3-31
みんなそれぞれに、今までの生活に区切りをつけて、新しい一歩を踏み出す準備に追われていた。
マンションは、12月20日以降ならいつでも入居可能と言われていた。
大輝が、22日に引っ越しをすると言い、その前日にみんなで居酒屋に集まった。
「それでは〜、これより、大輝くんの壮行会を始めま〜す!!」
と、悠弥がふざけて言った。
よっ!いいぞ!と俺も合いの手を入れた。
「乾杯!」
みんなで声を合わせた。
「悠弥だって、明後日だろ!1人1人壮行会なんてやってらんねーんだから、言うなら、俺らの壮行会だな!桂吾は、24日だっけ?」
と、大輝が俺を見た。
「あぁ、最初そう思ってたんだけど、26日にした。今年は、もう年末年始東京だし、最後のクリスマス長野で過ごそうかな〜ってさ」
「はぁ?誰とクリスマス?」
悠弥が聞いた。
「アハハ!それ聞いちゃう?
じいちゃん、ばあちゃんとケーキ食う!」
「アハハハハハ!!じじばばっ子だもんな〜、桂吾は」
大輝が笑った。
「あぁ、15年一緒に暮らしてきたからな〜!
親よりも親をしてもらったよ。
だから、離れるの寂しい」
「そっか。瞬ちの母ちゃんも大丈夫かよ?
瞬と一緒に東京行くって言ってね〜?」
「さすがにそこまで言わないよ。
確かに寂しそうだけどな。
でも、応援してくれてるよ」
「龍聖は?」
「俺は、元々1人暮らしだし、荷物もろくにないし、いつでもいいんだけどさ。ギリギリ29か、30かと思ってるよ」
「まぁ、1日の契約の時に東京にいてくれればそれでいいんだけどさ」
と、大輝は言って、続けざまに、
「理彩子は、どうするんだよ?」
と、龍聖に聞いた。
それを、今ここで聞くかよ!?って、俺らは思った。
「どうするって、どうゆう意味?
連れて行くとか、現実問題無理だろ?
理彩子だって、せっかく今長野で仕事あるのに、それを辞めさせて東京へ一緒になんて、無責任なこと言えねーよ!
一応、聞かせてもらうけど、これからデビューするぞって時に、結婚なんて無理だよな?」
「結婚!!!!????」
4人声を合わせた。
「龍聖、理彩子と結婚を考えてるんかよ!」
悠弥が前のめりになって聞いた。
「別れるつもりがなきゃ、いずれはと思ってるよ。
理彩子にそんな話、したことはまだないけど」
「そっか」
「龍聖!リーダーとして言わせてもらうわ!
結婚は、10年後だな!」
えっ??
俺と瞬は、なんか同時に立ち上がってしまった。別に誰かを止めに入った訳でもなかったけど。
「そうか。わかった」
龍聖は、静かに言った。
「大輝!10年は、なげーよ!」
と、俺が言うと、
「俺ら、Real作ってから、10年頑張ってきたよな!
せっかくの大きなチャンスを手に入れたんだ!
こっからの10年がむしゃらにやってかね〜とダメだろ!」
「結婚したって、龍聖はうつつをぬかしたりしね〜よ!」
と、瞬が立ったまま言った。
俺は座った。
隣りを見れないけど、悠弥は、どんな気持ちだ?結婚って、好きな女がとられるみたいで、苦しいか。
結婚なんて、考えてね〜で、バンドに打ち込めよ!って思ってるか?
遠距離で離れ離れ、そんな寂しい思いをさせないで、結婚して幸せにしてやってくれ!って思っているのか?
「俺らは今まで、仕事も他にしながら、アマチュアバンドでやってきた。
普通の一般人として生活してたんだ。
だけど、プロになるってことは、今までの生活を変えてかね〜といけないって思う。
一般人の俺らが、週刊誌の芸能人のスキャンダルを面白おかしく見てたけど、これからは俺らが撮られる方の立場になってくんだよ。
今はそのスタート地点。
こうやって、みんなで騒いでても誰も気にもとめない。
だけど、デビューしたら、そうはいかなくなると思ってる。
そうゆう自覚を持った行動をしてけよ!
