黒き暴君の島 コッコ 3
「あの、それで、俺たちは明日には報告の為にグラーダに戻ります。今回の旅で、至急グラーダ国王に報告しなければならない事がいくつかあるので」
「そうか!そうだろうね!それと君、昨日ウチの支部にも連絡が来たんだが、君は白竜との会談も成功させたそうだね。昨日は黒竜が現れて慌ただしかったが、その話題で、我々も大変勇気づけられたんだよ」
ああ。ついにギルドに知れたか・・・・・・。またランクが上げられないといいなぁ。
「いや。たまたま幸運が重なっただけです。俺たちの実力ではありません。そもそも、俺たちは低レベルのパーティーですから」
一応そう言っておく。この副支部長に俺のランクを決める権限など無いのは承知しているが。
「謙遜しなくてもいい。幸運だけで創世竜との会談を成功させたりはできんさ」
いや。本当に実力では無く、幸運だっただけだとつくづく思うんだが・・・・・・。
「それで、黒竜との会談の成功は、本国にも連絡しておいて良いのかな?」
ギルドには必ずメッセンジャー魔法使いがいる。メッセンジャーは、特殊な魔法の才能で、同じくメッセンジャー魔法使いとなら、一度直接会って「チャンネル」を設定すると、離れた所にいても短い会話が出来るそうだ。かなり便利な魔法の才能である。
ただし、メッセンジャー魔法使いは、他の魔法は使えない。希少性があるので、鑑定士ほどの高給では無いが、なかなか優遇されている。
また、各国にも数人は必ず、国家メッセンジャー魔導師を雇っているが、かなり秘密を握る立場になるため、良くも悪くも特別な待遇をされているそうだ。
ギルドのメッセンジャーは、必ずその国の冒険者ギルド本部のメッセンジャーとの「チャンネル」を持っていて、本部のメッセンジャーは、他国の冒険者ギルド本部のメッセンジャーとの「チャンネル」を持っている。
そして、各国の冒険者ギルド本部のメッセンジャーは、それぞれの国家で雇った王宮勤めの高級役人である、国家メッセンジャー魔導師との「チャンネル」も持っている。
その為、ギルドがメッセンジャーで何かを伝えるという事は、世界中に情報を知らせる事が可能になるという事だ。
今、副支部長は「本国に知らせる」と言ったのは、ドランが所属する国であるカナフカ国ではなく、俺の国、グラーダ国に連絡するという意味だ。
俺は頷いたが、明確に確認する。
「お願いします。ただ、今はまだグラーダに知らせるだけにしてください」
ギルドは、所属する国に必ず報告しなければいけないという義務は無い。ギルドはギルドという一つの国の様な者であり、各国も深くギルドの活動や方針に口を出せない。「口は出すな、金だけ出せ」とは有名な言葉だ。
副支部長も心得たように頷く。
心得ていなければ、どこかのドワーフの美女のように、さっき興奮したときに、全部大声でしゃべってただろう。恐らく副支部長は、支部長に報告するに留める事だろう。
「それと、コッコがペンダートン家の養子となる件は伏せておいてくれますか?これは我が家の問題ですので・・・・・・」
コッコは、実際にはペンダートン家に行く事は無い。ペンダートン家の家族は、コッコの存在を終生知る事は無いのだ。だから、変な噂が立ってはいけない。
副支部長は頷く。
「当然の配慮ですな。ペンダートン家は世界の名家。様々な心配事も多かろうと思います。それ故、コッコ君の事を知っているのは、私とミチル君だけで、支部長にも『保護児童』としか言っておりません」
ありがたい話だ。確かに、コッコのような幼い子どもは、誘拐の対象になりやすい。その辺を配慮して、実際に面倒を見るミチルさんにしか話していなかったようだ。
ミチルさんも信頼できる人物だし、これなら問題ないだろう。
その後、不要となった宿泊費や費用の返金があり、俺も改めて、報酬を支払うと、ギルドを後にして宿に戻る。
帰り道もコッコは肩車で機嫌が良い。行きはミチルさんがいたので、あまりしゃべらなかったが、帰りは他愛も無いおしゃべりをして帰った。その頃には、もう朝早くから働く人たちが通りに出ていた。
俺が宿に戻ると、仲間たちはまだベッドで寝ていた。
コッコと静かに、布団の敷いてある離れた所に移動する。
「コッコ。すまないけど、俺も少し眠らせてくれないか?」
過度な緊張と、歩き通した事などで、思った以上に疲れているのを実感する。心身ともにクタクタだ。
「買い物に行く約束は?」
コッコがヒソヒソ声で言う。
「ああ。買い物に行くのは俺も楽しみだけど、お店もまだやってないよ。だから、ほんの少し休んでからでいいかい?」
そう言うと、コッコがにっこり笑う。
「なんじゃ。疲れならワシが癒やしてやろうか?普通に寝るよりもよっぽど回復するぞ?」
「そんな事できるのか?」
「当たり前じゃ」
おお。それは素晴らしい。俺は明日にはコッコと別れなければいけないのだ。だったら、少しでも時間が惜しい。
「じゃあ、頼むよ」
俺が言うと、コッコがにっこり笑い、俺の頭を何気なくポンポン叩く。
「別にこうする必要はないんじゃよ~~~」
と言いつつ嬉しそうだ。可愛いなぁ~~。思わず頬が緩む。
しかし、次の瞬間には、不思議と疲れが吹き飛び、眠気も無く、たっぷり休んだ後のような爽快感が体を満たす。
「おお!すごい!
俺は小さな歓声を上げる。これなら休む必要は無い。
「でも、まだお店やってないけど、どうする?」
俺が頭をひねると、コッコが「決まっておるじゃろ?」と言う。
「風呂じゃ!一緒に入る約束じゃったろうが!」
ああ。そうだな。温泉とくれば朝風呂に限る。
俺たちは静かに用意をする。少なくとも俺は装備を外して、身軽な格好にならなきゃいけないし、コッコもドレスから着替えた方が都合が良い。
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