雨を數えれば

珱瑠 耀

零話 転生なんかじゃない

エルム暦332年12月20日 天気:雨

 鬱蒼とした雨の中に、これまた陰鬱な森が佇んでいる。


 モンスターの他には誰も寄り付かず、巷では「幽霊が出る」という噂まで付いてしまうその広大すぎる森で、一人の少女が忙しなく足を動かしていた。


「ッ…ッ、ーッ…」


 至る所に痣を作り、生傷の絶えない小さな身体を動かして、背後より迫る足音から逃れようとしている。


 その後ろからは数人の屈強な男性。


 彼らは逃げ出した彼女を引き戻しに、時折怒号を放ちながら追いかける。


「さっさと戻ってこい!ぶち殺すぞ!!」


 小さく聞こえてきた「殺す」という単語に肩を震わせながらも、彼女は森の中を右へ左へと走る。


 出口なんてものは見た事は無い。


 しかし、彼らから逃れるにはこれしか無いのである。


 降りしきる雨に体力を削られながらも、少女は走る事を止めない。




「チッ、ったく面倒くせぇ…」


 と、一人の男がその場で手を掲げた。


「お前らは戻って拠点を守ってろ。一旦ここ一帯を燃やす」


「お前…そんな事したらにバレるだろ!?」


 咄嗟に数人の男性の部下が引き留めようとする。


 しかし。


「いいから戻れ!!……お前らも燃やすぞ」


 その明確な言葉に、部下は狼狽えて渋々退いた。


「…手こずらせやがって。最初からこうしときゃ良かったわ」


 そう言った彼は深呼吸をし、再び口を開く。


「……【先天の狼煙は宇を覆い、遠き詞は地を焦がす。数多の生命いのち、掌握せよ】」


 その詠唱と共に、掌から紅い球体が発生する。


 ゆらゆらと揺れる球体を見据え、トリガーを引く。


【炎召】


 その言葉を呟いた瞬間、彼の目の前が炎の波で掻き消される。


 魔力を大いに使った男性も少しふらつくが、踏ん張って呼吸を整える。


 恐らく1/4は燃やしただろう。


 そしてその影響は、右往左往しながら逃げていた少女にも影響を与えた。




 炎の波が森の1/4を掻き消す数秒前。


 少女はその場で徐に振り返った。


 突然後方からの足音が消えた事に違和感を抱いたのだ。


 そうして、誰も来ないと安堵した刹那。


 足音の聞こえていた方向から、突然勢いよく炎が迫る。


「!?ーッ!!」


 少女は目を見開き、両手で土を掻きながら走り始める。


 しかし、疲れ果てた少女の走りと男の放った魔法とでは、追い付かれるのも明確。


「ーーッ!!」


 背中を炎にあおられて、痛みでふらついてしまったのが最後。


「!!?」


 ズルリと足元が揺れ、視界も揺らぐ。


 バランスを崩して道から外れてしまったのだ。


 そうして目の前の木を掴もうと手を振るが、その努力も虚しく。


 少女は成す術も無く崖下の坂をゴロゴロと転がって行った。




 今日は雨が降っているので、魔法で出した火はすぐに消えた。


 その後魔法の方向を探したが、少女は見つからず。


「…クソが」


 男は地面に唾を吐いて戻って行ってしまった。




 ーーーーその後、彼女は死んだ。


 、だが。






「〜♪」


 その日、ちょっとした好奇心から森に入ろうとした女性が居た。


 その女性が少量の熱風にあおられ、森に沿って家に戻るまでーーーー




「……ん、なんかやな予感…帰ろっかな…?」




 約五秒。

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