第37話 さてなんの話だったかな?

「良かったね」

「うん」


 ずっとあっち聞いてたけど、彼女も聞いてたのかな。おれのこと、待っててくれたのかな。


「ごめんあっち聞いてて」

「ううん、わたしも気になって。遠いから、話しながらじゃ聞こえないし」

「みんなも結構聞いてたもんな」

「うん。ちゃんと話、終わってないの覚えてるから大丈夫」

「え?」

「え?」


 ヤバい!

 何の話してたか覚えてない!


「まさか覚えてないの?」

「……はい……ゴメンナサイ……」


 おれは子ひつじのように震えた。子ひつじって震えるの?もこもこしてる気しかしない。


「指輪よ、ゆ・び・わ」

「あー、指輪……」


 が、何だっけ。


「指輪には婚約指輪と結婚指輪があって、婚約指輪は結納のなごりだから必要ない、ってわたしが言ったらマコが女の夢! って言い出して、もらうならお返しがあるって聞いたところ」


 すげえ、見事な要約。

 というか、既にマコちゃん呼び捨てなんだ……


「という訳でわたしは婚約指輪要らない。でも普段着ける結婚指輪には思い入れがある。結婚式には必要だし」

「あー、母さんもしてるな~……」


 金色の、何の飾り気もない指輪。

 それが元は美しい模様のある指輪だったことなど、自分が実際手にするまで想像できないのだった。


「思い入れがあるから、じっくり選びたいし貴方も気に入るものじゃないと嫌。つまりずっと着けててもらわなきゃ嫌」

「ハードル高ぇ~」


 指輪なんて縁がなさ過ぎて、したいとかしたくないとか思うのかすら分からん。


「大人になって、身近にしてる男性を見たりしたら変わるかも」

「かもね~」


 ある日友達が、キランとさせてたら……羨ましいとかかっこいいとか、思える日が来るのかもしれない。


「それで結婚式だけど、本当にやる気ない?」


 蒸し返しの術!


「……めんどくなかったら……」

「簡単ならいい?」

「……い、いい……、簡単って例えば?」

「海外行って家族だけ呼んで式だけ挙げるとか、式だけ挙げて披露宴しないとか、披露宴じゃなくてお食事会にするとか」


 簡単じゃない!


「何日くらいかかるもの?」

「え? 準備に?」

「全部含めて」

「え? 知らない……」


 そりやそうだ。


『すべてを含むもので一年くらい、式場を押さえるのと、招待する方の予定を調整するのがメインですよ』


 久しぶりのケアウグイスが教えてくれる。


「いいい一年んん?」

「かかるわね……押さえにくい会場ならもっとってことよね」

「会場ってホテルとか? ぐわ~金かかりそう~」

「そうね、お金のこともある。それを払ってでもやりたいか……時間もお金もかけて、どうしてもやりたい人がするものよね」


 女優である彼女なら、お金はたくさんあるのかもしれない。でも、二人が出る式なのに彼女だけたくさん出すのは嫌だろう。さっき誰かが言ってた、その先の生活にだってお金はかかるし、するって決めた時の財政状況にもよるなあ。


「うん、わかった。とりあえず、今は式、しなくていいや。大人になった時の状況によるって分かったから」

「諦めるってことじゃないよね?」

「違う。結婚式って、その時の状況に左右されるってこと。ウエディングドレスは着たいし家族や友達には祝福されたいけど、どういう風にかは、その時決める」

「そうだな。その頃にはスーツなんとかなってるかもしれないし」

「あははそうだね」


 楽しそうな彼女は、見ててやっぱりドキドキするなあ。

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