第31話 所有者
美術館のある都市から、馬車で2時間ほど西へ進む。そこはルクシルアの首都だった。『芸術と文化の街』の通り名に相応しい、建物や道も色鮮やかで派手な都市だった。街の至る所に石像や銅像があり、民家の壁にも絵画が飾られている。広場の時計の形すら、何かの作品のようだった。
「……目がチカチカするな。外国の都会は」
「慣れるわよ。飽きてくるし。……こっちよ」
リディの案内で進む。華やかな商店街を抜け、妙なオブジェのある公園を抜け。徐々に人気が少なくなってきた。大きな建物が増えてきたのだ。つまり、屋敷が。
「貴族街か。やっぱりお嬢様じゃないか」
「……違うわよ」
「?」
以前も同じことを言った。リディは自分が金持ちの家ということを否定する。だがコレクターという職業や資金、教養、弓や武器の技術など。高等な教育を受けていなければ身に付けられないものをその若さで持っている。金が無ければ勉強ができないということを、クリューとオルヴァリオは知っている。
「ほんとは、連れてきたくなかったんだけどね。もうしょうがない。『グレイシア』の件はあたしにとってはどうでも良いけど、やっぱり国のシンボルだしムカつくし。乗り掛かった船ね。付き合ってあげるわよ」
「それはありがたいが……」
リディはどうして協力してくれるのか。コレクターとしては何も利益にならない。
「あのね。『サスリカはあたしが見付けた』のよ。ハンターの常識じゃ、あたしのトレジャーの筈よ」
「…………ああ。そうだな」
そんな疑問に答えるように、リディが振り向いた。腰に手を当てて説教のポーズだ。クリューもオルヴァリオも立ち止まる。
「『サスリカによってもたらされる利益』はあたしも享受できる筈でしょ」
「ああ」
「でも、本人はクリューを『
「……リディ」
「なによ」
サスリカの存在は、大きい。それは誰しもが理解している。強く便利で従順。それだけで価値が高いのに、古代文明の知識も持っていると言うのだ。
「当然だ。俺はサスリカを『自分の物』とするつもりは無いし、した覚えもない」
「!」
クリューは宣言した。リディも思い出す。エフィリス達に紹介する際、常に『ウチのサスリカ』と言っていたことを。
「だがサスリカ。お前は俺の所有物でありたいのだろう」
『ハイ。ワタシは人間ではありませんので。ますたーの所有物ですから』
「つまりだ」
「なによ」
「『1万年前の基準』だと俺の所有物。『現代の常識』だとリディの所有物。そして俺は、基本的には『本人は自由で良い』と思っている」
「……!」
サスリカは。機械人形は人か物か。今の時代にそれを定義した法律など存在しない。
「……そりゃ、あたしだって『物』なんて扱いしたくないわよ。だけど『トレジャー』として、主張できるなら所有権を主張したいわ。この子ひとり居るだけで仕事の効率が全然違うもの。だけど、本人はクリューと離れたくないんでしょ? だから困ってるんじゃない」
「リディ」
「だからなによ」
横から、オルヴァリオが口を挟んだ。彼から見れば、至極簡単な話だった。岡目八目。何を悩んでいるのかと。
「一緒に行こう。それなら『サスリカが誰の物か』なんて問いは起きないじゃないかよ」
「!」
この件だけでなく。この冒険だけでなく。
これから一緒にトレジャーハンターをすれば解決じゃないかと。同じチームとして。
「それは良いなオルヴァ。良いことを言った」
「だろ?」
「なっ……」
その提案は、リディからすれば意外であったらしい。
「『仕事の効率が全然違う』んだろう? 悪い話じゃない筈だ。『どうしてもサスリカとふたりでやりたい』なら、今度はサスリカと交渉しなければならないと思うが」
「むっ。…………確かに」
『リディ様』
「なによ」
サスリカは、空気も読める。リディの手を取って、両手で握る。
にっこりと、微笑む。
『旅は、皆でした方が楽しいです』
「……!」
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