第16話 生徒会室へ行こう

「大丈夫だ、何の問題も見られない。経過観察といったところだろう」

「ありがとうございます。ひと安心です」


 医師に怪我の具合を見てもらったランベルトは、太鼓判を押されてから医務室を後にする。


「良かったな、ランベルト。やはり私の見立て通り、大したことはなかったようだ」

「うん。けど、気を付けるよ」

「本当に良かったわ、ランベルト。心配したんだから」

「ありがとう、マリアンネ。あ、そうだ」


 ランベルトはニコニコ笑いながら、マリアンネに話す。


「さっきヴォルゼフォリンが、『マリアンネは私の友人』って言ってたよ」

「えっ……?」

「エーミールたちに、一人で立ち向かってたんだ。なんだかんだ言って、ヴォルゼフォリンはマリアンネを大事に思ってるんじゃないかな?」

「よせ、ランベルト。恥ずかしいぞ」

「いいじゃん、ヴォルゼフォリン」

「しかしな……ううむ」


 ヴォルゼフォリンに止められ、すぐに意識を移すランベルト。

 だがマリアンネは、今のランベルトの言葉を、心の中で反芻はんすうしていた。


(ヴォルゼフォリンが……私を? 確かに、いつの間にかベルクヴァイン子爵たちはいなくなっていたけれど……。ランベルトが言うんだし、本当のことなのだろうけど、それでも気になってしまうわ)


 マリアンネは生徒会室につくまでの間、ヴォルゼフォリンのことを意識していた。


     ***


「失礼します。ランベルト様とヴォルゼフォリン様をお連れしました」


 ドアをノックしてから、マリアンネは生徒会室へ入る。もちろん、ランベルトとヴォルゼフォリンも続いた。


「よくいらっしゃいました。さて、ランベルト様。遅くなってしまいましたが、ご入学おめでとうございます」

「ありがとうございます、フレイアさん……会長」

「フレイアで構いません」

「では、フレイアさん」


 ランベルトの返事を聞くと、フレイアはコクリとうなずいた。


「そう呼んでくださると助かります。馴れ馴れしいかたは好みませんが、あまりかしこまられるのもまたしかりですので」

「そうか、フレイア。ところで、私たちを呼び出したのは何故だ?」

「まずはこちらにおかけください。朝食は、お食べになりましたか?」

「ああ。私もランベルトも、先ほど食べてきたところだ」

「そうでしたか。では、食後の甘味かんみなどいかがでしょう?」


 フレイアが言い終えると同時に、クッキーやケーキなどが乗せられたワゴンが運ばれてくる。皿の上には、多すぎず少なすぎない程度の量が乗っていた。


「頂いてもいいんですか?」

「もちろんです」

「では、僕は頂きます」

「私も頂こう。感謝する。……ん、美味うまいなこれは」


 ヴォルゼフォリンはお礼を述べるやすぐに、ケーキをパクパク食べだした。


「ヴォルゼフォリン、ちょっと食べるの早すぎない? 失礼じゃ……」

「ランベルト様、構いません。元より、食べていただくためにお出ししたのですから、マリアンネ、貴女も座って、お食べになりませんか?」

「会長、よろしいのでしょうか?」

「もちろんです。私たちで食べるために作っていただいたのですから、満腹でもない限り食べないことこそ失礼です。では、私も頂きます」


 フレイアもまた、手頃なケーキとフォークを手に取り、いったんテーブルの上に置く。


「とはいえ、私はお二方に、通達事項を先にお伝えしなくては。ああ、お二方とマリアンネは気にせずに食べていてください。聞いてくだされば十分ですので」


 三人は食べながら、フレイアの話に耳を傾ける。


「ランベルト様、そしてヴォルゼフォリン様。あなた方の泊まられる寮は、すでに決まっております」

「ほほう。どこだ?」


 いつの間にかケーキを食べ終えていたヴォルゼフォリンが、フレイアに場所を尋ねる。


「そうですね……。“央龍寮おうりゅうりょう”、つまり学園のど真ん中に位置する寮です。幸い私やマリアンネといった生徒会役員も多くこの寮に泊まっておりますので、もしかしたらご一緒することが多いかと」

「それは心強いな。ランベルト、迷ったらついていけ。フレイアやマリアンネなら助けてくれるはずだ」

「当たり前ですわ。ランベルトのためならば」


 マリアンネは妙に、誇らしげである。

 と、フレイアはカチャカチャとチェーンの音を鳴らしながら、鍵を見せた。


「そうそう、鍵もお渡ししましょう。部屋はタグに書かれている通り、Cシー1202号室です。この部屋を、ランベルト様とヴォルゼフォリン様で一緒に過ごして頂きます。隣のC1201号室は私とマリアンネが相部屋で住んでおりますので、何かあればいつでもお声掛けくださいませ。では」


 一通りの伝達事項を済ませたフレイアは、ランベルトに鍵を渡す。そして、ようやくフォークを手に取って、ケーキを食べ始めたのであった。


「僕たちのお部屋かぁ……。広いのかな?」

「広いわよ、ランベルト。2人どころか、その倍……4人入ってもまだ余裕があるくらいには。4人で過ごして困るとしたら、ベッドが2人分しかないといったところでしょうね」

「それは確かに広いな。ゲストルームと同じくらいか」

「さすがにそこには負けるわ。ゲストルームは、もう少し……6人くらい入るのを想定しているから」


 ヴォルゼフォリンの言葉を、マリアンネは穏やかに否定した。いくら広いといえど、寮と来客用の部屋では想定している人数が違うのだ。


「そうだ、ランベルト。寮や主要な学園施設を、案内しましょうか?」

「えっ、いいの? 嬉しいけど、マリアンネは生徒会役員じゃ……」

「いいのよ。ここに来る前に、会長から『お二方の案内をお願いします』って頼まれたんだから。喜んで引き受けるわよ」


 マリアンネは嬉しそうに、ランベルトに話す。


「もちろん、貴女……ヴォルゼフォリンも。私が止めても、来るのよね? ランベルトがいるから」

「よく分かってるじゃあないか。もちろん、私も一緒だ」

「仕方ないわね。二人まとめて案内するわ」

「頼むぞ」


 三人は口元を拭き、食器を片づける。

 そしてフレイアにひと声かけてから、生徒会室を後にした。


     ***


「ああは言ったものの、央龍寮はここからすぐ近くなのだけど」


 廊下を出てしばし三人が歩くと、赤い屋根の建物が見える。


「あそこよ。あれが央龍寮。せっかくだから、中も案内するわ。それにもう、正式に入寮も決まっているから」

「手回しが早いな」

「元々は入学と同時に、どの寮に入るかも決めるのよね。ただ、伝え聞きだからよく分からないのだけれど……ランベルトの場合は特殊だったみたいだから、こちらで決めることになって」

「それで、生徒会室に近い央龍寮になったわけか」

「ええ。ここなら何かあっても、すぐに助けられるからね。だから遠慮なく、私たちを頼ること。分かった、ランベルト?」

「う、うん。ありがとう、マリアンネ」


 マリアンネの力強い笑顔に、ランベルトははにかんだ。




 それから数分。ランベルトたち三人は、央龍寮の前に着いたのであった。

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