第60話 夢が見たい

 家に帰って、なんとはなしに聞いてみた。


「あの後、ハジメどうしてる?」


 輝夜はいつものように明るい声で返事をする。


『滝夜さんと同じように、今日は入学式ですよ。まだ学校ですね』

「そっか……」

『どうしたんですか?』

「いや、……別に……」


 何て言ったらいいかわからない。特に理由はないから。

 いや、理由はあるけど、口にしたくはない、というか。


『滝夜さんは、夢とかありますか?』


 まるで読まれているかのような質問がくる。

 おれには情け無い返事しかできなかった。


「具体的には、まだ。特には……」


 夢なんて、どう想い描けばいいのか知らない。

 何かを諦めた訳でもないのに、挫折した訳でも好きなことがない訳でもないのに、おれには夢がない。


 それをおれは、悔しいと思えばいいのか?

 それともダメな奴だと思えばいいのか。

 夢がないおれは、光ることのできない星なのか。

 光ってる、夢を持って頑張ってる連中を、遠くから見てるだけの人間なのか。そしてそれは、悪いことなのか。


 別に悪くはない。

 ただ面白くないだけだ。

 そんなやつ、つまらないに違いない。

 そしてそんなやつのことをおれは、何とも思わない。

 そんなやつに、なりたくないだけだ。


「夢って、どうやって見るんだ?」


 そんなこと聞いてどうする。

 こうやって見るんですよ、とか輝夜に言われて、それをやってみるのか。

 努力して見るものなのか、夢は。


 おれは、夢が見たい。

 突然光が射したような、眩しい気持ちで夢が見たい。

 これだ、と確信に満ちた思いで胸を熱くする瞬間が欲しい。

 それだけを握りしめて、周りも見ずに突っ走る激しさを感じたい。

 誰かの紹介じゃなく、まるで奇跡や運命のように出会いたい。

 夢に。


 欲すれば努力せよと、そういう目に見える道じゃなくて、むしろ欲することも知らずに打たれたい。

 こんな風に飢えている、この自覚は辛い。

 知りたくなかった。

 でも本当のことだ。

 おれは夢を持ってない。

 めちゃくちゃ欲しいけど、まだ。


 いつか抱きたい。

 まるで恋人のように。

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