第3章7話 ヒーローは遅れて、
「原初の武器、石ころの力をみせてやるよ」
そう啖呵を切ったはいいものの、未だに勝ちの目は薄い。
魔物とて馬鹿ではない。自ら攻撃を仕掛ける以外で俺を間合いに入れることはない。
魔獣も、俺も、互いに早くも息が上がっている。やはり魔獣は、戦闘前から既に体力の限界が近づいていたようだ。
狙い目は魔獣が攻撃を仕掛ける瞬間。
神経を研ぎ澄ませ、魔獣の筋肉の動きに注目する。
一瞬。魔獣が前足に力を入れる。その微かな動きを逃さず、俺は石を高く構え——
——投げた。
真正面に突撃した魔獣は予想外の石弾を回避しきれず、鼻面に重い一撃を喰らう。大きなダメージを与えたものの、しかし戦闘不能には至らない。
一見悪手に見える、武器を手放す行為。
「石ころの利点その一。そこら辺にごろごろ転がってる!」
比較的浅く埋まった石を見繕っては素早く引き抜き、距離をとって立ち回る。
次弾を構え、魔獣の隙を窺う。
石弾により一瞬怯みを見せた魔獣が再び速度を上げて駆け走る。
その隙を狙——
——隙が、無い。
魔獣は、常に姿勢を低く、足を地面から浮かせずに走る。すぐにでも回避ができるようこちらの動きを見据えて。
俺は即座に構えを変え、魔獣をギリギリまで引きつける。
「石ころの利点その二。投げてダメなら殴ればいい!」
地を這うように駆ける魔獣を見据えて腕を振り下ろし——
肝心要のその攻撃を空振った。
魔獣の跳躍が想定より幾らか高かったという、ただそれだけの話。
正確には、肩の上に構えた石を振り切ることすら叶わず。
跳躍の勢いのまま、魔獣に押し倒される。
仰向けに倒れた俺に、魔獣は全ての体重をかける。
その体重によって俺は地に縫い付けられてしまった。胸に爪が食い込む。
魔獣を振り落とそうともがくが、魔獣は小揺るぎもしない。
魔獣の
「くそ……っ!」
喉笛に迫る顎に、手に掴んだままでいた石を突っ込む。
拳より一回りも2回りも大きな石を口に詰め込まれた魔獣はその勢いを失い、一瞬の隙を晒す。
しかし俺の手の甲にも魔獣の牙が小指の幅ほども突き刺さり、激痛のもとはまた一つ追加。
もう片方の手を使って魔獣の口の中に石を更に押し込む。
そして——
そして。左方から飛来した火球によって、魔獣が吹き飛んだ。
火球に遅れて、祐希が飛ぶ様な勢いで現れ、地に体を打ちつけた魔獣にすかさずとどめを刺す。
俺は、仰向けに転がったまま、
「お前、俺のこと好きすぎじゃない?」
祐希の魔獣に対するとんでもない殺気に身震いするのだった。
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