第79話 寒いの?

「さあそろそろお片づけね~」


 一番小さい0歳児クラスから、やはり終了のアナウンス。

 小さい子どもは、手がかかるからね。

 体力もないし。


 アジマルくんのプールかばんからタオルを出して、拭いてあげる。

 子どもの肌はぷくぷく。

 水滴はサッと拭けるけど、くびれが多くて簡単には拭けない。


 ぎこちない手付きで拭いていると、気のせいか震えてる……?

 まさか……


「寒いの?」


 まさかな、と思いながら聞くと、うん、というようにうなずいた。


「寒いの?!」


 こんなに暑いのに!

 そういえばからだは冷たい気がする。


 え? 寒いの?

 マジか……


「唇が青くなってるね。寒いんだよ」

「寒いんだ……」


 衝撃。

 うだるような暑さでも、ちょっと水浴びしたら、子どものからだは冷える。

 小さいから?

 慌てて拭いて、水着を脱がして、おむつをはかせ、服を着せる。


「抱っこしてあげると、体温であったまるからね」


 アキコ先生がそう言うので、初抱っこに挑戦。


 きゅ


 や、やわらかい~……


 先生を見よう見まねで抱き上げてみる。

 1歳児は10キロオーバーというけど、軽い。

 ふんわり軽い触感。

 食べ物のCMみたいなこと言ってるけど、そんな感じ。


「順番にクラスへ戻りましょう」

「は~い」


 この返事のほとんどは、おれ達。


「階段は抱っこ下ろして」

「はい」


 危ないからな、たぶん。

 アジマルくんをそっと下ろす。

 とたんに仰け反って泣き出した!


「んぎゃああ~あ!!」


 ヒザから崩れ落ちるように泣く!

 階段は音がめっちゃ響いて、凄いうるさい!


「ゔあああ~!!」


 この世の終わりみたいな顔をして泣き続けるアジマルくん。

 ど、どうすれば。


「疲れちゃったんだね。ホラアジマルくん、滝夜くんがバッグ持ってくれてるよ! さ、クラス戻ってごはん食べよう!」


 アキコ先生がフォローしてくれるも泣き止まず。


「さ、おててつないで」

「アジマルくんおててつなごうか~」

「♪ お~て~て~つ~ないで~」


 半ば強引に手をつなぎ、手を振って、歌いながら階段を降りる。

 そう、おれ達が降りないと、他のクラスがいつまでも降りられない。

 アジマルくんはグスグスいいながらも雰囲気に流されて、ひとつひとつ階段を下り始めた。


 ふううう……

 良かった……


『幼児は今のような簡単な水浴びでも、想像以上に疲れている。疲れたら泣くし、お腹すいても泣く。眠かったら泣くし、今はそれらが全て揃っているから泣きやすい。子どもにもどうしようもないので、励ましたり、気をそらしたりして、なるべく早くお昼寝までたどり着きたい』


 そうは言ってもさっきの泣き声、凄かったから、ずっと泣かれたらキツイだろうな。

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