獣魔戦争  挟撃作戦 1

 どこをどう彷徨ったのか、ジェイクはレグラーダ近くの畑で倒れているところを保護された。

 体中が傷だらけで、装備もほとんど破損しており、意識が戻るまで、数日を要した。

 

 ジェイクは、レグラーダの、冒険者ギルド管轄の病院で、意識を取り戻す。

 しかし、ひどく錯乱しており、何があったのか説明する事は出来なかった。絶叫してベッドから転げ落ちて、どこかへ必死に逃げようとする。

 その度に、側で見守っているギルド職員に取り押さえられ、薬で眠らされる。眠っている間に、精神回復系魔法を使える魔法使いが魔法を掛ける。

 体の傷は、もうすっかり回復していたが、ジェイクが正気を取り戻すのに、保護されてから2日かかった。


「事の始まりはデナンの町で、第四級神を名乗るバルバロって神に会ったところからだ・・・・・・。」

 5月19日の朝、ジェイクが正気を取り戻し、早速ギルド職員と、グラーダ国の兵士により、聞き取り調査が行われた。

 正気を取り戻したジェイクは、無感情な様子で話し出す。

「奴のダンジョンの調査がいよいよ終わりになり、ダンジョンの最奥部に到着したんだ。だけども、そこにはダンジョンコアは無かったんだよ。・・・・・・未完成なのかとも思ったが、ダンジョンコアの台座の代わりに、更に深い階層に続く穴が空いているのを発見したんだ。そうしたら、そこから訳のわからねぇ化け物どもが湧いて出やがった」

「化け物?」

 ギルドの職員が尋ねる。

「そうだ。化け物だ。いいか、野獣や魔獣とかじゃねぇ。化け物だ。間違いない。あいつらは地獄の魔物たちだ。俺たち青ランクの冒険者風情じゃ、太刀打ちできねえ化け物どもだった」

 地獄の魔物と聞いて、兵士もギルド職員もつばを飲み込む。室内の空気が数度下がったように感じた。


「そいつらは、俺たちがダンジョンに入った時から潜んでいて、最奥部に到着したとたん襲ってきたんだ。俺たちは逃げるしかなかった。だが、ダンジョンの浅い層でも待ち伏せしてやがった。俺たちは奴らにとって、狩りの獲物だった」

 ジェイクの目に涙が滲む。話しながら感情が高ぶっていく。

「ちくしょう!あいつら俺たちをいたぶって、怯えさせて、なぶり者にして楽しんでやがった。最悪だ!!俺は仲間を見殺しにして逃げるしか出来なかった!せめてとどめを刺して楽にさせてやりたかったのに、それすら出来なかった!!」

 ジェイクがベッドの上で拳を握る。その拳に何粒もの涙がこぼれ落ちる。

「俺はリーダーだったのに!!なんで、俺だけが生き延びちまったんだ!!??バッファ、クエイト、ヴァイエイト、アネリア、ブリング!!すまねぇ!・・・・・・すまねぇ!」

 ギルドの職員が慰めるように、いたわるようにジェイクの背を撫でる。元冒険者の逞しい男だが、ジェイクの痛みはよく分かる。彼も冒険者の頃に仲間を亡くしている。それで冒険者を引退して、ギルドで働くようになったのだ。


「わかった。必ず仲間の仇は取ると約束する。冒険者ギルドの威信にかけて」

「我々グラーダ軍も、地獄の魔物とあっては看過できません。至急上に報告します。恐らく軍を上げて、ダンジョンを包囲し、他に犠牲が出ないように行動する事になるでしょう」

 兵士もそう約束をする。兵士の言う通り、軍は恐らく包囲する形で、ダンジョンに実際に入るのは冒険者になるだろう。

 軍の中でも志願者を募って、パーティー、と言うか、小隊を数組み作って、ダンジョンに入るぐらいの事はするかも知れないが、事がダンジョンとなれば、冒険者の方が専門家だ。

「それで、そのダンジョンの詳しい場所を教えてくれ」

 ギルド職員が、ジェイクに言う。

 ジェイクはそれに答えて詳しい場所を告げる。


「何てことだ。そこだとほとんど禁止エリアじゃないか・・・・・・」

 ギルド職員が唸る。

「いや。恐らくそこは数年前までは砂漠だったに違いない。我が国の取り組みで、砂漠は年々緑化して減少して行ってる」

 兵士が補足して答える。

「つまり禁止エリアだ」

 一瞬の静寂が室内を支配する。その静寂を破ってジェイクが血を吐くように思いを込めて叫ぶ。

「頼む!仲間の仇を取ってくれ!!奴らを殲滅してくれ!!それとバルバロの野郎を捕まえてくれ!!頼む!!頼む!!」

 ジェイクの悲痛な懇願に、ギルド職員も兵士も頷く。

「任せておけ。だから、今は休め。何かあったらちゃんと知らせに来る。だから、な」

 先輩冒険者であるギルド職員の目が、哀切の色を帯びてジェイクを見る。その目に、ジェイクも感じるところがあったのだろう。静かに頷いた。

 

 ギルド職員は直ちに、直近の町であるデナンに連絡して、現地の調査をさせる。そして、即日ダンジョン内に魔物がいる事が確認された。

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