獣魔戦争 最終決戦前夜 3
俺たちは、リラさんとミルを残して、大テントに向かう。
リラさんたちは、今夜も昨晩泊まった宿を手配してくれているので、直にそっちに移るだろう。
大テントの着くと、今度は俺たちが最後だった。
バック、バニラ、バレル、ラニカ老、ジャニス。赤目隊長も座している。そして俺たち3人で、主要メンバーが揃った。
マイネーは、テントに入ると、一番上座に座って、厳しい表情を集まった面々に向ける。
「ご苦労だった」
マイネーの言葉に、集まった獣人たちが頷く。
「奇しくも、たまたま居合わせた、『竜の団』の助勢が大きく、厳しい局面を何度も乗り越えて2日目を終える事が出来た。竜の団の方々、礼を言う。赤目殿も、後背を預かっていただき礼を言う」
今回は随分とかしこまった様子で話しをする。こういう姿を見ると、マイネーには王の風格がある。
適当な座り方をしていた赤目隊長が、思わず急に姿勢を正したくらいだ。
「さて、ここで諸君に話さねばならない事がある。心して聞いて欲しい」
ここからの情報は、俺たち以外はまだ知らない事だ。
俺とファーン以外の顔に緊張が走る。マイネーの様子からして、かなりの凶報なのだろうと覚悟する。
「先日、冒険者ギルドから緊急クエストの発令があった。範囲はグラーダ近郊で、対象は黒ランク以上の全冒険者だ」
「な、なんじゃと?」
「何てことだ」
「ねえ、緊急クエストってなにさ?」
テント内がざわつく。バニラを除いて、獣人全員の表情が強ばっていた。赤目隊長も驚きの表情をしている。
「つまり、この町に援軍は来ない」
「にゃあ!それは困る!!」
マイネーが断言すると、バニラもようやく事態の深刻さに気付く。
「そうなると、時間の経過で有利になると思っておりましたが、無意味ですな」
ラニカ老が、長い白髭を撫でて唸る。背の小さい老人だが、獣化すると、素早い動きで敵を翻弄するそうだ。頭も良いので、状況理解が早い。
「じゃあ、町に籠もってても助けが来ないって事ですね」
同じ事を確認したのはバレルだ。まあ、3バカの中ではまともな方なのかも知れない。話しにはついてこられている。
バックは、またバニラに頭を叩かれて固まっているし、バニラは一々ついてこられていない。この会議に参加する必要があるのか疑問に思う。いろんな獣人と話したけど、もっとまともな人材は結構いたと思うぞ・・・・・・。
マイネーが頷く。
「もう一つある」
再び静かになり、緊張が走る。
「今夜は敵の夜襲がある」
そうなのだ。
「何故ですかな?」
ラニカ老が尋ねると、マイネーが俺の方を見る。説明しろって事か・・・・・・。
「ああ、えっとですね・・・・・・」
俺が話そうとすると、マイネー目を閉じながら言う。
「普通の話し方で話すと良い」
まあ、そうだな。今更かしこまっても仕方が無い。
「敵の狙いは、はじめから南北の門には無かった。北門を破るのが主攻と見せかけて、奴らは最初から西のトロルたちによる投石が狙いだった」
「そっちは、南北に守備兵を堅められないようにする為ではなかったのですか?」
俺は頷く。
「俺も、敵はたかがモンスターだから、トロルを使って出来る事をしてみたぐらいにしか思っていなかったが、どうやらちゃんと狙いはあったようだ。トロルたちが石を投げていた真の目的は、防壁にいくつもほころびを作る事と、堀を埋める事だ」
言われて見れば単純な事だが、派手に町中まで降り注ぐ石や丸太に気を取られて、堀の中まで確認する事は考えてもいなかった。マイネーの一言が無ければ、堀に目をこらす事も無かっただろう。
「堀には、一見水が張ったままに見えるが、その実、かなり埋まっていて、水深が浅くなっている。大量に投げ込まれた石や、崩れた防壁の材でな・・・・・・」
マイネーが言葉を引き継ぐ。
「奴らは巧妙にも、我々に気付かせないように、いくつも策を施したようだ。トロルが壊滅する事も、ハーピーが全滅する事も織り込み済みだ。我々は、何も知らなければ、今夜は通常の警備で、後の連中は休んでいたはずだ。何せ、明日はこっちが攻勢に出ざるを得ない状況に陥っているんだからな」
「あ・・・・・・」
誰かがうめき声を上げた。
「そうだ。我々には援軍が来ない。防壁も門も、あと1日持ちこたえるのは厳しい。そうなると、明日には攻勢を掛けなくてはこの町は墜ちてしまう。・・・・・・残念ながら、この流れまでもが敵の手のひらの上だった。その為に、今夜は出来るだけ兵を休ませたいと考えるだろう?それを見越して、今夜敵は夜襲を掛けてくる。埋まった堀と、崩れた防壁を利用してな」
「・・・・・・すると、敵は、緊急クエストの発令と関係があるのですな?」
ラニカ老が確認してくる。マイネーが頷く。
「そうだ。緊急クエスト発令の原因は、地獄の魔物が出現したとの事だ。場所はレグラーダの南だ。恐らく、この町を襲いに来たあいつらは、地獄の勢力だ。狙いはオレ様だな。獣人国の大族長にして、最強の戦士だ」
マイネーの言葉に、獣人たちは一様に頷く。
「族長が倒れたら、下手をすれば連合が瓦解するかも知れないですからな」
ラニカ老が言うので、俺は驚く。そんな俺の表情に気付いたマイネーが苦笑を浮かべる。
「まあ、今、獣人国でも色々問題があってな。まあ、それももうすぐ
「今が大切な時期ですからな」
ラニカ老が渋い表情を浮かべる。
知らなかったが、考えてみれば平和そうな獣人国も、つい数十年前までは、隣の部族との戦争なんて当たり前にやっていたのだ。なにかきっかけがあれば、火が着くのもあっという間なのだろう。
そう考えてみれば、マイネーがよく抑えているという事なのだろうか・・・・・・。
「なぁに。あと一発ぶん殴れば解決する」
解決の方法は獣人らしいのかな・・・・・・。脳筋だ。
「まあ、それはそれとして、今夜は眠れないと思え。あと、もう手配しているが、今から交代で2時間ずつ兵士たちを密かに休ませている」
マイネーがそう言う。
しかし、ここに来る前に俺たちで話していたのだが、恐らく、魔物に操られた内通者がこの町にいるに違いないと。
敵がただのモンスターでは無く、地獄の勢力を背景に持っていると考えれば、その位の事は仕掛けているだろう。
内通者も、自分が裏切っている事は理解しているが、魔物にそそのかされて裏切っているとは思っていないだろう。
実体を持たない魔物が、こっそり忍び寄り、囁き掛けるのだという。そうすると、魔物にそそのかされたと気付かないうちに、魔物の思うままに考えて、行動してしまうのだ。
特に心に不安や不満、恐怖や野心を強く抱え込んでいる人間は、魔物に操られやすい。
この町には1000人程住人がいる。であれば、魔物に操られやすい人も少なからずいるだろう。
だから、こっちの動きは筒抜けと思って動いた方が良い。
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