第22話 訓練初日~模擬戦2~
フレイアの合図と同時に、ヴォルゼフォリンとローレライが踏み込みだす。
「はぁっ!」
軽い
だが、マリアンネの攻撃はその程度にとどまらない。
「まだまだですわね、ランベルト!」
ローレライは素早く、槍を右に振るう。“槍”と呼称される武器ではあるが、先端の刺突部分には刃が付いており、切断武器としても一応の用途はあった。仮に先端部分が命中せずとも、太く頑丈な
回避を許さぬ一撃――マリアンネは、当たると確信していた。
「読めてるよ、マリアンネ!」
しかしランベルトは、マリアンネと戦った経験が無いわけではない。あくまでも生身の時とはいえ、マリアンネと武器を交えたことは何度でもあった。生身からアントリーバーに変わったとしても、何度も戦った幼馴染の攻撃を見抜けないほどランベルトは無能ではない。
素早く大剣を回すと、逆手に持って槍を受け止めたのである。
「ぐぅっ……! けど、まだまだ!」
槍にある刃の向きが、グルリと変わる。大剣が
「させないよ!」
それを見たランベルトは、大剣を槍に触れさせたまま全力で、ヴォルゼフォリンを前に走らせる。
先ほどのマリアンネが槍を回したことの狙いは、ヴォルゼフォリンの右腕を弾いて隙を作ることにあった。だが前に走られては、空いた左手から攻撃が飛んでくる――!
「ッ!」
間に合わないと悟ったマリアンネは、自らもローレライを前に出し、全力でヴォルゼフォリンにぶつける。
体格の差はあったものの、アントリーバーとて十数
強引に距離を稼ぐと、ローレライは槍を自身の近く引き寄せながらバックステップする。
「やはり、油断ならない……。さすがは“英雄機”ね」
「どうかな? ランベルトの操縦が完璧だからこそ、私は致命傷を受けていないわけだが」
そう。実際、ヴォルゼフォリンはマリアンネの戦い方を、ランベルトほど強く意識して見ていたわけではなかった。
ランベルトの操縦が無ければ、槍の一撃を食らっていた可能性は十分にあり得たのである。
「それはそうかもしれないわね。けれど、槍の
マリアンネは警戒を強めながら、再び槍を構える。切っ先はぴたりと、ヴォルゼフォリンを向いていた。
「槍だけでは通じないようね……」
「何をする気だ? 言っておくが、私に魔術は通じんぞ」
「減らず口を!」
マリアンネが送り込む魔力により、ローレライのすぐ前に氷塊が生成される。間髪入れず、ヴォルゼフォリンに向かって飛んで行った。
「わっ、ヴォルゼフォリン!」
「避けるな!」
「で、でも……!」
「いいから! 避けるな!」
「ッ……!」
ヴォルゼフォリンに押し切られ、ランベルトは命令を中断する。
ローレライの撃ち込んだ氷塊は、したたかにヴォルゼフォリンの腹部に命中し――ひとりでに霧散した。
「嘘ッ!?」
マリアンネが驚愕する。霧散して光の粒子となった氷塊が、ヴォルゼフォリンに吸収されていたのだ。
「言っただろう? 『私に魔術は通じんぞ』とな」
「そ、そんな馬鹿な……信じられませんわ!」
「この良質な魔力。よく練られたものだが……私の前では、魔法は等しく動力源に過ぎんのだよ」
「ほんとだ、出力が上がってる!」
ヴォルゼフォリンの言葉を、ランベルトが補完する。映像に投影される出力の数値が、魔法を受けた瞬間から1.15倍に上昇したのだ。
「ランベルト、細かい制御は考えるな。そのまま叩き込め!」
「うん!」
言われるがままに、ランベルトはヴォルゼフォリンを走らせる。
「ッ!」
ローレライはすぐさま槍を突きだすが、同時にヴォルゼフォリンが跳躍していた。攻撃直後の無防備な体勢では、防御もままならない。
「いっけぇっ!」
跳躍の勢いそのままに、ヴォルゼフォリンがドロップキックを叩き込む。
加速と重量が乗った一撃は、ローレライの左肩にある追加装甲と関節を容赦なく蹴り砕いた。
「ぐっ……!」
「まだまだ!」
空中で後方宙返りを決めたヴォルゼフォリンは、ふらついているローレライの右肩に追撃の蹴りを叩き込む。不安定な体勢では避けることすらままならず、追加装甲も関節もひとまとめに砕けた。
槍を保持することすら叶わなくなったところで、ようやくヴォルゼフォリンはローレライの眼前に大剣を突きつける。
「勝負ありだ。これ以上は無意味だぞ、マリアンネ」
「くっ……」
一連の戦いを見届けたフレイアは、目の前にある事実に基づいて勝敗を告げる。
「そこまで! 勝者、ランベルトとヴォルゼフォリン!」
***
決闘を終えたランベルトとヴォルゼフォリンは、蹴り落としたローレライの残骸を回収してから同じ方向の格納庫へと向かった。
「お疲れ様でした」
「フレイアさんも、お疲れ様でした」
「厳正なる審判、感謝する。さて、これでひと段落……と言いたいところだが」
ヴォルゼフォリンは、ランベルトの顔を見る。
「ランベルト」
「なに?」
「この後は大変になるぞ。マリアンネの鼻っ柱を折ってしまった以上、まだ精神的な問題が残っている。幼馴染として、フォローしてくれ」
「そうだね……元はと言えば、僕が安易に提案したのが悪かったかも」
「しょげるのは後だ。ほら、出てくるぞ」
ヴォルゼフォリンが指し示した先には、目に見えて落ち込んだ様子のマリアンネがたった今、ローレライの胸部装甲から出てきたところだった。肩をがっくりと落とした姿勢のまま、昇降用リフトで降りてくる。
「マリアンネ!」
「ランベルト……。それに、ヴォルゼフォリン」
マリアンネは睨みつけるように、ヴォルゼフォリンを見つめる。
「私の言った通りだったろう? 『アントリーバーを使う限り私には追い付けない』と。結果は既に、先ほどの決闘で示した」
「…………そうね。それについては、もう認めざるを得ないわ」
奥歯を噛みしめながら、マリアンネが拳を握る。
「魔法も効かず、剣も攻撃には使わず、ただの……蹴りだけで。それだけなのに、私のローレライは何も出来ずに負けてしまった。やっぱり、ヴォルゼフォリンの言う通りだったわね」
「嘘はつかんさ。そして、力量を見計らうのも未だかつて、一度たりとて誤ったことはない。私が見抜いた通りだった、それだけの話だ」
「そうね。エールネス家次期当主として聞き捨てならないところはあるけれど、負けてしまった今は……何を言っても、空虚なだけ。認めるしか、ありません……わ」
ふらつき、倒れそうになるマリアンネ。
「おっと!」
と、ランベルトが抱きとめた。マリアンネは、気を失っている。
「マリアンネ? しっかりするんだ!」
「ランベルト、あまり揺さぶるな。慎重に運ぶぞ」
「う、うん!」
「医務室まで向かいます! 皆様、道を開けて!」
マリアンネを運ぶヴォルゼフォリン、そしてランベルトとフレイアは、急いで医務室まで向かったのであった。
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