3-19

 11月10日

 本戦前日


俺らは、東京で前泊することにした。

さすがに、今夜は、東京の夜の街に繰り出そうなんてバカは言わなかった。

大輝、瞬、龍聖はシングルルーム。

俺と悠弥は、2人でツインの部屋に泊まった。


俺が風呂から出ると、

「落ち着かね〜〜な〜〜!」

と、悠弥がベッドの上で携帯をイジリながらデカい声で言った。

バスタオルで髪をふきながら、俺は、

「今日は、明日に備えて早く寝ろ!って言われてるからな!

って言っても、まだ10時だし、こんな時間に寝れね〜よな!

明日、俺ら1番最後だけど、朝から会場入りだもんな〜!1日なげ〜」

と、言った。

「あぁ。だな!」

と、言いながら、悠弥は冷えた缶ビールをフワッと俺に投げた。

「おっ!サンキュー!」

「桂吾、緊張してるか?」

と聞かれた。

「緊張?今んとこしてね〜けどな。

明日、午前中のリハとかで、ホールのステージに立ったら、緊張すんのかな?

悠弥、緊張してんのかよ?」

缶ビールを開けて、飲みながら悠弥を見た。

「いや!俺も全然緊張してなくてよ〜。

なんなら、今からキャバクラでも行ってきて〜なって思うくらいだけど。

さすがに、やめとくけどさ」

「アハハ!キャバクラ2人で行ってきたなんて、バレたら殺されるな!瞬に!アハハ!」

「高校の1年の文化祭の前日の方が、もっと緊張してたよ!」

「アハハ!マジで?そう言や、文化祭の時も腹痛い 腹痛いって騒いでたよな〜!

でも、最近はライブハウスとかでやる時も、そんなこと言わねーじゃん!」

ベッドに腰掛けた。

「そう!全然平気になった!だからさ、明日って緊張ってするのかな?

ってさ、自分でもわからなくて。

もしも、緊張していつもの演奏が出来なかったらイヤだな!って思ってさ」

「アハハハハハ!悠弥がそんなこと考えてるとは誰も思ってね〜だろうな!

大丈夫だろ!!

1人でポツンとステージに立たされるんじゃなくて、5人で出るんだから。

でけーとこでも、せめースタジオでも、やること同じだろ!」

俺は、笑いながら言った。

「そうだよな」

アハハと笑いながら悠弥は答えた。

一瞬の沈黙のあと、

「桂吾……」

と、静かに言った。

「ん?」

「ありがとな!」

「は?何が?」

俺は半笑いで、悠弥の顔を覗き込んだ。

「……俺、大輝に誘われた時、正直迷ったよ……」

「ん?」

「うちの兄ちゃん、軽音やってたからさ、軽音、楽しそうとは思ってたよ……

だけどさ、なんか兄ちゃんのマネして同じことやってるみたいに思われたくね〜な!とかも思っててさ、桂吾とボクシング入ったじゃん!

なのに、大輝、ボクシングやってるとこへ ズカズカ入ってきて、軽音やらないか?って。

は??って思ったよ。

ふざけんなよ!って言いかけた。

だけどさ、俺の返事聞く前に、桂吾を見て、おまえも入る?って聞いてさ、桂吾 即答で、入る!入る!とか言ってんだもん!

笑っちまったよ!

おまえ、何勝手に、俺と一緒に入る的な返事してんだよ!って思ったね」

「アハハハハハ!マジで?俺、先走ってた?」

「桂吾がやりたそうだったから、じゃぁ、しゃーねー俺もやるか!って思ったんだよ」

「アハハ!じゃ、俺が、悠弥にありがとうじゃん!悠弥入ってくれて」

「ちげーよ!!

よく、大輝は桂吾に、俺のついでに桂吾も誘ったって言ってるけどよ!

俺に言わせれば、お前が入るって言わなければ、俺は、あの時、断ってた!

だからマジで、俺をこのバンドに導いてくれたのは、桂吾だって思ってる!

だから、ありがとな!」

俺は、悠弥を笑顔で見て、

「どっちが最初かなんて、どうでもいいよ!

俺も、悠弥と一緒にできて、超楽しかったから。アハハ!

楽しかったなんて、過去形の言い方しちまった!今も、楽しいよ!悠弥と一緒にできてさ!」

「サンキュー!じゃ、これからも頼むわ!」

「おっ!了解!」

「じゃ、寝るか!」

「あぁ!」


悠弥が、そんなこと思ってたなんて、ビックリだ。

本当に、俺は悠弥と一緒にできて、良かった!って、心からそう思ってるよ。

明日、頑張ろう。

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