそうだったから、ここで着替えることにする。
袋から出して上衣と袴、手拭い。
手拭い……今日は面を付けないことを思い出す。まあ持って行って悪いことはない、汗でも拭こう。
サッと服を脱いでパンいちになる。
上衣を広げて羽織ったとき、
「っ!」
声にならない声が聞こえた!
「(ごめんなさい……)」
小さな声でよそを向いた、咲良がいた! マジか!
なんでいるんだ!
こんな朝早くに!
どうして!
しばしの呆然から我に返って、慌てて着替え出す。
見られた、見られちゃった……
ぱんついっちょ、見られちゃった……
もうおれ、お嫁に行けない///
なんとか着替えて、まだそこにいる咲良に聞いた。
「な……なんでいるの」
咲良はまだ向こうむいたまま答える。
「蓮が教えてくれて、わたしも見たいって言ったから……。あっ、蓮はわたしのウグイスの名前なんだけど」
うわ。秘密の名前聞いちゃった。
「見たい?」
「うん。居合い、習うんでしょ?」
「そう。あ、もう着替えたよ」
「……」
よそ向いてるのは戻ったけど、うつむいて恥ずかしそうな咲良。なんか萌える。
「おじい様もいいって言って下さって、ここ出るのにも間に合うから」
「そ、そう」
『二人ともそろそろ出ましょう』
輝夜が促す。なんだかんだ言ってる間に時間がない。そっと御刀を抱え玄関に向かう。
朝日がおれ達を迎えて、眩しかった。
「それ、真剣?」
「うん、陽太が貸してくれて」
「重いの?」
「ずっしり」
歩いてると、だんだん緊張してきた。
これから、新しいことを始める。
それを咲良が見てる。
え?
咲良に見られんの?
うわぁ……
ほんとになんか緊張してきた!
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