さん

第68話 短時間で簡単に働きたい

 そしておれはバスに乗ってる。


 家から少し歩いたところにバス停があるのは知っていたけど、乗るのは初めてだった。

 朝早く起きるのは、部活で慣れてるけど、こんな時間のバスでも座席は埋まってる。

 大人計画の場所の連絡はほんっっっとうにギリギリで、なんと昨日の夜だった。


『遅くなりました、滝夜さん。明日の会場をお知らせしますね』


 部屋へ戻ったおれに輝夜が告げたのは、なんと保育園だった。


「みらい保育園……」

『はい。滝夜さんのおうちから行くなら、7時ごろ出て、塚田のバス停まで歩き、7系統のバスに乗って下さい。9つ目の八千代橋で降りて、歩道橋を渡って道の反対側に。そこから東へ3分歩くと見えますよ』


 言ってることはまったく入ってこなかったけど、納得した。

 そうか、実技か!

 保育園なら小さな子どもだらけだし、子育ての実技をするのにぴったりだ。


「バス、乗ったことねぇ」

「蔵野市のバスはすべて後ろ乗りの前降りです。後ろのドアから乗って、ICカードをタッチして、降りる時はボタンを押して、止まったらまたICカードをタッチして、前のドアから降ります』


 ……よくわからんがきっと大丈夫だろう。


「保育園て幼稚園と違うの?」


 おれは幼稚園行ってたから、保育園のことはよくわからない。


『保育園は厚生労働省の管轄で、保育士は国家資格です。幼稚園は文部科学省の管轄で、保育士は教諭免許が必要です。保育園は0歳から、幼稚園は3歳からと、年齢的にも違います』


 似たような感じなのに、ちまちま違うんだ。一緒にすればいいのに。


「具体的にはどう違うの?」

『幼稚園は小学校の小さい子版、保育園は保護者の代わり、というところでしょうか。以前は預けられる時間も幼稚園は短くて、働く保護者は保育園以外に選択肢はありませんでした』

「今は違うの?」

『両方を一緒にした子ども園や、時間を長くした幼稚園が多くなって、どちらを選んでもデメリットはそんなになくなりましたね』


 あ、一緒にしたんだ。そうだよね。


『幼稚園は教育機関なので、3時には終業します。フルタイムで働く場合延長保育になり、追加料金が発生する代わりに習い事ができたりします。保育園は保護者の代わりなので、元々長く預かっていました。3歳を超えると幼稚園と同じような内容を教えていますが、習い事までするところは少ないようですね』

「ふうーん」


 フルタイムで働くっていうのは大変そうだな。

 と、フルタイムの意味も考えずにおれは思った。


「フルタイムじゃなくて働くならいいんだ」

『一般的に大多数の会社は、営業時間が9時から5時までなので、フルタイムとはおよそそれに通勤時間を足したものです。時間を短くするとパートタイムや非正規雇用になったりして、給与や待遇を下げられたりするので、できれば避けたいところです』

「9時から5時までって、結構長いよね」

『そうですね。そういう、いわゆる会社ではない場所で働く場合は、また違うでしょうけれど』


 会社ではない場所?

 えーと……


「漫画家とか」

『そうですね。イメージで言うなら、もっと長く働いていそうですけれど』

「うわ、そうか」


 短時間で簡単に働きたいなあ。

 そう思ってるうちはお子様だろうか。

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