そうゆう意味で10年後って言わせてもらった」
「大輝が正しいな。正論だよ。
今までも、いつも大輝の言うことがあってるよ。でも、今の話は気に入らね〜な!!
理彩子の幸せは、どうなるんだよ!!あっ!?」悠弥が尻上がりにデカイ声を出した。
龍聖が立ち上がると、
「悠弥!約束する!遠距離とかでも、俺、理彩子のこと大事にするよ!
10年理彩子が待っていてくれるか、俺に愛想を尽かして離れて行ってしまうかはわからないけど、精いっぱい愛したいと思ってる」
龍聖の宣誓は、お嬢さんをください!ってお父さんにお願いするような感じだった。
大切な人を俺にくれ!って。
「そうか……そうしてくれよ……」
悠弥は、静かにそう言って、ビールを飲み干した。
正論。
大輝の言ってることは、正論だ。
やっぱり、リーダーとしてふさわしい。
大輝だって、理彩子の幸せも、龍聖の幸せも壊したいわけじゃない。
だから、どうするんだよ?って聞いたんだ。
理彩子とのことをどうしようと思っているかの確認。
大輝の優しさだ。
いずれは、理彩子が東京に出てくるかもしれない。
でも、今は一旦、遠距離だな。
それにしても、龍聖の口から結婚なんて言葉が出ると思わなかったから、すげービックリした。
悠弥にとっては、複雑な心境だろう。
だけど、さっき怒ってたように、やっぱり理彩子の幸せを1番に考えている。
龍聖と10年後でも、結婚できたら、理彩子はきっと幸せになれるだろう。
「あれっ?じゃーさ!俺らも、みんな 結婚って
10年後?35じゃん!遅くね〜!
俺の人生設計狂うんだけど」
と、瞬が気の抜けた声を出した。
「アハハハハハ!」
みんなで笑っちまった。
「瞬の人生設計だと、いくつで結婚だよ!?」と、俺は聞いた。
「高校卒業して、就職した時に、10年後はプロで食ってける予定って思ってた。
30には結婚して、次の年には子供生まれて、その3年後くらいには、2人目生まれてって」
「アハハハハハ!」
普通にスラスラ言うから、みんなで笑った。
「予定より、結婚5年先延ばしじゃん!
相手もいね〜けど!」
瞬が自虐的に言った。
「それな!アハハハハハ!」
「でも、瞬ならすぐに相手なんてみつかるだろ?その気になりゃ!」
と、俺が言うと、
「いやいやいや!瞬と結婚なんて、絶対やだね!いちいち細けえもん!
めんどくさいぜ〜こんなダンナ!」
と、悠弥が笑って言った。
「俺だって悠弥と結婚なんてしたくね〜よ!
35になって、慌てて結婚相手探してたら、40になっちまうよ!ヤバくね〜」
と、瞬が笑った。
「龍聖!なんだかんだ言ったって、おまえが結婚1番先だろ!
俺ら40過ぎるかもだかんな!アハハ!」
と、大輝が笑った。
「了解!とにかく、今はバンド頑張るわ!」
と、龍聖も笑った。
今の時点で、10年後35なんて、想像つかない。
俺は、ちゃんとした大人になっているのだろうか。
普通の人なら、瞬の人生設計のように、きっと
30くらいには結婚して、子供つくって、ファミリーでキャンプなんかしてんだろうな。
俺は、そんな風に育ってこなかったし、自分がそんな風になれるとは思ってない。
一生愛する人と巡り合って、結婚する自信なんて全くない。
それでも、いつか、運命の人ってのに、運命的に出会って、恋に落ちる……なんてのを期待してる俺は、なんてロマンチストなんだろう……
モテるのと、結婚できるのとでは話が違う。
100人に好かれたって、好きになって欲しい
たった1人には好きになってもらえないんだから、どうしようもないな……
10年後、結婚するのは、龍聖が1番早いのか。
楽しみだな。
そんなこんな、5人での最後の長野の夜を楽しんだ。
「今度5人集まるのは、東京だな〜!」
「じゃ、大輝、先に東京で待っててな〜!」
「あぁ!待ってるわ!みんな揃ったら、東京でパ〜っと飲みに行こうぜ!」
「了解!!!!」
声を合わせた。
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