第2話 引きこもりの彼女

 とりあえず再びコタツの中に入る。沙綾さんも俺の正面に座り、二人で緑茶を啜った。


「秋人くん、実は今回家に連れてきたのには理由があるの」

「理由ですか? 息抜きという話でしたが?」

「それも理由の一つだけど……もう一つは美愛に関係することで頼みがあって」


 沙綾さんは飲み終えた後のコップを置いて、理由とやらを話し始めた。


「美愛はうちの学園の一年生なんだけど、不登校でね……今年の夏前から突然登校したくないって言い出したきり部屋に閉じこもってるの」

「そうなんですね……学園に行きたくない理由は聞いてないんですか?」

「何度も聞いたけど、なにも話してくれなくて」


 多感な年頃だから、姉の沙綾さんには話したくないのかもしれない。

 しかし不登校で引きこもりか……これは難しい問題だぞ。


「それで、俺に頼みとは?」

「秋人くんには、毎日一人っきりでいる美愛の友達になってもらいたいの。気軽に話せる相手がいたら、少しは美愛も心を開いてくれるかもしれないから」

「なるほど」


 沙綾さんの目からは、本気で美愛ちゃんのことを心配しているのが窺える。俺は、できるなら日頃お世話になっている先輩の助けになりたい。コップのお茶を飲み干して、沙綾さんと視線を合わせる。


「分かりました。俺でよければ、美愛ちゃんの友達になります。とはいえ、美愛ちゃんに受け入れてもらえるかは自信がないんですが」

「大丈夫、秋人くんは接しやすいタイプだから。なんだか自然体で話せるっていうか」


 ちょっと俺を過大評価しすぎではないでしょうか?

 まぁ、俺は非リアとはいえ会話が苦手なわけではない。素っ気ない感じの美愛ちゃんの心を開けるかはちょっと分からないが、沙綾さんとバカ話するようなノリで挑めばなんとかなるだろう。


「今日はもう遅いから、明日からお願いできる?」


 俺は頷いた。

 沙綾さんの家を出て、帰路につく。

 夕食を摂った後に自室のベッドでスマホを弄っていたら、メッセージアプリに沙綾さんからのメッセージが届いた。


『優しい秋人くんに、ご褒美だぞ♡』


 メッセージには画像が添付されており、競泳水着姿の沙綾さんが前かがみで胸の谷間を強調している自撮りだった。俺が帰った後にわざわざ着替えたのか?


「あの人なにやってんだか……まぁ保存するけど」


 きっちり画像を秘蔵フォルダに保存した。今日はよく眠れそうだ。


 次の日、全ての授業を終えて部室に行くと、先に来ていた沙綾さんが出迎えてくれる。


「部活が終わったら、私と一緒に来てくれる?」

「了解です」

「あ、昨日の画像使った?」

「使ったってなんですか。なんに使うんですか」


 呆れながら俺専用の椅子に座る。

 今日も小説と睨めっこしていたが、良さげなアイデアは湧いてこなかった。

 部活が終わり、沙綾さんと一緒に下校する。

 和風家屋の引き戸を開いて「ただいまー!」と元気よく声を出す沙綾さん。俺は靴を脱いで彼女の後に続いた。


 二階からぺたぺたと足音がして、美愛ちゃんが階段を下りてきた。


「……また来たの?」

「二日続けてお邪魔しまーす」

「ん……」


 短く応答した美愛ちゃんは、そのまま二階に戻っていった。

 とりあえず居間のコタツに入る。沙綾さんはキッチンへ向かった。昨日のようにお茶を出してくれるのかと思ったが、なぜか沙綾さんが持ってきたのは皿に乗ったおはぎである。


「いただきます」

「どうぞどうぞ!」


 箸でおはぎをいただく。めっちゃ美味い。


「そういえば、美愛ちゃんは普段なにをしているんでしょうか。共通の話題さえあればオタク特有の早口で話せるんですが」

「んー、ゲームやったり漫画読んでるっぽい」

「なんだか突然あの子と仲良くなれる気がしてきた」


 ゲームとか漫画が好きな女の子って最高だよね。

 共通の話題はあるので、後は挑んでみるのみだ。沙綾さんの応援に背中を押された俺は、静かに二階へと上がる。


 『みあ』と描かれたプレートの下げられている部屋をノックした。


「美愛ちゃん、ちょっといいかな?」


 反応はない。無視されてるのだろうか。

 ノックを続けると、五回目ぐらいでようやく美愛ちゃんがドアを開いてくれた。


「なに?」

「いや……えっとな……」


 なんと切り出せばいいか迷う。いきなり仲良くなりたいと言っても下心丸出しに思われそうだしな。


「美愛ちゃんってゲームとか漫画好きなんだって? 実は俺もなんだ。だから、なんだか仲良くなれそうだなって」

「……それで?」

「ひとまず部屋に入っていいか?」


 美愛ちゃんはしばらく黙り込んでいたが、わずかに頷く。

 美愛ちゃんの部屋に足を踏み入れる。和風の居間とは違い、クローゼットやベッドといった洋風の家具が、わりと広めの部屋内に設置されている。床には漫画やアニメ系の雑誌が散らばっていた。あまり片付けが得意なほうではないらしい。


「てきとうに座って」

「ああ」


 さて、ここからが勝負だ。

 上手く彼女と友達になれるかどうか……すべては俺の話術に懸かっている。


「美愛ちゃんは、どんな漫画がすっ、しゅきっ!?」


 いきなり噛んでしまった。しゅきってなんだよキモいわ。


「……女の子が可愛い漫画」


 しかし美愛ちゃんは俺の痴態に全く反応を見せず、淡々と好きな漫画のタイプを告げるのであった。

 

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