3-13

 12時過ぎた。

12時半にスタジオ入りだから、そろそろ衣装に着替えるか。

大部屋で着替えたって全然構わなかったけど、女の子バンドが2組いたから、瞬がスタッフさんに聞きに行ってきて、更衣室を使わせてもらえることになった。

衣装を持って、更衣室に行き着替えをして、また大部屋に戻ると、大部屋内がざわついた。

特に女の子たちは、えっ!えっ?って、騒いでいる。

さっきまで、普通に一緒の部屋にいたのに、気にしてなかったんだろうけど、こんなカッコいい人いたんだ!みたいな感じで、龍聖を見てる。

「がんばってください!」

なんて、目をキラキラさせて言われちゃって。

君たちとは、ライバルなんだけどって笑えた。


「じゃ〜、楽器持ってスタジオへ行くぞ!」

と、大輝が言った。

「了解!」

みんなで声を合わせた。

俺は、ギターと花束を持って行った。


 Aスタジオに入り、すぐにチューニングした。どのバンドも同じ条件だからしょうがないけど、ドラムとピアノは借り物だから、大輝と瞬は慣らすのが大変かな?

そう思ったけど、じゃ、やるか!って大輝が言って、あっさり通しでやることにした。

瞬のピアノソロから始まる。

何回も聴いてきた音色と、全然変わらない。

ピアノには、それぞれクセがある。

やりずらいな〜って思うピアノもある。

あとは、相性かな。

でも、どんなピアノでも変わらずに出来るのはさすがだ。

大輝のドラムも大丈夫。

何も心配ないな。


「よし!オッケー!5分前!

じゃ、立ち位置確認して。

いいな!もう少ししたら、ガラスの向こう側に審査員入ってくるけど、いつも通りの、最高のパフォーマンスをしようぜ!!」

大輝が喝を入れた。

「了解!!」

みんなの声が揃った。


審査員が入ってきた。男3人、女2人。

あとで、審査資料に使うので、演奏を録画しますがご了承ください。と、マイクを通して審査員の1人が言った。

「では、バンド名と曲名を言っていただいて、演奏お願いします」


いつものように、いや、いつも以上に最高の演奏が出来たと思った。


余韻……

審査員にも、伝わっただろう。


演奏が終わると、ガラスの向こうで審査員たちは立ち上がって何か話していた。

そして、マイクを通して俺たちに

「お疲れ様でした。演奏が終わったばかりですが、このあと第2会議室に移動をお願いします。楽器をお持ちになって、先ほどの控え室の目の前になりますが、そちらの部屋でお待ち下さい」

と言われた。

大部屋の向かいの部屋?そんなところに、みんな入ってったか?

「ありがとうございました!」

と大輝が言ったので、それに続けて

「ありがとうございました!!」

と俺たちも言って一礼した。

とりあえず、言われたように、楽器を持って移動した。

まだ、審査が続いてるような感じだったから、誰も何もしゃべらず、無言で移動した。

大部屋の向かいの部屋。

確かに、第2会議室と書いてある。

大輝がノックして、失礼します!と言って、ドアを開けた。

入ってみたら、誰もいなかった。

椅子が5つ並べられていたから、とりあえず、そこに座れと言うことだろう。

左から、大輝、瞬、龍聖、俺、悠弥の順番で座った。

隣の悠弥が小声で

「これ何?」

って半笑いで聞いてきた。

「面接じゃね〜?」

「面接?今日の予定にそんなんあったのかよ?」


ちょうど、その時、ガチャっとドアが開く音がした。

瞬がサッと立ち上がったから、俺たちもみんな立った。

入ってきた人たちは、さっきの審査員とは別の人たち。

もうちょい偉い人?って感じのスーツの人が4人入ってきた。

俺たちの向かい側のテーブルに着くと、

「お疲れ様でした。お掛けください」

と言った。

そう言われて、失礼しますと腰かけた。

また、ガチャっとドアが開き、若いスタッフさんが小走りで駆け寄ると、用紙を偉い4人に配って、小走りで出て行った。


「それでは、自己紹介をお願いします。

座ったままで結構です」

と、言われた。

「Realリーダーの大輝です。ドラム担当です。よろしくお願いします」

と、言った。

次に瞬が、

「Real、瞬です。担当は、ピアノとギターです。よろしくお願い致します」

「Real、ボーカルの龍聖です。よろしくお願いします」

「Real、ギター担当の桂吾です。よろしくお願いします」

「Real、ベースの悠弥です。よろしくお願いします」


手元にあるさっき配られた用紙は、俺たちのプロフィールか何かの資料らしく、俺らの顔と手元の紙を交互に見ていた。

そして、

「ありがとうございます。では、リーダーの大輝さん、このバンドのカラーを教えて下さい」

と言った。

「はい!Realは、結成10年目になります。

元々は、高校の軽音部からになりますが、今と一緒のこの5人のメンバーで立ち上げました。

今回のコンテストのお題がラブソングと言うことだったので、今日は、バラード曲をやらせてもらいましたが、得意としてるのは、ハードロックです」

ハッキリと、力強く大輝が答えた。


「ありがとうございます。

それでは、桂吾さん、作詞作曲も担当されているということですが、この曲に込めた思いを、簡単に英語で答えていただけますか?」


英語?俺が、なんちゃってハーフなのか、試してんだな。


「では、簡単に。

この曲は、好きだった人を忘れられないと言う曲です。

別れて会えなくなっても、いつまでも余韻が続いていると言う、切ない系のラブバラードです。女々しい男の実体験の話です。アハハ」


端の女性が、英語で質問してきた。

「スタジオのピアノの上にあったお花は、今あなたの膝の上にあるものかしら?」

「えぇ。そうです。ラナンキュラス。花言葉は、美しい人格、優しい心遣い、晴れやかな魅力です。

この花は、思い出深い花なので」


俺は立ち上がって、この花束をその女性に渡した。


「どうぞ。花は、女性の方が似合う。早めに花瓶に入れてやってください」

と、にこっと笑った。

面接官の女性もにこっとした。


俺がまた席に着くと、1番偉いっぽい人が

「ありがとうございました。これで、本日の2次選考は終わりです。結果は、おってお知らせします。気をつけてお帰りください」

と言った。

俺たちは、立ち上がり、ありがとうございました!と一礼した。

そして、悠弥から一列で会議室を出た。


目の前の大部屋に戻ると、そこにいた人たちの視線が凄かった!!

俺たちは、何か別格的なオーラをはなっている。

自分自身で、それを感じてしまった。


「やべーー!!すげー喉カラカラなんだけど!」悠弥が椅子に座って、飲みかけのお茶を飲み干した。

「お前、自己紹介しかしてね〜じゃん!アハハ!」

「そうだけどよ〜!英語で言えとか、そんな面接ありかよ?大企業かよ!」

「あれは、単に、俺がなんちゃってハーフに見えたから、イジワルで試したんだろ?」


「さすがに、桂吾は、機転が利くな!」

龍聖が言った。

ん?

「花に興味を持った女性に、その花を渡すなんてさ〜!海外ドラマみたいだった!」

「日本人にはない感覚だよな!ハハハ。俺には絶対できないよ!でも、別にゴマすってる感もなく、スマートだったから、好感はもたれたんじゃないか!」

と、瞬が言った。

「ってか、終わったから撤収すんぞ!いつまでも、ここでダベってたら迷惑だからな!」

大輝に促されて、更衣室へ行き、私服に着替えてみんなでスタジオの建物から出た。


もう、2時過ぎだった。

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