第76話 3人

「侵入者だ!」

「くそっ! 昇降機が破壊されたぞ!」

「迎え撃て! グロリオ様の元へは行かせるな!」


 クリュー達は黄金の城へ突入した。リディは両手に拳銃を持っている。この場で最も制圧力が高い。


「昇降機破壊はあたし達じゃないっつーのよ」

「大勢の兵士が居るな。だが銃持ちすら居ない」


 剣や槍を持って突っ込んできても、彼らにはあまり意味は無い。雨のように弾丸を降らせて、瞬く間に制圧していく。


「くそっ!」

「オルヴァ!」


 だが、オルヴァリオだけは手が止まっていた。その剣を抜いて構えてはいるが、刃は未だ、血のひとつも着いておらず綺麗だ。


「無理しなくて良いわよ。あんたは父親だけ斬りなさい」

「…………いや、何の為にここへ来たのか分からないだろ」

「殺せないなら、斬らなくて良い。剣の腹で叩け。そんな鉄の塊をぶつけられれば、斬られなくても気絶する」

「……!」


 クリューのアドバイスにより、オルヴァリオの剣は遂に人間相手に振るわれた。だが刃は使わない。剣を『鉄の板』として、相手を叩いて周っていく。


「それで良い。肉厚の剣は盾にもなる。先頭を頼むぞオルヴァ」

「……任せろ」

「…………」


 クリューは、オルヴァリオのことをよく理解している。同郷というだけではない。彼らは親友なのだ。

 リディは、ふたりを見てにこりと笑った。


「階段はどっち?」

「いや、この城専用の昇降機がある。一気に天守へ上がるぞ」

「この高さを階段無しで上がれるの? さっすが古代文明!」

「ここは未開地『断崖線』の上。目に入るもの全てが『超特級トレジャー』という訳だな」


 戦意の残った者は居なくなった頃。3人は小型の昇降機へ乗り込んだ。この建物の金属は全て黄金で造られているようで、昇降機の手摺も黄金だった。


「どんだけ贅沢なのよ。ていうかこれ本当に金なのかしら」

「いや、未知の金属だ。『黄金水の壺』の水を固めて加工してある。古代文明の根幹かもしれないな」


 オルヴァリオが昇降機を起動させる。城は高い。これまで見てきたどの建造物より高いのだ。いちいち階段など使っていられない。


「……あんたらに付き合ってこんな所まで来ちゃったわよ」


 リディが呟いた。昇降機から、ガラスの窓を通して外の景色が見える。街灯の光がぽつぽつと見える。居住用の建物からも電気の明かりが見える。現代には無い『夜景』である。それは初めて見る彼らの目には、幻想的に映っている。

 気温は低い。雪は見えないが、吐く息は白かった。


「そうだな。サスリカと『氷漬けの美女』を取り戻して、彼女の氷を解かす。そうしたらどうする?」

「俺はまだまだ冒険し足りねえよ。まだ一度も、自分でトレジャー見付けてねえ」

「あたしだって。サスリカの問題も解決してないし。ていうか家捨てて何も無くなったのよ? もっともっと稼がなきゃ」


 クリューとオルヴァリオとリディ。始まりはこの3人だった。


「バルセスで遺跡を探索した。猛獣も沢山狩って冬を越した。ガルバ荒野へドラゴン討伐にも行った。そして西方大陸を離れ、中央大陸へ。その最大の秘境、断崖線の上。……結構冒険したんじゃないか」

「足りねえって。俺は人生懸けてやりてえの」

「でもあんた達まだまだよ。すぐ死にそう」

「じゃあ一緒に来てくれよ。クリューもリディも」

「…………そう、だな」

「馬鹿あんた。クリューは家のこともあるじゃない。トレジャーハンターやってるのは『グレイシア』の為に一時的なのよ。今回の件が終われば、クリューは就職でしょ」

「あっ」

「…………」


 ゴウンゴウンと、昇降機の音がする。


「……まあ、終わってから考えれば良い。今は戦いに集中しよう」

「……そうね」

「ああ」


 その時。昇降機が急に停止した。


「うおっ!?」


 ガクンと衝撃が来る。このままでは落ちそうだ。彼らは昇降機から脱出し、途中の階へ降りた。


「なんだ? 故障か?」

「いや、あいつだ」

「!」


 その階には。

 広い部屋だった。何も置いていない殺風景。壁は全面ガラスで、星々がよく見える。


「『クリュー・スタルース』ってのァどいつだ」


 男がひとりだけ、立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る