第3話 友達になる

 とにかく話を続けよう。


「女の子が可愛い漫画っていいよね。俺もそういうの好き。癒やされるっていうか」

「……オタク?」

「そうそう。オタクだよ俺は」

「ふーん」


 ちょっと興味あるように俺をジロジロ見る美愛ちゃん。視線がこそばゆい。


「オススメの漫画あったら教えてよ」

「これ」


 美愛ちゃんが部屋の端に積まれていた漫画を持ってくる。

 なになに……タイトルは『百合の花が咲く頃に』。表紙には女の子と女の子が仲良く手を握っている絵が。

 

「なるほど! 美愛ちゃんは百合系が好きなのか!」


 女の子が可愛いってそういう意味ね。確かに可愛いシーンはいっぱいあるね。


「もしかして、美愛ちゃんもそういう気がある……?」

「いや、私はノーマル。こういうのは、見て楽しむだけ」

「そ、そうか」


 なんだかほっとする。女の子にしか興味ないと言われたら友達になるどころじゃなかった。いや、俺は別に相手が百合少女でも全然構わないんだけどね?


 俺も百合系は嗜むくらいには知っていたので、会話がはずんだ。

 好きな百合漫画やアニメを伝え合う。美愛ちゃんは相変わらず素っ気ない口調だったが、垂れた横髪を指で弄りつつ返事をしてくれる。


 ぺたんと女の子座りしているのが大変可愛らしく、太ももの間からわずかに見える白い下着に視線が吸い寄せられた。無防備な子だ……指摘するべきか迷ったが、機嫌を損ねてしまうかもしれないのでやめておいた。


「美愛ちゃんは物知りだね。俺よりオタクなんじゃない?」

「それほどでもない……えっと……」


 美愛ちゃんが困ったように俺から視線を逸らしたり向けたりを繰り返す。彼女がなにを気にしているのか分かった俺は、微笑んで言った。


「俺は稲葉秋人。まぁ、普通に秋人と呼び捨てか、先輩とでも呼んでくれればいいよ」

「……せんぱい」


 ちょっと照れるように小さな声量で呟く美愛ちゃん。

 控えめな仕草や声がめちゃくちゃ可愛い後輩である。

 さらに会話を続けていくうちに、段々と素っ気なさも薄れてきた美愛ちゃんは、スマホを手に取って言った。


「もう夕方だけど……」

「ああ、そろそろ帰らなきゃ」


 立ち上がって部屋を出る前に、俺は美愛ちゃんに伝えた。


「これからちょくちょく遊びに来るよ。美愛ちゃんがよければだけど」

「……勝手にすれば」

「うん、勝手にするよ」


 階段を下りて居間に戻ると、沙綾さんが笑顔で俺の鞄を渡してくれた。


「どうだった? 美愛とは仲良くなれそう?」

「いけそうです。少なくとも嫌われているわけではなさそうなので」

「さすがは秋人くん! これからはいつでもウチに来てくれていいよ!」

「はい、そうさせてもらいます。じゃあ、今日はこれで」


 自宅に帰った俺は、ベッドでスマホを弄る。

 するとメッセージアプリに通知が。

 また沙綾さんがエッチな自撮りでも送ってくれたのかと思ったが、どうやら違うようだ。初めて見るアカウント名から友達申請が送られている。


「『ミア』……どう考えてもあの子だ」


 即行で友達申請を承認した俺は、次の瞬間に届いたメッセージに頬が緩んでしまう。


『お姉ちゃんに言われたから、仕方なくせんぱいの友達になってあげる』


「ツンデレかよ……最高だな」


 ニヤニヤしながら呟く俺は、傍目から見てめちゃくちゃキモいと思う。

 しかし、それほどまでに嬉しかったのだ。これから美愛ちゃんと友達として触れ合えることが。


「今日もよく眠れそうだ」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る