第51話 GATEからの出向者

 霞ヶ関、厚生労働省大臣官房特別政策課企画室。全国一千ヶ所の会場モニタ、及び音声、監督AIや関連施設との連携の為に、およそ予算が下りる筈もない金額の設備がここに用意されている。


 大容量のデータを通信し保護する為のセキュリティは、ただの一部署であるこの大臣官房特別政策課企画室には到底保証されるべくもない。

 それをクリアするのが、ケアウグイスを提供している世界的仲介会社GATEの技術である。


 室内はさながら映画で見たようなCIAの監視ルームのようで、しかしそれは部屋の一面に過ぎない。

 残る大半を占めるのは、官庁にありがちな雑然とした事務室兼会議室である。

 榎戸は二年前からここでチームを率い、昨日初舞台を踏んだプロジェクトを進めてきた。

 柳真下はGATEから出向してきた技術者で、この中では一番若い。


「今日はノートラブルのようだな」


 トラブルの兆候が少しでもあれば、等分されたモニターが拡大される。今はそんなこともなく午後の部が平穏に進んでいるようだ。


「ぅぉかえりーっす」

「ただいま」


 無表情でも必ず挨拶はする、真下は良い子である。ただ言われた側がいつも、「お、おう……」となるだけだ。

 昼食が遅くなったのは単純に、交代で食べに行くのが一番最後になっただけだが、真下が一緒に食べるのはいつも榎戸だけである。


 それは誰からも誘われないか、誘われても断ったり微妙な空気になって流れたりで、決して好きでくっついている訳ではない。

 そもそも真下は、一人で食べたっていいのだ。

 それをいちいち構ってくるのが榎戸なのである。


 先程の会話で、教育係だったことを初めて知り、それであれこれ言うのかと得心がいく真下なのであった。


 このプロジェクトに参加した理由は技術的な面が大方の理由だが、確かに世間知らずの自分には教育係が必要であろう。勢い上司である彼にその役目が押し付けられたというところか。


 子どもの頃から知っているが、いろいろ任されがちだな、榎戸。


 冷静な表情でそんな風に憐れまれているとも知らず、榎戸はあれこれ指示を出している。真下は自分の仕事に戻った。


 彼女に用意された端末は特別製。身につけているケアウグイスと連動し、最近開発されたGATEアプリを用い、いついかなる時でも操作可能になっているスパコンである。キーボードで入力する必要さえなく、口頭での指示されあれば事足りる。


 ちなみに榎戸はケアウグイスを所持していないが、スマホにはGATEアプリが入っている。


『お帰りなさい真下さん』


 座ると挨拶と共にモニタが起きた。真下はいつものように問い掛ける。


「ただいま。新規の更新は?」


 すべての研修プログラムは既に完成しており、スケジュールも会場も組み上がっているが、初回の研修でセクシャルカテゴリに変更があったりトラブルがあったりして、細かい調整が必要になることもある。

 だがそれも確認しながらの手作業による手配をしたりはしない。おおよその問題は半自動で修正される。


『新しい更新はありません』


 新しく問題が発生すると、それを修正する。管理者である真下がそれをチェックする。

 そもそも進行の大半が自動で進むように作り上げたプログラムは、何度もロープレを行なった努力の結果だ。


 人間が管理するのは主に会場の設営、初回に行われる血液検査、配布物の用意など。

 予算が厳しいこともあるが、人員確保も厳しいご時世にこのような事業を継続して行うには、このような方法しかなかった。


 そして、その技術が真下にはあった。いや、GATEにと言うべきか。

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