第10話 デートに邪魔はつきものです!!
開いたドアの向こう側には、刀を持った、190㎝くらいはありそうな長身の男がいた。派手な赤いスーツにスキンヘッド。そしてサングラス。もう見るからにヤバい。俺らの方にニチャアって笑みを向けていた。
「派手なのは大変けっこうよ!だって的にしやすいから!」
マリリンはライフルをフルオートモードにして撃ちまくる。俺もハンドガンの引き金を弾きまくった。そして鉛弾をありったけ体の正面に食らった男はあっさりとその場に崩れ落ちた。
「…おかしい…あっさりし過ぎてる…!イツキ!下がって!!!」
そう言ってマリリンは俺のケツを思い切り蹴飛ばした。
「ぐへぇ!!」
俺の体はラブホ特有のガラス張りでオシャレでエッチなシャワー室の方へと吹っ飛ばされた。洗面台に体が打ち付けられて、背中がめっちゃ痛い。文句の一つも言ってやろうと思って顔を上げると、部屋の壁が突然崩れて砕け散り、そこからさっき撃ち殺したはずの男が飛び出してきたのだ!男はそのまま加速して俺の方へと突っ込んでくる。
「させない!!」
マリリンは俺を守るように、こちらに走ってくる男の前に立った。そしてマシェットナイフを構えて、男を迎え撃った。男は刀を大上段からマリリンに振り下ろす。マリリンはそれをマシェットで払って、ショットガンを背中から抜いて、男にぶっ放す。
「ほう!やるじゃないか!!」
男はショットガンの弾をすべて刀で切り裂いて防いだ。やばいな。銃弾への対処が可能な高位の異能者だ。俺はドアの方に目を向ける。そこには丸められた掛け布団が落ちていた。それは俺らがぶっ放した銃弾でずたずたになっている。
「変わり身の術…?忍者?」
さっき俺とマリリンはドアの向こうにちゃんとレーダー波を打っていた。それに対してこの男は丸めた布団の表面に自分の姿の光学ARアバターを被せた。そのアバターには本物の人間と同じような性質の情報を放つように、熱や空気の振動、あるいは床の震えなんかも異能の力で再現してた。そして遠隔の念動力でドアを開けて、人がいるように見せかけた。結果的に俺たちの感知をあっさりと欺瞞して見せた。そして当の本人は隣の部屋に気配を隠して侵入し、俺たちが変わり身に引っかかって隙が出来るのを伺い突入してきたわけだ。マリリンがたくらみを看破してなかったら危なかったかも知れない。
「いいや。僕は武芸者だ…」
殺し屋のくせに求道者気取りか。スキンヘッドの男は、戦闘で少しズレたサングラスをくいっとかっこよさげに、人差し指で直した。
「いやぁ。忍者でいいよ忍者で。というか別にどっちでもいいし、殺し屋のジョブとか興味ない。あんたも俺の命を狙いに来たって事でいいの?」
「ああ、お前の首を持っていくだけで、10憶も貰える。戦闘経験もない素人の男を殺すにしては割がいい仕事だ。…そう思っていたが…」
スキンヘッドの男は、マリリンの方へと視線を向けた。口元に下卑た笑みがある。
「こんな凄腕の護衛がついたんだ。とたんに割が合わなくなってしまった。10憶でも割が合わない…ただでもいいくらいだ!!!あああ!こんな強敵が!こんな美しく可憐で…なのに強い敵がいるなんて…うっ…はぁはぁ…」
あ…こいつ絶対ヤバい奴だ。俺は自分の顔が引きつるのを感じた。マリリンはJKがキモいおっさんを見た時に見せる顔の何十倍も引いた目で男を睨んでいる。
「人工異能者の特殊戦略ユニット・スターカデット隊第五席、マリリン・ハートフォード少佐。お前のことは以前、沖縄でニアミスしたことがある。ああ、美しかったなぁ。テロリスト達をバタバタと薙ぎ払うその姿!まるで天使のような愛らしさ!!うれしいよ!お前がターゲットに絆されてしまってくれて!!これで心置きなく戦えるんだからね!!まりりんちゃぁああああああああああああああああんんん!!!」
「こいつあたしのこと知ってるのかよ!キモい!!やだ!めっちゃキモい!こわ!やだ!めっちゃこわ!!!ひー!!」
なんかおかしな因縁があるみたいだな。でもどうでもいいか。そんなことよりも、こいつを撒いて逃げないといけない。だけど逃がしてはくれ無さそうな空気だなぁ。
「殺し合おう。さあ殺し合おう。マリリンちゃん。僕に殺されてくれないか?大丈夫!優しくするからね!!」
スキンヘッドの男はもうそれはそれは楽しそうに笑っている。そして持っている刀が激しく光り輝き、真っ赤になった。
「熱っ?!刀を融かしてるの?!なのに形状を固定してる?!なんて高度なくせに馬鹿な異能なのよ!アホなんじゃないの!!」
鉄を融かせるほどの高熱を扱うのは難しい。というかその熱をばら撒いた方がずっとずっとダメージになる。なのに刀を融かすだけに遣いつつ、融解した鉄をその場に固定し続けるなんていう無駄に繊細で高度な念動力まで使うんだから、こいつはアホである。
「君への情熱が刀に伝染したんだよ…。マリリンちゃんに僕の愛の熱さを知って欲しいから…」
「んなわけないでしょ!マジで気持ち悪い!!」
「どんなにキモがられても、いい!君にこの
男はマリリンに斬りかかる。一撃一撃が鋭い斬撃。だがマリリンはそれを必要最低限の動きだけで避ける。
「やっぱりかわいいなぁ!ああ!素敵だよ!可愛いよマリリンちゃん可愛いよ!」
「可愛いって言われてもちっとも嬉しくない!さいてー!!」
マリリンは刀を避けつつ、距離を取るたびにライフルを男に向かってぶっ放す。だけど。
「駄目だよ…こんな無粋な技じゃ…燃えないじゃないか…」
男は融解した刀をちょっと振るだけでいい。すべての銃弾は刀に触れただけで蒸発してしまった。それだけじゃない。
「こんのう!!」
マリリンは近くにあったソファーを掴み、男に向かって投げる。男はそのソファを刀をちょっと振るうだけで蒸発させてしまった。
「こんなんじゃ目くらましにもならないよ…。マリリンちゃん。こんな攻撃は悲しいよ…僕は君の愛らしい姿をずっとこの目で見ていたいんだからね…」
「…アホなくせに…攻防に隙が全く無い…っ!!」
「ああ!早く君のその綺麗な顔をグチャグチャに焼いてあげたい!!!」
男はマリリンをひたすら狭い部屋の中で追いかけまわす。マリリンは壁を走ったり、天井を蹴ったりしながら必死に刀を避けていた。あの刀が相手だと、今の装備ではすぐに融かされてしまう。こりゃ俺が何とかするしかないね。
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