第18話 混浴とかいろいろ
それから二人は、胃が落ち着くのを待ってお風呂に入ろうとする。
「ランベルト、今日は一緒に入るぞ」
「えっ、待ってヴォルゼフォリン、ここって……」
ランベルトが連れてこられたのは、央龍寮の1階にある混浴場だった。各部屋にも体を綺麗にする設備はあるのだが、ランベルトやマリアンネの部屋のように風呂まで付いているのは珍しく、大抵はシャワーのみである。
そのため、男性用・女性用・混浴の3つの大浴場が、寮における共通の設備として用意されていたのであった。
「混浴場……だよね?」
「その通りだ。別に問題はなかろう」
「あるよ!」
ランベルトが、必死に訴える。
「ほほう? どういう問題があるのかな、ランベルト?」
「そ、そのさ。ヴォルゼフォリンは、一応女の子でしょ?」
「否定はせんな。肉体的にはその通りだ。ほれ」
ヴォルゼフォリンはランベルトの顔の前で、豊満な胸を強調するように腕を組む。
「わっ! そういうの恥ずかしいんだってば!」
「免疫無いな、ランベルト。モテているのにもったいない」
「うぅ、それを言われると……」
自覚はしているが、どうにも慣れないそぶりを見せるランベルト。
「そうか、一応の自覚はあるのか。私に対してモテているという、自覚が」
「うう、改めて言われると恥ずかしい……」
「なるほど、恥ずかしいのか。ならば慣れればいい。そうは思わないか?」
「慣れる……?」
「そうだ。間近で女性と接することに慣れればいい。その手っ取り早い手段として、毎日混浴するということだ」
「えっ、えっ……?」
話について行けず戸惑いだすランベルトを見て、ヴォルゼフォリンは心の中で確信する。
(もうひと押しと言ったところだな。照れが強いが、好奇心がじわじわと表に出てきている)
ヴォルゼフォリンはランベルトを混浴に誘うため、ダメ押しの一言を放つ。
「強い男は、女性と接することに慣れているものだ。強い上に女性に対して余裕を持って接する、そういう男は間違いなくモテるぞ」
「!」
目を輝かせるランベルトを見て、ヴォルゼフォリンは口の端を嬉しそうにゆがめる。
(食いついたな。後は混浴するだけだ)
表情を悟られぬようにしつつ、ヴォルゼフォリンはそっとランベルトの肩に手を乗せる。
「問題ないな? では一緒に入ろうか」
「う……うん」
こうしてランベルトは、まんまと乗せられてしまったのであった。
***
「いい湯だな。疲れを取るには一番だ」
「そうだね。しかも僕たち以外に誰もいない。のんびりできるよ」
既に体を洗い終えて湯船に浸かり、のびのびとくつろぐランベルトとヴォルゼフォリン。しかしランベルトは、ヴォルゼフォリンに背中を向けていた。
「どうした? 背中を向けて」
「うぅ、向かい合ったらヴォルゼフォリンの……ごにょごにょ」
「よく聞こえんなぁ。近くで聞かせてみろ」
「えっ、あっ、やめ……わっ」
「おっと」
ランベルトが倒れ込みそうになるのを、ヴォルゼフォリンは優しく抱きしめて阻止する。
と、ヴォルゼフォリンの豊満な胸がじかに、ランベルトの肌に触れた。
「うわっ! ちょ、ヴォルゼフォリン……!」
「落ち着け」
「で、でも、その……。おっぱい、が……」
「気にするな。混浴に入った時点で、こうなることは承知していた。それにランベルトになら、どれだけ当たっても、いや触られても……一向に、気にせんぞ。ふふっ」
ヴォルゼフォリンはむしろ押し付けるように、ランベルトに抱きつく。
「うう、気になるよぅ……」
「今はまだ仕方ないだろうさ。だが、私たちと接していれば嫌でも慣れる。だから今のうちに、存分に恥ずかしがっておけ」
「うぅ~……」
顔を真っ赤にするランベルト。これがヴォルゼフォリンに抱きしめられて密着しているのが原因なのは、敢えて言う必要もないほどに明白であった。
「それとも……ふふっ、今は二人きりだ。私はランベルト、お前にナニをされてもいいが……どうする?」
「…………」
「おーい? ハッ、いかん! のぼせている!」
のぼせてもいたようである。
ヴォルゼフォリンは急いで、ランベルトを湯船から出してやったのであった。
***
「もう、ヴォルゼフォリンったら。また僕をからかって……」
「すまないな。今度こそ私の装備をいっぱい話すから、それで埋め合わせてくれ」
「……むぅ。しょうがないなぁ、もう」
お風呂から上がって。
ぷんすかとむくれるランベルトを、ヴォルゼフォリンは何とかなだめていた。
「別にそういうのを悪いこととは思わないけど……僕は苦手な部類だからね? よくある当たり前のことだとわかってても、恥ずかしくなっちゃうんだってば」
「そうだな。今言ってることに関しては、本当にその通りだ」
ヴォルゼフォリンは一度、真面目くさった表情でうなずく。
「それを踏まえた上で、ランベルト」
「なに?」
「お前がいずれ妻を
「……それは、わかってるかな。わかってるんだよ、僕がまだ幼いままだってのは」
ランベルトは、露骨に表情を暗くする。
「それでも、やっぱり恥ずかしい」
「だからこそ、私と少しずつこうして話していけばいいさ」
「それはそうだね。けど、あんまりぐいぐいされるのも嫌かな」
「少しずつ話したいのか?」
「うん。いきなり露骨な話をするのは……どうしても、恥ずかしいよ」
「そうか。なら、こういうのはどうだ?」
ヴォルゼフォリンは、背後からそっとランベルトを抱きしめる。
「えっ……?」
「嫌か?」
「ううん……むしろ好きかも。なんか、安らぐ感じがするかな」
先ほどとは違い、ランベルトはほっとした表情になる。
「なら、これを毎日続けるとしようか。今は部屋に行こう」
「う……うん」
「おっ、今『もっとしてほしい』という顔をしたな?」
「ち、違うよ!」
「照れるな、ランベルト。部屋に着いたらまたしてやる」
「違うって言ってるのに……けど、良かったな」
ランベルトの最後の一言は、ヴォルゼフォリンにも聞こえていた。しかしヴォルゼフォリンは、敢えてこれ以上は突っ込まなかったのである。
***
「そら、ぎゅ~っ」
「入って早々やるなんて……」
自室に入って施錠してから早々に、ヴォルゼフォリンはランベルトを抱きしめた。
“抱きしめるのは好き”と言った手前、ランベルトはあまり強く出られずに困惑している。
「一緒に横になるか。ふふ、ベッドをくっつけて正解だった」
「うん、それはいいんだけどさ……。ちゃんと、教えてよね? ヴォルゼフォリンの武装」
「もちろんだ。さて、何から話すものかな……」
ヴォルゼフォリンはランベルトの頭を撫でながら、どこから切り出すか考えている。
「いつも使ってる武器から話すのは、どう? あるいは、拳や脚とか」
「それはいいな。まず、私の脚だが……」
二人は抱きしめあったまま、夜通し語り合ったのであった。
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