獣魔戦争  火炎魔獣 5

「面白えもん見せてもらった。お礼にてめぇにも、ちっとばかり面白えもん見せてやる」

 大男がニヤリと笑うと、腰に着けている斧を取り出し、構える。

 赤黒い、大きな斧だが、大男が持つと普通のサイズに見える。斧には炎を象る刻印がされていた。そして、大男が斧を一閃する。

 俺とは見当違いの空中に向けて斧を振るった。

 その瞬間、斧から真っ黒な炎が吹き上がり、空を焦がした。まるで竜の火炎ブレスの様だ。

 俺は呆気にとられたし、仲間たちも、護衛隊の連中もそうだ。

 炎を吹き上げた大男は、斧を腰の革ベルトに収めると、ニヤリと笑いながら言った。

「どうだ?!見物だったろうが」

 俺は黒煙の残る空を見上げる。火炎は20メートルは吹き上がっていた。

 近くにいた俺は、とんでもない熱量を感じ、呆然とするしか無い。

「あ、あんたは一体何者だ?」

 俺が思わず呟く。

「ああ?そういやぁ言ってなかったな・・・・・・」

 男は豪快に笑うと、急に腕を突き出して妙なポーズを取る。


ほむら沸き立つトラ獣人!傲慢にして豪快!奔放にして仁義に厚い色男!ランネル・マイネー様たぁ、オレ様の事よ!!」

 言って男は見栄を切る。

 少し気が抜けてボ~ッとしてしまったが、その名前、聞いた事がある。

「うえ!?マイネーってあんたか?」

 ファーンが気持ち悪い物を見るように呻く。

「その名乗り、まさかあのマイネー?」

 リラさんも口に手を当てて驚いている。

 俺も驚いている。超有名な名前だ。

「あんた、あのランネル・マイネーか?火炎魔獣の?」

「おうよ!オレ様があの、ランネル・マイネー様だ!!」

 男は腰に手をやって、また豪快に笑う。




 ランネル・マイネー。

 火炎魔獣と呼ばれる当代の英雄の1人だ。


 エレス暦3960年、7月。今から10年前の事だ。

 東の大国にして、グラーダ国と親交の厚いアインザーク国が、突如としてグラーダ条約に反して隣国ドルトベイク国に侵攻の気配を見せた。軍が国境に集結して布陣し、宣戦布告をする。

 これに対して、ドルトベイクは至急グラーダ国に救援を求めた。

 グラーダ条約では、他国への侵攻は、最大の禁止事項である。直ちにグラーダ国が軍を派遣する。その陣頭には闘神王グラーダ三世もいた。

 グラーダ三世の力は、1人で一万以上の軍を一瞬で蹴散らす、圧倒的な破壊力と、単騎ゆえの素早さで、とてもでは無いが、普通の軍では対抗できない。


 また、後にわかったことだが、この時アインザーク国王は地獄の魔物に取り憑かれていて、この地上に混乱と大量の殺戮をもたらす為に操られていた。


 グラーダ軍が攻撃を始めては、アインザーク軍は壊滅的被害を受けてしまう。アインザークとの親交が厚いグラーダ国の内実は、何とかアインザーク国への攻撃をやめたかった。


 アインザーク国王が魔物に取り憑かれている情報を知った、祖父「白銀の騎士ジーン・ペンダートン」は、単身アインザーク国に向かい、地獄勢力と戦い、アインザーク国王を解放する為に動いていた。


 だが、時間が足りない。

 その為、当時活躍し始めていた冒険者パーティーに依頼する。「1時間」、グラーダ国軍の動きを止めて欲しいと。

 その依頼を受けた冒険者パーティーこそ、現在最強と名高い「歌う旅団」である。


 「歌う旅団」はたったの5人で、一万の軍でも出来ない活躍を見せ、グラーダとアインザークの国境付近の丘陵地帯で戦い、1時間の足止めを成功させた。


 そしてその間に、俺の祖父が魔物を打ち倒し、アインザーク国王を解放して、アインザーク軍を国境から引き上げさせる事が出来たのだ。


 この事件によって、アインザークは多額の慰謝料をドルトベイクに支払い、未遂とは言え、多くのペナルティーを受ける事となった。

 そして、祖父の伝説がまた増えたのと同時に、祖父はグラーダ軍総長を辞した。


 それ以上に世間を驚かせたのは、「歌う旅団」の活躍である。

 そして、その名声は世界中に轟いた。

 闘神王を足止めした事で、「最強のパーティー」と呼ばれるようになったのだ。

 

 現在のメンバーは、当時と入れ替わりがある。

 当時の「歌う旅団」のメンバーは、「光の皇子ポアド・クララー」。歌う旅団のリーダーでハーフゴッドだそうだ。

 「清廉なる歌姫ピフィネシア・ラビレサス・ルーフィア・マイシャ」。ハイエルフで、ミルの前に生まれた初芽だ。

 「黒い稲妻マイアス・アイン」。ファーンが言うには、一緒に旅をした師匠だそうだ。どうにも嘘くさい話しだ。

 「闇の皇子シャナ」彼は謎が多いが、現在も歌う旅団メンバーだ。


 そして、「火炎魔獣ランネル・マイネー」。虎の獣人で、火炎魔法も長けている。豪快で奔放。火炎魔獣が暴れた後は、一面焼け野原になるとまで言われている。確か、数年前に歌う旅団を抜けたとの話しを聞いている。


 

 その英雄、ランネル・マイネーが、俺たちの前に立っている大男だった。

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