3-16

 3次選考本戦の日まであと、1ヶ月ちょっと。


俺は、バイトのシフトの希望をたくさん入れた。

目的は広報活動。

オーディションの会場は、収容人数が3000人の中規模のホールだった。

わりと、クラッシックのコンサートなんかでよく使われているようだった。

音響設備が優れているホールらしい。

その3000人を単純に12で割ると250人。

1つのバンドに対して、250人くらいの観客が来ても大丈夫な計算。

そもそも、250人集められるバンドがいくつあるのだろう。

普通に友達や家族に声をかけただけでは集まらない人数。

俺らのバンドで言えば、ライブハウスで単独ライブをやらせてもらった時、キツキツに詰めてもらって100人だった。

もっと、大きなハコだったら、もう少し入れられたかなってくらい。

でも今回、俺の目標としては、300人は集めたい。

600人に声をかけて、その半分来てくれたらいいけどな。

1日、25人に声をかけるのをノルマにして、

24日間で600人。

最低でも、それだけはやろう。

 

 いつものように接客して、服を買ってもらい、帰り際に話しかける。

今度オーディションがあって、ホールへ来て、俺らのバンドの応援してくれたら、超うれしいんだけど。

君に、聴きに来てほしいなって、思っちゃった。

そう言って、日時場所が書かれたカードを手渡した。

これを1日25人。

1日8時間、みっちり働いた。

俺は、ただカードを配るようなことはしなかった。

丁寧に接客して、買ってくれた人にだけ、話した。

少なからず、俺を気に入ってくれている人だからこそ、聴きに来て欲しい!って言葉が響くのではないかと思うから。


それと、1度渡した人の顔は覚えていたから、次に来た時には、その先の話をした。

「観客の人数とかもオーディションの審査に関係してくるからさ〜。

お友達とかも誘って、大勢で来てくれると助かるんだけどな〜!

東京だからさ、遠いし、無理にとは言えないんだけど」


桂吾さんの為に、絶対行きますから!!とか言ってくれる人も何人もいた。


売り上げ金額も、すごく高かった。

「ちょっと!桂吾!今月すごくない?この金額売ってたら、社員だったら、本部から表彰されちゃうレベルだよ〜!」

店長が俺に声をかけた。

「マジで?俺、社員になれんな〜!」

「うちとしては、欲しい人材だし、いつまでもここに居てほしいって思ってるけど、バンドでデビューする夢を叶えて欲しいとも思ってるよ!」と、店長が笑って言った。

「サンキュー!店長!俺のやり方に目をつぶっててくれて、感謝してるよ!

あともうちょっと、このままやらせてくれよ!」

「いいよ!頑張りなよ!」

そう言ってくれた。

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