第30話 アットホームでマイホームなオフィスをゲットせよ!
「きゃ!嘘でしょ…綺麗…」
「すげぇ…広い…つーか畳?キャンピングカーだいよねこれ?」
中は豪華な内装で彩られている素敵空間だった。カジュアルなラブホとかって言えば伝わるかもしれない。大き目のキッチン、その後ろ側にトイレとシャワールーム。もちろんそれらは別々の空間になっている。そして車両の一番奥。なんと少し髙めの台になっていて、そこは畳張りであり、中心は掘りごたつ型のテーブルが設けられていた。
「こちらのキャンピングカーは所謂高級志向の一種となっています。特徴なのは車両の一番奥の畳張りの空間ですね!これがなかなか味のある空間でしてね!掘りごたつタイプのテーブルがあってとても快適過ごせます!それどころかあのテーブルはこうやって!」
セールスマンが畳張りエリアに入って、テーブルを弄る。するとテーブルの台はそのまま下に沈んでいき、完全に畳と水平になるまで埋まった。そして近くの収納からテーブルと同じ大きさの畳を取りだしてその上に被せる。ただの畳部屋が完成した。
「このようにフラットな畳スタイルも楽しめるようになってるんです!」
「え?!すご!なにこれすごい!すごい!!イツキ見た?!今の見た!すごいよこれ!あはは!」
マリリンは靴を脱いで畳スペースに上がった。その上に座り畳の感触を楽しでいる。さっきまでご機嫌斜めだったけど、すっかり楽しそうだ。
「この車はシャワー付きで、その上トイレも水洗なのでキレイに使えます!運転席の上にツインのベットルームも完備しています!もちろん畳の上に布団を敷いて寝ることも出来ます!布団や洋服などの収納も完備していますので、この中で生活するのも不便はほとんどありません!」
確かに収納スペースとかも良く作られていた。ここで生活するのに不便はないだろう。仕事するときはテーブルを出して、終わったらテーブルを仕舞えばくつろげるリビングになる。素敵すぎる空間だ。でもどう考えても。
「でも俺たち全然お金ないんだけど…。さすがにこんな高級車には手が出ないんだけど」
「ご安心くださいお客様!!こちらのキャンピングカー!なんともろもろすべて込みで!なんと!100万円ぽっきりとなっております!もちろんクレジットカードの分割でもかまいません!」
すごくお買い得です。でもさ。どう考えても安すぎる。相場はわからないけど、こういうレベルなら1000万円を軽く超えるのが普通なんじゃないのか?なにか落とし穴がある?
「実は走れないとか?ただの置物とかってわけじゃないよね?」
「大丈夫です!整備は万全です!すべての機能の安全な動作は保障いたします!!問題なくご使用いただけます!!」
嘘ではないだろう。ではなんで安いのか?買い手がつかない理由が何かあるはずだ。
「もしかして事故車?」
交通事故を引き起こした車は幾らきれいでも相場が安くなる。気にならなけば問題はないが、やっぱり気持ちが悪い人には受け付けられないだろう。
「いいえ。
引っ掛かる物言いだな。一体何が理由でこんなにもお安くなっているのか、逆に気になってきたぞ。
「正直に説明してください。この車を俺は気に入っています。値段の安さにも惹かれます。ですが理由は気にしておきたいんだ。ただ購入は検討してもいい」
セールスマンは何処か渋そうに眉を歪めた後、口を開き始めた。
「この車は過去に三回オーナーが変わっています。初代のオーナーは羽振りがいい芸能人でした。ですがその…この車の中で愛人と密会していたところをパパラッチに撮られてしまって炎上しました」
「…ああ…そういう意味では事故ってるのね…」
「次のオーナーはイケイケな個人投資家だったそうです。ですが先物取引で失敗。残された財産はこの車だけになり…。首を吊りました…この中で…」
「…それって事故物件扱いでいいのかな…はは…」
「そして次のオーナーなんですが」
「三回目もあんのかよ!」
「この男は大物政治家の大学生だった息子だったんですが、この車の中でマリファナを育てて周りに売っていたようです…。もちろん警察にバレて逮捕されてます」
なるほどなぁ…。そりゃ誰も買いたがらんわけだ…。高級車両を欲しがる人間はだいたいゲン担ぎとかも気にするものだしな。さてどうしよう…?なんかこの車は呪われてそうに思える。まだ起業したての俺が乗っていい車ではないような気がする。
「イツキ。この車、気に入ったわ。ここならあたしは生活できそうよ」
「今の話聞いてたよね?気にならない?」
「別に?過去の事でしょ。今この車内が清潔であり、ちゃんと走るのであれば問題はないわね。イツキ。この車ならばあたしはあんたの提案に妥協してあげても良いわ。他の車なら泣きわめいて首を振り続けてやるんだから…ああ、畳が温いわ…」
マリリンは畳ルームをいたく気に入ったらしい。頬杖をつきながら寝っ転がって感触を楽しんでいる。
「おっけー。わかりました。この車を購入します」
「ありがとうございますお客様!!ではすぐに契約書を持ってきます!!」
セールスマンは車内から飛び出して、店舗の方へと走っていく。俺とマリリンが車内に残された。
「こっちに来てよイツキ」
マリリンが俺を手招きしている。俺は誘われるままに畳の上に上がり、マリリンの横に寝っ転がる。
「ここであたしたちの生活が始まるのね。どんなふうになるのかしら?」
「そうだね…。色々と困難は待ち受けてるだろう。けれど楽しいものにはしてみせるよ」
「うん。期待してる。…頑張ってねイツキ。あたしはちゃんと傍に居るからね…」
俺の腕にマリリンは抱き着いた。こうして俺はたった100万円ですてきなマイホームを購入することになったのだった。
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