7.特訓特訓、また特訓

「『エナジーバースト』!」


 辺りが寝静まった、草木も眠る丑三つ時。俺は近所の林にきていた。なお、誠明神社とは関係ない場所である。誠明神社にも林はあるが、流石にあいつの家の近所で騒ぐわけにはいかない。

 あれから魔法がすぐに取得できると判明したので、青龍に新たな魔法をどんどんと教えてもらっているところだ。


「素晴らしいです、勇人様。よもや第五位階まですんなり扱えるようになるとは。この青龍、感服いたしました」


 そう言って拍手をするが、俺のこの習得速度はギフトとやらによるものなので、あまり手放しでは喜べないと言うのが本音である。


「しかし、こんな夜中にしか特訓できないのは不便だよな。なんか、隠蔽結界みたいに外に様子がバレない魔法とかないのか?」


 わざわざ夜中を選んで特訓するのだから、そんなものはないだろうと思ってただの雑談のつもりで発した言葉だったのだが、青龍からの答えは違った。


「いえ、そう言う魔法は一応あります。ありますが、一定以上の実力のある相手ならば、逆にそこには何かあるぞと言うのを知らせているに等しい行為ですので、あまり意味がありません」


 一般人相手なら意味はあるんですけどね。と青龍は続ける。


「一応意味があるんだったら、それやって昼間に──」


「いえ、今の段階ではこの国や他国の退魔組織に目をつけられたくありませんので。面倒でも夜中にやるのが一番なのです」


「組織って、やっぱり魔術協会とかそう言うのあったりするのか?」


「えぇ、ございます。世界規模で見て一番大きいのは魔導協会でしょうか。魔法が使える人間なら強制参加というめんどくさい協会です。所属してないとそれだけで処罰対象なので、今の段階ではバレたくないのです」


「え? じゃあ、それ俺が危険なのでは?」


 モグリの魔法使いは処罰対象と聞いて背筋が寒くなる。


「大丈夫ですよ。魔導協会は本部はイギリスにありますので。こんな極東のモグリの魔法使いの発見に血道を上げるほど暇ではありません。それよりも、この国の退魔組織、陰陽寮の方が厄介ですね。こちらは強制参加ということはないのですが、勇人様の存在がバレると間違いなくスカウト祭りになるでしょうね。戦える異能者は貴重ですので。ですので、今はどちらとも距離を取りたいのです」


「じゃあ、檮杌とうこつの件が終わったら両方とも登録しておいた方がいいのか?」


 やはり、物事を穏便に済ませたい日本人体質な俺にとってはその方がいい気がしてくる。巨大な組織に逆らっても何もいいことないもんな。長いものには巻かれろだぜ。


「勇人様が今後もこの世界で活動なさりたいのでしたら、少なくとも魔導協会には登録しておいた方がいいでしょうが、勇人様は今後異世界に旅立たれるのでしょう? 異世界をメインとして活動なさるなら登録はしなくてもいいような気はしますね。正直なところ、あまり登録のメリットはありませんので、私としてはあまりお勧めできません」


 俺としてはわりと登録するき満々だったのだが、どうも青龍は乗り気じゃないようだ。というか、異世界と言ったとき一瞬悲しそうな顔をしたのはなぜだろう。

 まぁ、でかい組織って腐敗とかあるのがお約束だし、世間一般じゃ秘匿されてる魔法使い連中ってすごいプライド高そうだよな。「この成り上がりの田舎者が!」とか言われていじめられるんだろうか? そう考えると確かに登録のメリットは薄いように思われる。


「まぁ、見つかったら厄介というのはわかった。それで今日の特訓はこれぐらいでいいか?」


「えぇ、そうですね。勇人様も問題なく第五位階まで習得できたようですし。明日から少し武芸の方もしていきたいと思っております。相手が置物ならともかく、相手も動きますからね。ある程度の体捌きを身につけなければ魔法を当てることは難しいでしょう」


「オッケーオッケー。体を動かすのは割と得意だ。まかせろ」


「では、帰りましょうか。……おや?」


 柔らかな笑顔を浮かべた青龍だが、一瞬で怪訝な顔に変わる。


「どうした?」


「いえ、少し魑魅魍魎の気配がしたもので。今時野生の魍魎がいるとは珍しいですね。ですが好都合です。勇人様特訓を少し延長しますよ」


「延長ってことはつまり……?」


「実戦訓練ということですよ」


 そう言ってウィンク一つ。茶目っ気のある笑顔で答える青龍であった。



    ※ ※ ※ ※ ※



「『マジックミサイル』!」


 青龍の案内で近場の墓地にたどり着いたわけなのだが、そこにいたのはなんと人魂であった。人魂です奥さん。今時怪談話するのにも人魂ってどうよ?

 いや、魔法のある世界だってことが判明したんだから、これぐらいの存在はいるとは思うよ? 思うけどもうちっとモンスターらしいのが出て欲しかった。

 一応向こうもふわふわ浮いてるだけでもなく、攻撃の意思が見られるから、こっちも先制で攻撃してるんだけど、正直ただの的でしかない。早く動くわけでもなく、本当にふよふよ浮いてるだけだ。

 いや、攻撃しようとしてるのを先制で潰してるからそうなるのかもしれないが、現状ではただの的当てでしかない。こんなんで実戦経験積めるのか?


「うーむ、所詮は魑魅魍魎ですか。この程度では訓練にすら……」


 青龍は俺の背後で何やらぶつぶつ呟いている。


 まぁ、やってることは確かにただの的当てなんだが、一応は魔法の発動の訓練にはなってると思う。俺も発動させながら色々試してるんだが、魔法って別に指先からしか出ないわけじゃないんだよな。指輪してるところからしか出ないかと思ってたけど、胸からでも頭からでも足からでも、その場所を意識すれば魔法は出た。

 まぁ、そんな訳で一応本当に魔法の発動の訓練にはなってるんだ。


「『マジックミサイル』。ほい、これで終わりっと」


 しかし、最後の方になるとかなり投げやりになってしまうのは仕方のないことだと思う。


「お疲れ様でした、勇人様」


「全然疲れてないけどな」


「まぁ、第一位階ですし、連発したところでそんなものでしょう。勇人様の魔力量は一般人と考えるなら破格の容量ですので。まぁ、魔法使いたちの中に放り込まれると平均的に落ち着く量なのですが」


 どうやら、俺は魔力量に恵まれていたらしい。青龍がご先祖に魔法使いでもいたのでは? と聞いてくるが、あいにくそんなファンタジーな存在など心当たりがない。大体ご先祖ってよっぽどの名家でもなければ、幕末あたりぐらいからしか資料もないだろう。幕末で魔法使いって言われてもイメージが違いすぎる。新撰組は実は魔法使いとかそういうレベルになるぞ。

 あ、いや。それとも日本だから日本特有の術師である、陰陽師とかになるのだろうか。さっき、陰陽寮って組織があるって言ってたし。

 どちらにせよ、そう言ったご先祖に心当たりなどないが。


「ま、魑魅魍魎退治も終わったし、明日も学校だし、そろそろ帰るか」


「おおっと、つれないな。ここであったのも何かの縁。ちょっと俺と遊んで行かないか?」


 青龍と俺以外誰もないはずの墓地。そこにいきなりかけられた声に俺は素早く振り向いた。

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