第137話 枕投げ

「帰ります~」

「おやす~」

「バイバ~イ」


 ささ~っと流れるように男子は逃げていった。

 おれの背中に、「うちらも枕投げする?」って声がくすぐったく届いた。


「ふとん敷くぞ~」

「歯、磨こうよ」

「じゃふとん敷いてから」


 押し入れ開けたら、人数分以上のふとんが収納されていた。

 これって枕いっぱい使えるんじゃね?


「タマは多い方がいいよな」

「もちろんだ悠」


 中央に山になる枕。ヤバい予感しかしない。

 戸で仕切られた洗面で、みんな並んでしゃこしゃこ歯を磨いて、もがもがしゃべる。


「むっちゃ楽しかったな」

「うん」

「また来たい」

「うん」

「なんで途中からだったの?」

「塾あって」

「塾?!」


 一斉に軍曹振り返った。驚きで泡がいくつか飛んだ。フキフキ。


「休めんの?」

「うん。マジな奴だから」

「意外~……」

「どこ狙ってんの」

「アメリカかイギリスの大学行きたくて」

「ええ~~~~!!」


 意外過ぎる!


「努力って隠すもんだろ。あんまり言いたくない」

「……かっこいい!」

「軍曹なのにカッケー」

「やだ俺惚れちゃう……?」


 江口くんが色々考えてる人だってことは前から知ってた。というか、人はみんな色々考えてる。それが具体的かどうかが違うだけ。

 おれも色々考えてる。

 けど形を結ばないモノはつかめなくて焦る。そういうこと。


「よ~しみんな準備はいいか~」

「枕中心にして離れよう」

「せ~ので開始な」

「なるべく戸に当てないようにな」

「わ~ドキドキする」

「せ~の」


 枕一斉に取りに行くと瞬間みんなのマジ目が見えるやべえ! 即投げ!

 被弾!

 二個も当たった誰だ軍曹か当たった二個掴んで振り返るうわ井川くん遠い遠い!

 後ろからまた被弾! くそ持ってた二個投げてそれも拾い投げる!


「うわあ!」

「ははは」


 何度も当たって何度も当てた。戸にも何回か当たってヒヤっとした。気が付くと寝っ転がってはあはあ言ってた。た~のし~!


「はい終わり~。寝ようぜ」

「おやすみ~」


 おれ達は倒れたその場でそのまま寝た。

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