旧時代の遺産






 ――ちょ、何アレ!? 何アレ!?


 考えるよりも早く、衝撃に紛れる形で適当な岩陰に隠れた俺とダルモン。

 できるだけ声を潜めつつ、今し方の光景に対する説明を求めた。


「……研究資料に触れたことがある。名を『エアバレット』、大陸西部の遺跡で稀に出土する旧時代の遺産だ。殆どの場合、原型も留めず壊れているらしいが」


 何かに当てたのは初めてなのか、オッサン自身も銃の威力に驚いてるみたいで、今のところ追撃の気配も逃げ去る素振りも無い。

 ひとまず此方も様子見に移るべきと判断を下したダルモンが、静かに語り始める。


「引鉄を絞る際の僅かな力を内部の機構で著しく増幅させ稼動エネルギーとし、銃身に設けられた吸気口から取り入れた空気を圧縮の後、指向性を与えて解き放つ。最大射程こそ弓の半分程度だが、威力は先の通り。まともに食らえば大型の魔物でも無傷とは行かない」


 要は空気の塊を撃ってるのか。それで、あんな大砲みたいな破壊力を出せるもんなのか。

 もうやだ、旧時代怖い。きっとエイリアンが支配する世紀末ワールドだったんだ。


「数ある旧時代の遺産の中でも、使用可能な状態の武器兵器は取引価格の桁が違う。勿論その分、危険度への考慮も含め、大国にも劣らぬ権力を持つ探索ギルドが特に厳重な管理を敷く。例え無法地帯のブラックマーケットに持ち込もうと、簡単には売り捌けない」


 加えて、迂闊な者の手に渡れば、巡り巡って自分達に危機を招く恐れも考え得る。

 上手く扱えば莫大な富を産めども、采配を誤れば猛毒と化す不発弾。

 とどのつまり組織とやらも盗掘したはいいが持て余してた代物で、忠誠心が高く、それでいて有事の際は切って捨てられる適当な人間に持たせた、と。


 ――オッサン、最初っからそういう扱いでしたのね。


「チッ……妙に情報を出し渋ったくせ、回収は何度も念押しされた理由が良く分かった。いくら扱いに困っていようとも手放すのは、あまりに惜しいんだろう」


 ダルモンは舌打ちすると、手中のカランビットナイフを軽快に回し、握り直す。

 え、まさか戦う気? 掠っただけで粉々になりそうなレベルでしたよ。


 ――俺なら逃げるね。人生、諦めも肝心。


「今回の仕事は大規模な闇組織から直々の依頼だ。失敗しました、では済まない。私とお前の首が謝罪の場に並ぶぞ」


 ――勝算は?


「お前のそういう掌返し、話が早くて悪くない。幾つか気付いたことがある」


 そっと岩陰の隙間からオッサンを覗き見るダルモン。

 向こうも少しは落ち着きを取り戻したのか、頻りに周囲を見渡し、俺達を探してる。


「あの銃。撃った後、大きく空気を吸っていた。どうやら自動で次弾を用意するようだが、装填に最低五秒はかかると見ていい」


 やたらめったら撃ちまくってこない理由はそれか。あんなの乱射されてたら、とても近付けなくて御陀仏だった。

 流石は手練れ。俺と話す間も、敵対者への耳目は絶やさなかったらしい。


「もうひとつ。複数の吸気口を備えるためか、銃身を長く取り過ぎて重心の均整が悪い。両手で構えなければ正確に狙うのは難しい筈。即ち、咄嗟の機敏さに欠ける」


 であれば、とダルモンは前置いて。一度、肺の空気を残らず吐き出し、集中を尖らせる。


「先刻、銃口を向けられた時は立ち位置が悪く、屈辱にも降伏する以外なかった……が、ここは森の中。遮蔽物など数えきれない、地の利は私のもの」


 ただ四半秒で構わない。虚を晒せば、そこで終いだ。


 最後に、そんな言葉で締め括った暗殺者様。頼もし過ぎて惚れそう。

 いや惚れないけど。怖いし。





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