第52話 ハジメ少年の動画

「ハジメ少年の動画が見たい」

『はい』


 すぐに再生される。

 うむ、見た顔だ。


 彼によりこのプロジェクトは更なる注目を浴びるだろう。

 前回却下されたが、会場内のウェブ禁止を再度提案しよう。


「次回からのウェブ利用禁止を再提案します」


 この言葉は即座にメンバー全員で共有される。


「前回も言ったじゃん、スマホ全回収する訳に行かないじゃん」

「彼らの電波だけカットするのは?」

「できんの?」

「可能です」

「撮影は関係ないじゃん」

「やっぱケアウグイスじゃなくてアプリにしとけば良かったって」

「持ってない人もいる」

「あげちゃえば良かったって言ってんの」

「その話は終わってる」


 榎戸はそこまで聞いて、決定した。


「電源を落としてもらおう。それなら管理できるな?」

『できます』

「決定だ」


 この場にいるのは榎戸、真下を含めて5名だが、話し合いはこんな風にスムーズに終わる。


「そんなことより記者対策だよ。一斉にネットは騒がしくなるぜ」

「決定的な不祥事が起きなければ良し、だったでしょ」

「ないことないこと書かれちまうじゃん」

「その為の公式アカウントだろう」

「#今日のフェイクニュースだ」

「毎日かよ……」

「がんばるのはウグイスじゃん」

「そりゃそうだけどぅ……」

「ムキになって否定はしない。淡々と、1日一回でいい。それが証拠にもなる」

「例のユーチューバーは? 放っとくの?」

「もちろんだ。予定通り、指導も注意もしない」

「自主性を重んじる、ね」

「間違えても踏み外しても、経験」

「流石うさ衛門先生」

「オホン」

「うさ衛門先生そんな威張り方しない」

「確かに」


 うさ衛門先生のモデルになった浜屋弘ことはまやんが頷いた。

 そのタイミングでポン、と通知音が鳴り、ウグイスが『新しい動画が公開されました』と言った。


 印象的な音楽が数秒流れて、ハジメが登場する。


『また会ったね、大人計画の情報を提供する僕はハジメ、相棒はクレア、よろしく』

『よろしくね』

『今日は何が起きたかお伝えする一回目。

 君たちの中には、突然結婚相手を決められた人がいるかな? つまりはそういうことだ。でも拒絶する人は少ないね、リアリティがないから。僕らは中学生だし実際は結婚することはできない』


 ハジメは落ち着いている。ちょっと慣れてきたかも。


『それに降って湧いた婚約者って、ドキドキするシチュエーションだ。最終的にはほぼ全員が受け入れた』


 そういえば漫画でもドラマでもよくある話だ。思春期の青少年には、夢みたいな話。


『ところで僕らの10人に一人はLGBTだって知ってる?

 もちろん僕らは思春期に入って間がなく、性的志向やアイデンティティが確立していないから、はっきりとはしていないし人数は諸説ある。

 でも中にはちゃんと自覚があって、そういう人が大人計画でどうだったか聞いてみたよ』

「そう来るか」


 誰かが呟く。わざわざマイノリティから攻めるスタンスなのか、面白い。


『クレアを通じて11名のLGBTに話を聞くことができた。質問は3つ、相手は誰だったか、どう思ったか、共通の内容だったか』


 流れるように端的にまとめられている。


『ところで、一つの部屋には2組から23組の中学生が配置されていたんだが、彼らLGBTの人たちも大人数だったり少人数だったり、特に偏りはなかった。

 自治体に住む14歳の人数によるところが大きい。つまりLGBTだからといって特別扱いはされなかった』


 その通り。


『第一の質問、相手は自分の性的対象だった、という人は8割に上った。

 僕らは事前にアンケートに答えている。そのアンケートにより推察していると思われる相手を、用意している場合としていない場合、それには自治体に住む14歳の人数に関係があった。

 単純に、存在していれば組み、いなければ仕方がないと考えたと思われる』


 これもその通り。地域にいない人間をペアにすることはできない。


「2つ目の質問、どう思ったか。

 多かったのは『へえ』、つまり少しの驚きと少しの感動、グラフならどちらでもないよりは好意的、というところだ」


 そういうアンケートはしないと決めていたが、まさか生徒がやってくれるとは。

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