第75話 海を割る剣

「せーの♫」

「!?」


 ズドン。

 大地が割れた。足元は崩れ始め、そのまま瓦礫に埋められてしまいそうになる。突如、どこからか攻撃を受けたのだ。


「リディ!」

「っ!! マルっ!」


 クリューはなんとか瓦礫を登り、避難の遅れたリディの手を掴んだ。リディは背後に居たマルを気遣ったが、そこは既に陥落していた。


「うおお! 危ないぞ! オルヴァ!」

「俺は大丈夫だ! サーガとマルは!?」


 ゴゴゴゴと地響きが続く。砂塵が巻き起こる。街灯はドミノ倒しのように折れ、そこから停電していく。この、昇降機の周囲だけ地震が起きたかのような被害だった。


「サーガ! マル!」


 揺れが止まった。なんとか回避できたクリュー達は、瓦礫の山に向かって叫ぶ。エフィリスとリシスは既にこの場に居ない。


「……無事です! お気になさらず!」

「! サーガ!」


 瓦礫の向こうから、サーガの声がした。


「こちらからも、城へ迎えるよう迂回します! あなた方は止まらず、城へ!」

「……! 分かったわ! 気をつけて!」


 何が起こったのかは分からない。だが、なるべく人数を分けたくない少数だったのが、さらに分断されてしまった。


「……行こう。オルヴァ、案内を頼む」

「ああ。こっちだ」

「マル。大丈夫かしら」

「……大丈夫だと信じるしかない。あのふたりも『特級』なんだ。こんな死線、何度も通って来てるさ。少なくとも俺達よりは」

「あたしは結構経験してるけど」


 ここに残っても仕方ない。クリューとオルヴァリオ、リディは城へ向かって走り始めた。


 残された、サーガとマルは。


「良ーし! 分断、成ーこう♪」

「…………『これ』があるから、全員で固まっていたかったのですが。エフィリスとリシスさんの戦いに気を取られてしまいましたね」

「……サーガ! 大丈夫!?」


 自身の身長の倍以上もある巨大な剣を持つ、少女が居た。それを睨む、サーガ。だが彼は先程の瓦礫で頭と肩、足に怪我を負ってしまっていた。大きな武器を抱えるマルを守る為だ。


「私のことはお気にせず。どうやら私とマルで、あの少女を無力化しなければならないようです」

「……! あれは何? あんなのが攻撃なの?」


 少女は巨大な剣をぶんぶんと振り回して遊んでいる。こちらも『遊び』なのだ。今、もう一度攻撃をすれば確実にサーガは殺せる。だがしない。楽しそうに笑っている。


「特級トレジャー『海を割る剣』。ローゼ帝国から盗んだ武器ですね。いやはや、威力と範囲が個人の出せる域を遥かに逸脱している」


 ネヴァンから被害のあったトレジャーは、全て把握している。だから、これを警戒していたのだ。なのに、してやられてしまった。まさか、自分達の街ごと攻撃してくるとは。


「さー遊ぼう♪ 侵入ーしゃなんて初めてでわくわくどきどきしてるんだからっ♫ あっ。わたしはミェシィ! よろしくねっ♫」

「……あの超範囲の理不尽攻撃が、エフィリスや皆さんに向けられてはいけない。さあマル立ちなさい。やりますよ」

「ぅ……! だって」


 マルは、狙撃銃を杖にしてなんとか立ち上がる。サーガも瓦礫を支えにして、ふらふらと立ち上がった。


「やれやれ。敵に見付かっている状態から、『特級トレジャー武器』持ち戦士との正面戦闘とは。戦闘能力が無い上に負傷した私と、居場所が割られていては意味の無いマルで、勝てますかね」

「…………ぅぅ」

「やるだけやるんですよ。マル、今から作戦を伝えます。しゃんとしなさい。私達は『特級』。相手はトレジャーを盗む悪党。命を懸けるんですよ。『トレジャーハンター』として」

「……ぅっ。うん。負けない。早く倒して、エフィリスを追わなきゃ」

「その調子です」


 震えながらも、マルは小さな拳を握り締めた。


「そろそろ良ーかな!? せーのっ♫」

「!!」


 ズドン。

 再度、家ほどの大きさの剣が振り下ろされ、そこから扇状に『破壊』が拡がっていく。昇降機から何から全て巻き込んで、何もかも崖の下へ崩れ落ちていった。

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