道を定めよ






「さて諸君。各々に隠された異能、延いては大まかなステータスの確認が取れたところで、今後に於ける指針を定めておきたい」


 異能の確認って、ひとまずの実在が分かっただけだろ。肝心な部分は不詳のままだぞ。

 俺の『カウントダウン』てどういう能力だよ。さっきこっそり数字カウントしてみたけど何も起きなかったぞ。人前でやったら大恥かくとこだったわ。


「君達も知っての通り、我々が滞在するアルレシャ、即ちピスケス領は西方連合に加盟する国のひとつだ。したがって、残る十一ヶ国及び各国の主要な都市への出入りに手形などは必要無い。ただし――」

「――リブラ領の首都ズベン・エス・カマリだけは例外です。あそこには連合を治める四十一人議会の議事堂が据えられてますので」


 一拍置いた言葉の続きを、時間も時間だからと頼んでおいた料理を運んできた宿屋の娘さんが掻っ攫う形で引き継ぐ。

 説明や解説が好きらしいジャッカルは、台詞の締めを取られて渋い顔になっていた。


「ありがとう、若女将。チップを出すから暫く向こうに行ってくれないか」

「はーい」


 金を押し付けて追い払うジャッカル、銅貨数枚を手に駆け足でキッチンへと戻る娘さん。

 今みたいな感じでチップを気前良く払うからか、彼……いや彼女は宿の従業員に度々絡まれる。やはり俺以外全員、金のアテを見付けてるっぽい。


 あと、どうでもいいけど西方連合って議会制なのか。

 異世界って大抵どこもシンプルな君主制、トップダウン方式のバカ殿政治だとばかり。

 や、まあ考えてみれば当然か。小国が集まった連合国家で権力の一点集中なんて、そうそう起こりようがない。


「ゴホン! とどのつまり西方連合を発つ際、オレ達には身分証が必要となるワケだ!」


 強引に説明を再開するジャッカル。でも多分、誰も聞いてない。

 何故なら皆、夕食に夢中だから。揃って飢えたライオンも斯くの如し。


「……泣くぞオイ」






「とどのつまり西方連合を発つ際、オレ達には身分証が必要となるワケだ!」


 結局、食事が終わるまで待った後のリテイク。

 一回目と全く同じ声量、発音で繰り返せる点は、流石役者と言うべきか。


「身分証、ですかぁ……」

「異世界人の俺様達が一番困るやつだな。あ、大型車両とかクレーンとかフォークの免許なら今も持ってるぞ?」

「フン! 焚火の薪ほども役に立つか、そんなもの!」


 役立たず呼ばわりされた免許証をしょんぼり見下ろすシンゲン。

 先程、無視を受けたからだろう。ジャッカルの言葉がキツい。


「…………奪い取る? 偽造、する?」

「そういう最後の手段は、もっと切羽詰まった後だな」


 口数少ないハガネが差し込む台詞は、所々で物騒だ。

 基本的に無表情ゆえ分かり辛いが、彼女流の冗談であって欲しい。

 割と切に。


「当分は西方連合ここに留まるんだろ? まだ心配いらないんじゃねえか?」


 ――俺は、できるだけ早く用意した方がいいと思うけど。


「その通りだキョウ! 身分証すら持たない不審者など、周りで事件が起きようものなら真っ先に嫌疑の目が向く! 何より仕事もロクに取れん! 可及的速やかな解決が求められるのだ!」

「ジャッカル様。盛り上がっておられるところ申し訳ありませんが、どうかテーブルには立たないで頂けますでしょうか」

「む、済まない給仕殿」


 各席に配膳して回る従業員に窘められ、佇まいを直すジャッカル。


「クハハハハッ! だが案ずるな、オレはしっかり解決策も考えておいた!」

「…………すやぁ」

「ハガネちゃん。お腹一杯で眠いのは分かりますけど、ジャッカルさんのお話が終わるまでは頑張って起きてましょうねぇ」

「…………むにゃ……寝てない、寝てない、わ」


 櫂を漕ぎ始めたハガネをカルメンが揺り起こす一方、フリップボードに素早く何か書き綴るジャッカル。

 だからそれ、どっから出してるんだ。


「さあ刮目せよ! これで問題など軽くクリアだ!」


 俺の疑問など露知らず、フリップボードが勢い良く裏返される。

 そこには大きく『ギルドに入ろう!』と記されていた。





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