8.はじめてのじっせん

「え? 青葉……?」


 墓地でいきなり俺たちに声をかけてきたのは、青葉だった。フェンシング部主将、高校3年生青葉京介。

 こんな墓地とは縁もゆかりもなさそうな、ていうか今何時だと思ってる! こんな時間にこいつと遭遇するとか誰が想像できるというのか。


「そうだ。お前の愛しい青葉先輩だぞ」


「愛しい言うな、気色悪い」


 その言葉を聞いて、あぁこいつ間違いなく青葉だわ、と確信するが、確信すると同時に何故こいつがこの時間にこの場所にいるのか疑問が湧く。いや、俺も何故ここにいるかって聴かれたら反論のしようがないのだが。


「何やら、美人を連れての来訪のようだが。こんな真夜中に墓地に用事か? 真宮寺」


 青葉に美人と言われた青龍は軽く目を切る。何も話すことはないと言った顔をしている。いや、そこはちょっと助け舟ぐらい出してくれてもいいんじゃねーかな……。


「ちょっと墓参りに……」


 自分でも苦しすぎる言い訳かと思うが、流石にここで魔法の訓練をしていましたなどと答えられるはずもない。魔法使いの掟とか知らない俺だが、それでも魔法というものを広めてはいけないと言うことぐらいはわかる。でなければ、魔法というものはもっと世界に広まっているものだと思うからだ。


「苦しい言い訳だな」


「あぁ、俺もそう思う」


「ま、隠すことはないぞ真宮寺。お前がここで人魂退治をしていたことは誰にも話さない、っていうか、俺がやるつもりだった仕事だったからな。俺としては何も手を煩わすこともなく仕事が終わった訳だからな。むしろお前に感謝してるぜ」


「なん──だと?」


 こいつは今なんて言った? 俺がやるつもりだった仕事? つまるところこいつはこっち側・・・・の人間だったってことか?」


「お前、こっち側の人間だったんだな……」


「それはこっちの台詞だ真宮寺。いやはや、まさかまさかだよ。お前も魔法使いだったとはね。仲間が増えて嬉しいやら、お前がこっち側にいてしまって悲しいやらだ」


「も、ってことはお前も?」


「おっと、今のは失言だったか。一応言っておくと俺は魔法使いじゃない。俺は魔剣士だ。魔力は使うが魔法は使えない」


 魔剣士とか何それかっこいい。なんとも厨二ソウルあふれる素敵ワードではないか。魔力を剣に纏わせて戦うんだろうか。技能習得オールラーニングがあるなら俺にも使えないかな? 是非とも教えを乞いたいもんだ。


「まぁ、青葉の事情はわかった。じゃあ、俺は明日学校もあるのでこの辺で……」


「まぁ、待てよ真宮寺。言ったろ? 俺と遊んで行かないか、って」


 そう言って青葉はいつも使ってる模造刀とは違う細剣を鞘から引き抜く。いつもと違うというのは見ればわかるんだが、これなんていう剣なんだ? 細剣は種類が多くてよく分からん。

 しかし、大事なのは剣の種類が変わったことではなく──、


「お、おま!? それ真剣か!?」


 遠目ではっきりわかるわけではないのだが、いつも見るものとは違ってそれには刃が付いていた。


「刀剣所持の許可は得ているぞ?」


「そういう心配をしてるんじゃねー! ていうか、真剣を向けるとかお前本気か!?」


「なぁに、ほんのお遊びさ。お前の実力ならどうとでもなるだろう。さて、俺を楽しませてくれよ!」


 言うなり、青葉は鋭い突きを繰り出してくる。俺はその軌跡を見るなり、横に回避する。返す刀ですぐさま追撃に移る青葉。

 今度はしゃがんで躱すが、その体勢では次の追撃を避けることができない。


「『マジックシールド』!」


 第二位階の古代魔法を発動し、俺の目の間に魔法の盾が出現する。

 一瞬、青葉の剣がそれに遮られるが、すぐさま砕け散る。

 だが、その一瞬の隙があれば十分だった。俺は大きくバックステップをし、青葉から距離を取る。


「どうした? 避けるだけでは勝てないぞ?」


「お前、俺は丸腰だぞ? 丸腰の相手に真剣で斬りつけるのはちょっと何か違うんじゃねーかなって」


「何を言う。お前には魔法があるじゃないか? しかも第二位階を無詠唱で使えるほどの腕前だ。それぐらい使えるなら俺に対抗する魔法もあるだろう?」


「そもそも、なんで戦わなきゃならん。俺にはお前と戦う理由がない」


「何度も言わせるな。遊んで行かないか、って言ったろ? これは遊びさ。大丈夫、お前が怪我してもちゃんと治療してやる。魔法は使えないが治癒術式は得意だ。腕がもげようが、生きてさえいればちゃんと治してやる」


 ダメだ、こいつ完全に話を聞く気がない。元から、俺の話あんまり聞かないやつだったが、ここでそれを再び発揮しなくても。

 しかし、俺が割とピンチだってのに青龍のやつ大人しいな。

 そう思い、チラっと青龍の方を見るが、ニッコリと微笑み返されただけだった。

 そうかい、これも実戦訓練って言いたいわけか青龍のやつは。ええい、こうなったら腹括ってやる。


「分かった。こっちも出し惜しみはなしだ……! 『マジックミサイル』!」


 そういうや否や、構えもせずに中空からいきなりマジックミサイルを放つ。

 相手の不意を突く作戦だが、こんなもので仕留められるとは思っていない。

 青葉は体捌きだけで避けると、俺に向かって突進してくる。

 って避けた!? 嘘だろ、マジックミサイルは追尾するんだぞ!? なんか、魔法的な防御でもしたのか!?

 俺がその事実に動揺していると、青葉は左上段からの袈裟斬りを仕掛けてくる。


「っ! 『マジックシールド』!」


 なんとかの二つ覚えでもう一度魔法による防御を行使する。


「同じことをしても!」


 青葉がそう言いながら剣に力を込めるが、俺の狙いは前のような防御からの逃走ではない。


「『クリエイトウォーター』!」


 シールドが壊されるより早く、俺は次の魔法を行使する。

 クリエイトウォーター。文字通りただ水を生み出すだけの、生活魔法と言っていいようなおよそ戦闘向きではない魔法だ。


「わぷっ!」


 だが、それでいい。この上なく俺に近づいた状況で青葉は俺が生み出した水を避けることができず、一瞬目を閉じる。その一瞬にかけ、俺は次の魔法を行使する。


「『ライトニング』!」


 バヂン!!!!


 強烈な電撃が一瞬で青葉の体を駆け抜ける。青葉の体はその威力を受けきれずに後方に飛ばされる。


「ふぅ」


とりあえず死んでないとは思うのだが、青葉は動かない。これやっちまったか?

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