第122話 見せたかった風景

 門前町は山の下の方まであるから、疲れちゃうとか言って母さんは引き上げた。

 おれ達もマコちゃんが両手、お土産でふさがったあたりで戻ることにした。


 何買ったんだ、ホントに。


 下っていた時はあんまり気付かなかったけど、結構な急勾配。

 最近運動不足だったおれも、ちょっと坂がきついな、と思ったくらいだから、みんななんか推して知るべし。


「あーもー疲れたー」

「暑いー」

「帰って温泉入るー!」

「い~ね~」


 文句言いながら登って、山門の階段口までやってきた。


「お寺、行く?」

「ええ?! 行くの? 元気過ぎ」

「さすが剣道部鍛え方が違う」


 やっぱおれだけか。

 まあ寺だしな。

 おれも参拝したい訳じゃなく、登りたいだけだし。


「じゃあ、後で~」

「またね~」


 さて、登るか。


 お寺の階段は門前町と違って真っ直ぐ上に伸びている。

 何段あるのかな、と思いながら石の階段を登る。

 こんな山の上に、石を持ってきて階段を組むなんて、凄い労力だろうな。

 どれくらい昔か知らないけど、人力だろうし。


 ひとつひとつの石の形が違うのを眺めながら、時折滴り落ちる汗が模様を加えるのを面白く思う。

 別に急ぐ訳じゃない、ゆっくりと登る。

 最後の一段を踏むと、平らに敷き詰められた山門だ。

 ここで振り返った。


 さあっ


 風が汗をさらっていった。

 遠くに蔵野市が一望────なんて景色だ。

 大きく広がる空に、いつの間にか押し寄せた雲が暗色をはらんで、太陽の光が鋭く射し込んでる。


 街をまだらに染める光と影────なんて素敵な場所なんだ。

 なんでおれ一人なんだ、みんななんでいないんだ。


「すげえ綺麗なのに」


 つい、ひとりごちた。

 ほんと、おれ一人だけが見るなんてもったいない。


『見せて』


 急にどっかから声がした。

 振り返ったりキョロキョロするおれに、笑い声。


『わたしよ、わたし』


 ────咲良だ。


 急速にいっぱいになるおれの胸。

 黙って写真を撮った。


『本当ね、すっごく綺麗!』


 だろ?

 でも何も言えなくて身体だけが少し震えた。

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