シーズン1 恩讐の特許権闘争。『株式の半分をくれてやる』と言われても、もう遅い!

第25話 まずは顧問弁護士を見つけましょう!

「つーわけでさ。俺はラタトスク社をぶっ潰すために起業することにしたんですよ!だから文矩君を俺の会社の顧問弁護士にしてあげる!しがない街弁護士にはまたとないチャンスだよね?というわけで会社ってどうやって作ればいいか教えてくれない?」


「樹…お前は頭おかしいのか?不幸が重なっていかれちまったのか?…なあクエンティンさん?こいつ大丈夫なの?」

 

 俺の高校時代からの友人であり同じ大学でもある。そしてよく仕事上のトラブルを相談する弁護士でもある水無瀬文矩みなせふみのりは俺の顔を見て、まるで可哀そうなものを見るような目を向けていた。さらにマリリンもまるで聖母のような慈愛に満ちた生暖かな目で俺を見つめいてた。


「…元気になってくれれば…あたしはそれでかまわないから…」


 銀座でヤクザをぶちのめした後、俺たちは駅にほど近い古い雑居ビルに入っているとある弁護士事務所にやってきた。ミーティングスペースで俺がわざわざ銀座の有名和菓子屋から買ってきたカステラと羊羹を並べて法律相談をすることになった。


「まず一つ。会社を立ち上げるのは簡単だ。弁護士の俺にわざわざ相談することもない。登記を出せばそれで終わり。それよりもだ。ラタトスク社って、火威ひおどしの会社だよな?なんで喧嘩を売る気になったんだ?何があった?」


「俺の両親を殺したのが火威だからだ。あと枢と俺の作った技術を盗んで勝手に特許とってた。許せんからあいつの会社を潰してやることにした。だから会社を創る。簡単だろ?」


「その発想がわからん。復讐の動機は理解できる。だが手段として会社を創るのがよくわからん…だが火威はとうとうお前にも手を出したか…」


「ありゃ?俺の言うこと信じるの?結構世間的に見れば滅茶苦茶言ってる自信あるんだけど」


「あいつは大学時代からおかしな奴だった。表面的には人気者だったが、裏ではえげつないことをたくさんやっていた。女子大生を騙して金持ちに紹介してマージンとる売春仲介業みたいなこともやってた。それどころかリベンジポルノなんかも仕込んで、金持ちを強請ったりなんかもしてたな。ヤバすぎる…いかれてるよ」


「んなことまでやってたのかよ…アブねぇ奴だったんだな…そのころにそれを知っていればなぁ…警戒できたんだけどなぁ」


「だからあいつが作った会社なら無理もない。あの会社は異常だ。俺がまだ検察にいた頃だ。あの会社と与野党の有力政治家との間で異能スキル規制法案の改正に絡むおかしな金の流れがあった。検察は特捜部を作って起訴するはずだったんだが…」


 政治家の絡む汚職の話が今更出てきても不思議でも何でもない。火威は会社を大きくするためならなんでもやるんだろう。それが悪でも何でも関係ない。


「返り討ち?」


「そうだ。立件は出来ず、逆に俺を含めた担当検察官が検察庁を追われることになった。あの会社はやばい。闇が恐ろしく深い。だが火威が社長なんだからそんなものは不思議でも何でもない」


「まああいつサイコだしな。つーか文ちゃんが検察やめたのってそういう理由だったんだ。さてというわけで返事を聞かせてくれない?俺の会社の顧問弁護士になる?ならない?」


「…条件がある」


「どうぞ」」


「火威とラタトスクの悪事を明るみにしてくれ。俺はあいつを司法の場に引きずり出せなかった。それがはっきり言って心残りだ」


「いいぞ。どうせそういうことをやるつもりだったしな。あいつにはいろいろとヤバい背景がある。ならその尻尾を必ずつかんでやるさ」


 行動シナリオ自体は火威を司法の場に売り払うことだ。あいつの悪事は素人目で見ても終身刑か死刑が下されると思う。


「よし!ならお前の会社の弁護を喜んで担当させてもらうよ!」


 文矩は立ち上がり、俺と握手を交わす。担当弁護士がついてくれた。これで色々とはかどることだろう。


「さて、だけどやっぱり腑には落ちない。なんで会社を創るんだ?お前はアイディアマンだから商売はうまく行くんだろうけど、なんでわざわざ火威と同じ土俵で戦う?」


「あいつは恥知らずだ。だから殴っても殺しても自分の行いを後悔することはないだろう。だけどラタトスク社は別だ。俺の復讐はあいつが積み上げたものを否定することだからな。牢屋にぶち込むのはついでだ。枢はもう亡くなっているが、それでも俺の女なんだよ。あいつは自分こそが枢の男に相応しいとか思ってるんだろうけど、ちゃんちゃらおかしい。会社を潰して、あいつの男のプライドをすべて否定して破壊してやるのさ。だからさ会社を創る。俺の会社があいつの会社を超えれば、俺の復讐は果たされる」


 あいつを牢屋にぶち込んだ後、俺は俺の会社を育て上げる。そしてラタトスクよりも大きくして、あいつにそれを見せつけて、死ぬほど悔しがらせてやるのだ。


「…なるほどね。それなら理解した。要は男のプライドってことだ」


「そういうこと。でももう一つ目的がある。俺が会社を創れば、あいつは多分裏では暴力を使ってくるけど、表側では無茶な手を出してこないはずなんだ。あいつは俺に枢のことがあるから嫉妬してる。俺が会社を創ったと知れば、それを正攻法で潰したくなるはずだ。正攻法で潰せば、枢への愛の証明になると考えるはずなんだ。あいつは狂人だが行動ロジックそのものは枢への恋ですべてが説明できる。会社創業は一種の防御策でもある。あいつは俺を攻撃するにしても、枢に褒めてもらえるような手を打ってくる。まあ同時に殺意も向けてはくるだろうけどな。表はビジネスバトル。裏では殺し合い。なかなかスリリングな展開になりそうだよ」


「ああ。確かにそうか。ライバルが会社を起てたならば、それを正々堂々潰せばプライドが満たされるわけだ。男としてはわからんでもないな。ようは恋した女にいいところを見せたがる男心を利用するってことか。わかった会社の登記は俺が監修しよう」


「…男ってバカしかいないのね…。なのに女はそんなのにときめいてしまう。そんな風に人を創った神様は意地悪だわ…ふぅ」


 マリリンのつぶやきは華麗にスルーさせてもらうことにした。だけど火威が男心を拗らせているからこそ、付け入るスキが出来るわけだ。俺は枢の言葉をあいつに代わって現実にしたい。まあ時間はかかりそうだけど。アイディアはある。まあ多分そのまえに火威を牢屋にぶち込んでやろうとは思うけどね。

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