第73話 ネヴァン武僧兵長

 古代都市。遺跡である。いくら高度な文明であったとしても、1万年も保存状態良く保てていることは無い。古代人達は、建築の際に1万年後のことなど見据えていなかったからだ。

 オルヴァリオ・ギドーの父親である現ネヴァン商会指導者のグロリオ・ギドーがこの場所に辿り着いたのは、30年前である。

 彼らはずっと、機会を窺っていた。教祖であるカナタ・ギドーの宿願を果たす機会を。

 『氷漬けの美女』が発見された10年前から、虎視眈々と狙っていた。ルクシルアに近いラビアに家を移し、計画を練っていた。ラビア王国に居を構えながらゴルザダ平原へ頻繁に向かっていた為に家になかなか寄り付かず、子オルヴァリオとの確執はそこで生まれた。


「……その『氷漬けの美女シロナ・イケガミ』と『オルヴァリオ坊っちゃん』の合の子が、次代のネヴァンを導く『御子』となる訳かァ」

「そうだ。古代文明を再興し、そこの頂点に君臨する。世界はより良く発展し、我々はそこで高い地位を得る訳だ」

「ふーふふん♪ 良ーわね! この戦争さえ勝てばもう人を殺さなくて良いし、平ーわな世界で贅ーたくできる♫」


 彼らは遺跡を改修し、都市に生まれ変わらせた。現代人が居住できるようにし、ネヴァン信者を入植させた。そこでは労働も最低限で食糧に困らず、特級トレジャーの力で現世界最高の暮らしを与えられた。信者はさらにネヴァンを信仰するようになり、加えてグロリオの持つトレジャーの能力で、『何でも言うことを聞くようになった』。

 信者の中から精鋭を選び、訓練を施し、強力な武器になるトレジャーを与えて。

 その中で最も強力な兵士を3人、都市の警備に当たらせていた。


 『ネヴァン武僧』兵長の3人。男性ふたりに、女性ひとり。


「で、『氷漬けの美女シロナ・イケガミ』の解凍にはあの人型古代遺物の力が必要で、起動させるのにァ『クリュー・スタルース』が必要だと」

「ふふーん♪ そいつを坊っちゃんが今から連れてくるのよね!」

「ああ。グロリオ様によれば——」


 3人は、都市の中心部にある巨大な黄金で建てられた城の中に居る。窓から、昇降機の入口が見える。


「ご報告します!」

「?」


 その部屋に、武僧がひとり入ってきた。


「昇降機の無認可稼働を確認! 下からの定期連絡も途絶えています! 侵入者の可能性が!」

「——グロリオ様によれば、『お仲間』全員で来るらしい。『クリュー・スタルース』以外は」

「殺して良し♫ でしょ!」

「ふっ。違うな」


 窓から外を見れば、確かに昇降機が動いている。今は夜だが、この都市は現代にはまだ発明されていない『電気』が使われており、夜でも活動でき、遠くも見える。つまり作戦として『奇襲』は、サーガが思うほどの成果は見込めなかった。


「必ず殺せ、だ」

「良ーね! 了ーかい♪」


 情報の不足。ネヴァン商会が持つトレジャー全ては、オルヴァリオも把握していない。信者でないオルヴァリオに、グロリオはそこまで情報を与えていない。これまで30年間、ネヴァン商会が誰にも見付からずに活動できていたのは、圧倒的な『情報力』があったからだ。オルヴァリオが裏切り、『炎のエフィリス』の側に付いたことなど既に筒抜けである。否、『裏切ること』は予測されていた。


「武僧兵長『黄金水のリシス』」

「『電光のビェルマ』」

「『海割りのミェシィ』」


 3人は立ち上がる。それぞれの持つ『特級トレジャー』を手に、部屋から出た。


「やり方はお任せかァ?」

「そうだ。速攻で潰しても良いし、遊んでも良い。まあ、油断して負けるようなら死刑だがな」

「あはーは♪ そーんなお馬鹿、居ないっしょ♫ 武僧のキミ、一般信者はしっかりお家に入れて、出ないようにしてね♫」

「かしこまりました!」

「危ないからね♪」

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