第73話 かくれ鬼祭り①


「閃いた!!!最高の作戦!!!」


 自信満々に言い放ったジェニ。


「最高の作戦……?」


 そのあまりの自信に、ついオウム返ししてしまう。


「それは……」


「それは……?」


「なんと……」


「なんと……?」


 ジェニはたっぷり溜めると、大きく息を吸い込んで、


「どるるるるるるるるるるるるるるるるる――――――」


 ドラムロールしだした。


「なが」


 あまりの長さに思わず口からポロッと本音が漏れ出る。


「ジャン!!」


 とうとう発表か……流石に長いよ。


 ジェニは更に数秒ためて……


「全員かくれ鬼作戦!!!イェーイ!!!ドンドンドンパフパフ~!!!」


 しーん……


「……全員かくれ鬼作戦?なにそれ?」


 一人で勝手に盛り上がっているジェニに、ポカーンとする皆を代表して僕が声をかけた。


 長すぎる溜めのわりに凄くバカそうな作戦名で、いまいち理解しきれていない。


「ふふんっ!ここにいる子供たち全員で、一斉に第4層全体に散らばってかくれ鬼するんや!!!」


 ドヤ顔で胸を張って腰に手を当てているジェニ。自分の説明が簡潔過ぎることに気づいていないようだ。


「囮作戦のようなものか……」


 怪物がぼそりと呟いた。


「いやっ!単なる囮作戦なんかじゃない!!凄いよジェニ!!天才だよ!!」


 ジェニの作戦の凄さに気づいた僕は、テンションがぐんぐんと上がってきて、ジェニに「凄い凄い」と連呼する。


 その度にジェニも嬉しそうに「そやろそやろ!?」と言っている。


「ん?どういうことだ?」


 サイモン、サッキュン、怪物たちは頭の上にハテナマークを浮かべている。


「かくれんぼの極意は背景になる事だとジェニは言っていた。でも、はなからキメラモンキーたちが僕たちをターゲットにしてしらみつぶしに捜している以上それは不可能だと思っていた」


 第4層に入ったばかりの時にジェニが言ったことを思い出しながら、僕は皆に説明する。


「僕たちだけじゃ、敵の目を搔い潜ることが出来ない。でも、視線を誘導することが出来たら死角が発生する。ここにいる子供たち全員が一斉に第4層全域に逃げると見せかけて、外周ルートだけは寄り付かないようにする。僕たちはその隙に死角となった外周を見つかりにくいように……そうだな、匍匐前進ほふくぜんしんでもして進んでいくんだ!」


 ジェニが言っていたことが全てパズルピースのようにはまっていく。


「つまり子供たちは鬼ごっこを。僕たちはかくれんぼを。隠れる場所がないのなら、作ってしまえばよかったんだよ!!」


 身振り手振りを加えながら、興奮と共にジェニの作戦がいかに凄いのかを語る。


「捕まった子供たちはどうなる?」


 そこに怪物が待ったをかけた。


 確かに、僕たちが逃げる為だけにここの子供たちが不利益をこうむるのは間違っている。


 怪物が待てと言うのもわかる。ただ、この作戦の凄いところはここからだ。


「大丈夫。捕まっても殺されることはないし食べられることもない。15!」


「そ、そうだよ!捕まっても一日裸吊りされるだけで、別に暴力とかは無いよ!?あ、でも裸吊りされるのは皆嫌だよね……」


 サッキュンは僕の援護をしようとしてくれたようだが、やっぱりだめかと少し落ち込む。


 そこに「バカ!全員捕まったらロープ足りねぇだろ!裸吊りは多分されないぜ!」とサイモンがツッコむ。


「サイモンの言う通り、今回のことは警備を怠ったキメラモンキーにも問題があるとして、大々的に皆に処罰が下る可能性は低いと思う。奴らも制限が多そうだし、迂闊うかつに手を出してくることは無いんじゃないかな?」


 「ほらな?」と言うサイモンに、サッキュンも「うん」と頷く。


「でもよ?それだと俺たちは捕まり損じゃね?裸吊りは無いにしても、多少は罰があってもおかしくないわけだし」


 サイモンの疑問は当然だ。むしろリーダーとしての素質があるとさえ思う。


!」


 僕が言う事が100パーセント合っているとは思わない。けれど敢えて断言する。自信をもって話さなきゃ、人はついてきてくれないから。


「確かに、そうか……運動が苦手な奴も、まだ体力が少ないガキもいるんだ……今のうちに練習が出来るのはありがたい……」


 サイモンは今冷静に頭の中で、この作戦の価値を計算しているのだろう。


「つまり全員かくれ鬼作戦は、サイモンや子供たちの抱える問題。僕たちの抱える問題。それら全ての問題を解決する、!!」


 僕がそう言い切ると、子供たちからは知ってか知らずか「ジェニちゃん凄い」という声が湧き上がった。


「怪物はこれで良かった?」


「ああ…………ここにも大人がいる。俺たちが過剰に干渉する必要もないだろう」


「そう……だね……」


 大人だな……怪物は。誰よりも子供好きなくせに。ここに来てから、自分を取り囲む子供たちに慈愛の目を向けているくせに。


 僕ももう少し大人だったら、この気持ちを割り切れたのだろうか……?


 その間にも、「凄い凄い」と子供たちに取り囲まれたジェニは、ドヤ顔バックブリッジを決めている。有頂天とはこのことだ。






 急ぎつつも細かい作戦を練り込んで、それをサイモンが子供たちに伝えた。


 話の分かる大きな子たちをリーダーにして、少人数のチームを作って逃げる。大まかな逃げ方は相談済みだ。


 皆、猿たちの注意が僕たちの方を向かないように上手く逃げ回ってくれるらしい。


 その間にもジェニは、怪物が待ってきた荷物からいつもの冒険服に着替えて剣も装備した。


 うん!ぼろきれ一枚って言うのも凄く煽情的せんじょうてきだったけど、やっぱりミニスカの方がいいね!


 元気溌剌げんきはつらつ明朗快活めいろうかいかつ、愛くるしく可愛らしい、いつものジェニだ!


 ただ、ちょくちょく腕を気にしているのが気になるけど……


 そうこうしている間に、外で遊んでいたほとんどの子供たちが集まって来た。断片的に説明された情報に、皆心を躍らせている。


 そしていよいよサイモンが口を開いた。


「皆!!!!お猿様たちが俺たちとかくれ鬼をしてくれるんだ!!村の外にも自由に出ていいぜ!!範囲は無しで、最後まで逃げきったら勝ちだ!!」


 大きな声ではきはきと、皆に対して演説を行う。


 サイモンはこの作戦を完全に遊びだとして説明した。その方がここの子供たちには分かりやすくて良かったのだろう。


!!!!」


「「「「おおおおぉぉおおおおおおお!!!」」」」


 サイモンの合図に雄叫おたけびを上げながら、子供たちは続々と猿の楽園から飛び出していく。


 こうして、とうとう第4層全体を巻き込むにまで至った、大規模な脱走劇が幕を開けたのだった。






【余談】

猿の楽園の規模は直径1~2キロメートル。

人間たちの暮らす場所の庭はかなりの広大さだ。

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