第3章12話 トウカツジゴク
「もっと早く!予備動作を短縮して!狙いが甘い!」
午後。俺は倉庫から引っ張り出してきた
一時間以上ぶっ通しで素振りをさせられ、鞭の振り方をようやく覚えてきたかと思えば、今度はいきなりの実戦形式である。
10メートル離れた位置から迫る祐希に対して、俺は必死で鞭を振るう。
いやー。必死。今俺酷い顔してんじゃないかな。だって祐希鞭を全部避けるんだよ?素人とはいえ、鞭のスピードってとんでもなのに。全部軌道を予測して避けるんだもん祐希。
地を這うような姿勢でホラー映画ばりに迫ってきて、挙句捕まったら投げ倒される。
それを何回も何十回も繰り返していると、もはや恐怖しか湧いてこない。怖い。なにこれ怖い。
「ひでぶっ!!」
通算33回目の悲鳴。何より恐ろしいのが、彼女、絶妙に痛くないように投げるのである。三半規管を揺さぶられ、地面に叩きつけられた衝撃を全身に味わう。それでいて、痛みや外傷は残らない。ただ、重なっていく連敗記録にプライドが傷つけられるだけ。
投げられても、投げられても、体は動く。体が動く限り、休みなく続く訓練という名の責め苦。地獄ってこういう場所のことを言うのかなぁ……。
「なんで鞭を選んだの?」
「近距離じゃ格上とは戦えないから!」
「じゃあ距離詰められたら意味ないよね?」
「うーぁ うーぁ ぅーぁ…」
「他に理由は?」
「選べる手段が多いトリッキーな武器だから!」
「君さっきからわかりやすい動きばっかしてるけど?」
「うっ……ぐぺぺぺぺーっ!」
「っと見せかけてバックアタ——ック!!」
「わかりやすいって」
「グ………パァー!」
……と、俺が密かに迷断末魔シリーズをコンプリートしかけた頃。
「そろそろ休憩する?」
「そろそろ休憩するっ!!」
ようやく差し伸べられた救いの手を、恥も外聞もなく掴み取る。訓練中の祐希、カケラも笑わないから怖いんだって。
にぃー、と、祐希はようやく笑みを見せ。
「元気そうだね。あと10分続けようか」
「鬼畜だぁ——っ!?」
─━╋ ☦︎︎ ╋━─
「ぜぇー、はぁーっ」
うつ伏せになって倒れる死に体の俺。ちょいちょい、とつつかれて振り向けば、
「なんで短剣で人つつくかなぁっ!?」
背中に短剣が突き立てられていた。
「なんとなく、こう……イタズラしたくなっちゃった☆」
「イタズラで刺殺されそうになる側の気持ちも考えてね!?」
ちょっと今日叫びすぎたかな。喉が痛くなってきた。一日十絶叫までを守りましょう。基準がおかしい。
「……疲労で頭が上手く回らない……」
「君の初訓練祝いに、1つプレゼントだよ」
そう言って祐希は抜き身で持っていた短剣を俺の顔の上にかざし、
——危ない危ない取り敢えず体起こさせて!
「鞭術に加えて、短剣術の訓練をプレゼントだ」
——半ば起き上がりかけた潤の体が、再び力なく地面に落ちる。
彼の口から、魂の抜ける音が聞こえた……気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます