第132話 知られざる実在

「一人ずつねここ、のぞいて」

「わ~、凄い!」

「影の部分も見えるんだ~」

「クレーターは、三日月の方が良く見えるんだよ」

「へえ~」

「下に見える六角形ぽいところは、危難の海って言うんだ」


説明はほとんど中村さん(父)がしてくれた。

細川くんのは自分で持ってきた、例のジュラルミンケースに入ってた望遠鏡で、200ミリの反射望遠鏡らしい。

自動で天体の動きを追尾できて、カメラが付いてるんだって。


後の二個のうち一つは中村さん(父)ので、屈折望遠鏡。追尾もできないし倍率もあんまりなのでと言って、お月さん(三日月)を見せてくれた。

残りの一つは山田家の物で、はるたん父のもの。これが高機能で、細川くんは自分のとこれの間を行ったり来たりしてる。


そして細川くんは、自分の望遠鏡には触らせてくれないので(まあ、相当高額品なんだろうと思うし当然だよな)、おれ達は中村父に三日月見せてもらう→はるたん父の望遠鏡で見せてもらう → 満足、の流れしか許されなかった。


おれの順番はなかなか来なかった。

並んで待つ間、先に見てる人の歓声を聞きながら、ここにいない奴のことを考える。

もしここにいたらきっと、見た事ないくらいの笑顔をしたんだろうな、とか。

バーベキューもごはん作りも天体観測も、ここにいなければできない経験だ。


こんなにたくさん、色々やらせてくれて、ホント感謝しなくちゃ。

取り分けうるさくキャーキャー言って、おれの前の二本田さんが終わった。


「お先~」


おれの番だ。


「ここをのぞいてね」


さっき見てるの見てたから、おんなじ説明は要らないけど、ちゃんと説明してくれる。有り難いな。


そしておれは見た。

もの凄い光の集まりを。


もの凄い数の輝きが、まるで煙のよう。でもひとつひとつが星なんだと分かる。


「ちょうどこの、銀河系宇宙の中心部分だよ」


想像の及ばない規模の世界。

自分の番が終わって望遠鏡から離れ、ボーッとした気分で夜空を見ると、少し雲があるけど、綺麗な星がたくさん見える。

でも、何もないと思ってる黒い部分にも、ほんとは星が光ってたりするんだ。

もしおれの目がめっちゃ良かったら、さっき望遠鏡で見たみたいに、この空には満天の星が見えるんだろう。


超高感度カメラで撮影されるよりもっと凄い星空。

その星すべてに、知られざる実在があるんだ。

星のことはあんまり知らないけど、どこまで知っても知らないことが増えていく、魅力的な謎を秘めてる世界。

細川くん、撮った写真見せてくれるかなぁ。


「さて、帰ろうか」


母さんが言って、中村さん(父)がうなずいた。


「ありがとうございます」

「細川くんがんばってね~」


ぞろぞろ帰るみんなの中に中村さん(マナ)はいなかった。どうも残って星見るみたいだ。

お父さんが好きなだけあって、もともと趣味なのかもしれない。

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