第50話 若手ベンチャー社長のドキドキ脅迫術!


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!』


 会場がこの番狂わせに大きな怒号を上げた。鉄板だったはずのレースはまさかの結果に終わった。多くの者たちが紙くずになった舟券を空に投げ捨てていく。さっきのレース。実はマリリンが遠くからエアガンで狙撃したのだ。サイコキネシスを付与したbb弾で水面を揺らしてボートを揺らして走行妨害する。マリリンには邪眼があるので、狙撃による波の発生について、ボートへの影響力をいくらでも計算できる。必要な妨害を行うことでレースの結果をいくらでも操作できる。もちろん今の時代は異能によるレース妨害への対策はちゃんとされてる。だけどマリリンクラスの一流異能者が本気で偽装したサイコキネシスなんかを、計測できるほど世間様が導入している対異能センサー類は精度がよろしくない。証拠のBB弾もプールに溜まった泥に紛れればわかりやしない。俺たちのイカサマはバレないのだ。


「う…嘘だろ…マジかよ…!?完全に的中したのか…配当は…?!」


「ざっと326万円のバックですね。配当は予測よりも多かったですね。折半で163万円があなたの儲けとなります」


「まじかよ!やったぁ!!」


 男は両手をあげて大喜びしている。


「ではすぐに払い戻しをお願いします。お互い後腐れなく折半してお別れいたしましょう」


「…そのことなんだがな。そもそもこの船券は俺の金で買ったものだろう?それにあんたは出禁だ。折半は出来ないなぁ」


 男は厭らしく笑った。儲けを独り占めにしようとしてる。くだらない。たかが400万円如きにそんなに執着するなんてみっともない話だ。


「なるほど。払っていただけないと?」


「ああ、このまま帰れ。どうせお前が何を言ってもこの船券は俺が買ったもんだからな。金を払う義理はない!」


「そうですか…。では…これと交換なんてどうです?」


 俺は懐からとある紙を取り出して、男に見せつける。


「…証文…俺の借金の奴か?!なんであんたがそれを持ってるんだ!?」


 そう。俺が見せている証文はこの男が闇金からの借金のものだ。俺は闇金からこの男の借金の債権を買い取ってきた。闇金も回収する手間を考えたら俺に譲る方がいいと考えてあっさりと渡してくれた。つまりこの男が金を返す義務があるのは俺に向けてである。


「当原利治さん。あなたの借金は私が引き受けたんです。あなたは私へ借金を返済する義務がある。総額500万円。きっちりかえしていただきましょうか?!」


 この男はギャンブル狂いで、妻子に黙ってその費用を闇金から借りてしまったのだ。雪だるま式に増える借金はとうとう500万円。家のローンもあるだろうに、この金の返済はきつ過ぎる。


「ぐっ…そんなぁ…せっかく300万も手に入ると思ったのに…」


 今この船券を清算しても、借金は200万円残る。というかそもそも船券で払わせる気なんてさらさらない。


「そもそも勘違いしてません?その船券の代金の半分はもともと私のものですよね?というか予測屋から聞いた儲けで借金を返すとか冗談もたいがいにしていただきたい。あんたにはギャンブル向いてないよ。それに今のレース。…俺はイカサマをやった」


「イカサマ…?!…あのレーサーの水面の揺れは異能スキルなのか?!」


「そうだよ。あれはイカサマ。今頃レースの運営さんは調査中なんじゃないかな?で異能スキルを使った痕跡が見つかり、イカサマがバレる。するとどうなると思う?今のレースを当てられた奴は俺くらいだろうね。だからその船券がイカサマの証拠だ。…今どきはカメラでちゃんと買った奴を記録してる。くくく、お前はイカサマの犯人に仕立て上げられるんだ…ふふふ、あーははっは!」


 当原の顔が恐怖に歪む。異能を使ったイカサマは問答無用で懲役。執行猶予はつかない。もちろんさっきのイカサマは絶対にバレない。でも当原が冤罪を被せられたと勘違いしてくれるなら、それでいいのだ。


「…そんなぁ!助けてくれ!俺はちょっと出来心で、300万円あれば借金だって大分楽になるからぁ!!女房も子供もいるんだ!頼む!刑務所に何か行きたくない!助けてくれ!!」


 当原は見っとも無く俺に縋りつく。涙目で体をガタガタと震わせている。そう。これが俺たちの作戦。ここからが真の狙い。


「なんでもしますか?本当に?」


「ああ!なんだってするから助けてくれ!」


「いいでしょう。では私の要求を呑んでください。そうしたらレースの運営に潜り込ませた私のスパイにイカサマの証拠を消させてあげます。今のレースに不正はなかったことになり、あなたは刑務所に行かずにすむ。それでかまいませんね?」


 運営にはスパイなんていない。ただのハッタリだ。ただイカサマがばれてしまった時揉み消してもらうために雲龍刑事には近くに待機して貰っている。


「ああ!なんでもする!だから!早くしてくれ!」


「いいでしょう!では要求をお伝えします!!あなたがお勤めの電気工事会社は今度、六本木ツリーズビルのラタトスク社のオフィスに電気工事のチームを派遣しますね?オフィス改良工事の一環でね。そのチームに私ともう一人を混ぜるんだ!ただしそのことをお前の会社とラタトスク社には絶対に報告するな!!追加人員だと言って書類を偽装して報告しろ!そして工事中は俺ともう一人が何をやってても絶対に見て見ぬふりをし続けろ!それが条件だ!そうすればイカサマの冤罪を被せることはしない!それどころかこの借金の証文は破り捨ててもいい!そして今のレースの賞金は全部くれてやる!どうだ!断ればお前は破滅する!だが受け入れればお前は借金から解放されて、さらにはちょっとしたお小遣いも手に入る!さあさあ!決めろ!今すぐ決めろ!!」


 イカサマ冤罪への恐怖。そして借金帳消しのチャンスと300万円の大金ゲットの可能性。これらのリスクとベネフィットがいま当原の頭の中でグルグルと渦巻いているだろう。そして人間というものは容易く判断を誤ってしまうのだ。俺の計略通りに事は動いていく。

 だから俺はきっとゆすりや脅迫の天才だと思うよ。だって目の前の当原は、体を震わせながらもすぐに頷いてくれたんだからね。俺とマリリンは難関の一つであるラタトスク社オフィスへの安全な潜入ルートをこうして確保したのだった。





 

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