獣魔戦争 カシム隊 2
敵の様子を窺うが、南西の小門、北西の小門、後は空の戦闘に気を取られていて、誰も俺たちに気付いていない。
トロルたちは、俺たちの受け持つ南西側に30体。距離にして約100メートル。そのトロルたちの背後には、トロルに指示を出すためだろうか、ゴブリンが100体ほどいる。
俺たちは、斜め後方から接近する形になっている。
だが、敵の本陣は、俺たちの後方にいる。つまり対岸だ。距離はあるが、こっちに気を付けていれば丸見えな状況だ。急いで行動に移らなければいけない。
42名とリラさんが岸に上がり、それぞれの小隊ごとに陣形を組む。
俺たちは姿勢を低くしたまま、俺のハンドサインで無言のままトロルたちに向かって走る。
川岸の背の高い草むらを突っ切ると、無残に踏みつぶされた畑に出た。ここからは俺たちの姿を隠す物は無い。
トロルたちは3体ずつが一つの岩やら丸太やらが山積みにされた所にまとまっている。町の防壁と並行して並んで、ノロノロ動きながら、ひたすら町に物を投げつけていた。
トロルのすぐ後ろで、トロルに命令していたゴブリンたちが、接近する俺たちに気付いて、慌てて金切り声を上げてトロルに指示を出す。
だが、遅い。一番近いトロルと俺の距離は30メートルを切っている。
もう、静かにする必要は無い。俺は味方に指示を出す。
「手前から、一番!二番!三番!四番隊はゴブリンを殲滅しろ!!」
そう叫ぶと、俺は火炎刀に闘気を送る。だが、炎の刃は出さない様にする。派手な技を使えば、すぐに南西の小門前で陣取っているモンスター軍3500が、こっちに襲いかかってくる。そうなると、トロルとの戦闘どころでは無くなってしまう。
なので、火炎刀には薄い炎をまとわせる。
昨日の戦闘から戻って、俺は火炎刀の扱い方を練習していた。だから、この炎が、見た目は薄く弱い炎のようでも、とんでもない熱量を持っている事は知っている。
俺が一番手だ。
トロルに向かって疾駆する俺の側で、メキメキッと筋肉が盛り上がり、骨格が変形していく音がいくつも起こる。
獣人たちが獣化しながらトロルに向かって走る。獣人らしくなく、吠え声や雄叫びを上げないので、その音が不吉な死の遣いの様に響く。もちろん死ぬのはモンスターたちだ。
俺は、目前に迫ったトロルが、俺に向かって、二抱えもありそうな太く長い腕を振り下ろそうとするのが見えた。その瞬間に、俺は一気に走る速度を上げる。リラさんの支援魔法のおかげで体が軽い。
火炎刀を一降りすると、硬い皮膚と、柔軟で厚みのある筋肉に覆われているトロルの太い腕を、何の抵抗も感じさせずに切断する。
「え?」
刀を振り抜いた俺が驚く。
昨日の戦闘でも、この魔剣の切れ味は承知していたが、トロル相手でも、ここまで切れるとは予想だにしていなかった。
『こ、これは、欲しい!!』
すでに伝説の一部となっているこの火炎刀じゃなくても良いから、名のある聖剣や魔剣のたぐいが、生まれて初めて欲しいと思った。武器によって、こうも戦闘力に差が出るのかと実感する。
ペンダートン家の鍛冶師ガトーの剣も充分な性能ではあるが、聖剣や魔剣と呼ばれる逸品に比べると、どうしても性能が見劣りする。
火炎刀に切断された腕の断面は、瞬時に焼け焦げ、トロルの再生能力を無効化する。
痛みに鈍いトロルも、さすがに腕が切断されて焼かれたのだ。苦悶の叫びを上げる。
そのトロルの腹に、8本の槍が刺さる。
槍でトロルの足を止めている間に、俺はもう2度、3度と刀を振るう。胸や肩を切って焼く。だが、致命傷にはほど遠い。
トロルの生命力は半端ない。8本の槍で押さえつけているのに、怪力を発揮してもがこうとする。
イヌ獣人は連携が得意である。アイコンタクトだけで、2人ずつ槍を抜いてまたトロルに突き刺していく。
俺はタイミングを計って、トロルに突き刺したばかりの槍の柄を踏み台にして、高く飛び上がる。そして、トロルが暴れて振り回していた腕に飛び乗ると、トロルの顔が目の前に来る。
火炎刀を一閃する。
骨を断つ手応えすら感じさせずにトロルの頭が胴体から離れて地面に落ちる。
首を切断されれば、いかにトロルの生命力が高かろうと、一撃で倒す事が出来る。本来は、分厚い筋肉と、太くて硬い骨が邪魔して、こんなに簡単に首を切り落とす事なんて出来ないはずだ。火炎刀の為せる技と言える。
俺の小隊のメンバーも、あまりの事に声も無く、落ちた首を見つめる。
「かぁっ・・・・・・くっ!っんぐ!」
リラさんが素っ頓狂な叫び声を上げたとき、首を切られたトロルが地面に崩れ落ちた。それを見て、ようやく小隊のメンバーが歓声を上げる。
「うおおおおおおおおっ!!」
「カシム!カシム!」
「隻眼竜!」
俺を湛えて声を上げる。ただ「隻眼竜」は恥ずかしすぎる。違う二つ名にして欲しい・・・・・・。
「よ、よし、次行くぞ!」
俺が次の標的となるトロルを火炎刀で指し示す。
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