黒き暴君の島  〇っぱい会議 3

 その様子を見ていた白竜が「フフン」と意味ありげな表情を浮かべる。かなり挑戦的な表情だ。

「あら。でもカシムは胸の大きな女性が好きなのですよ。私のような」

 そう言うと、白竜はおもむろに立ち上がり、大きな胸を見せつけようとする。俺は慌てて顔を逸らす。

「な!何じゃと!!破廉恥な!!」

 黒竜が怒って白竜にお湯をバチャバチャかける。

「カシムはそんな破廉恥な男ではないわ!!それにカシムはワシを愛しているのじゃ!!」

 ああ。それはコッコな。妹としては愛しているって意味だ。黒竜とわかっても、まだその気持ちは変わっていない気がするが、女性としての好意では無いんだよ。

「愚かですね、黒竜。人間の男性は、皆大きな胸の女性が好きなのですよ」

 いや、白竜さん。それは偏見が過ぎますよ。小さい胸が好きな人も居るし、胸の大小にこだわらない人も結構いますよ。

「嘘じゃ!カシムは胸の大きさで、女を好いたり嫌ったりしない!!」

 黒竜は真っ赤になって否定する。なぜ俺の事をそこまでムキになって庇おうとするのか?

「私は知っているのですよ」

 白竜が俺の方を見る。そして、湯船に身を沈めつつも挑戦的に俺に身を寄せてくる。俺も真っ赤になりながら後ずさろうとする。

「な、何を知ってるって言うんだ、白竜?」

 せめてもの抵抗で俺が呻く。

「カシム。あなたが白竜山で告白できなかった本当の願いです」

 なんだ?そう言えば白竜はあの時もそんなこと言っていた。本当の願いを俺が言わなかったから、焼き殺すつもりだったとか・・・・・・。

 だが、あの時の俺もそうだが、今に至っても、本当の願いなんてさっぱり検討が付かない。

「今は仲間たちもいません。だから、隠さなくても良いのですよ。白竜祭であなたが木札に書いた事です」

「え?俺が書いた事?」

 仲間と一緒に冒険したいとか何とか書いた気がする。

「『大きいおっぱいが好きです。カシム』と書きましたよね?」 あれかーーーーーーーーー!!!!!

 あれもちゃんと届いていたのか!!???

 っていうか、あれはファーンが勝手に書いた物だぞ!!!

 え?って事はまさかだけど、白竜・・・・・・。

「もしかして、あの時俺がその願い事を言わなかったことが、不満だったって事か?」

 俺の願いが「竜騎士になりたい」と白竜の前で宣言してたら殺されていた所だったそうだが、「大きいおっぱいが見たい」とか言う事を期待していたのか?あの緊迫した場面で、しかも俺は瀕死の重傷と、呪いで、命が尽きかけている状況で・・・・・・。

「当然です」

 白竜があっさりと肯定する。信じられない。これが創世竜の感覚なのか?

「もしそう言っていたら、その場で人型になって触らせてあげましたのに・・・・・・」

 そう言いながら、白竜が妖艶な雰囲気で、俺に寄り添おうとしてくる。その白竜の顔を、黒竜が押し返して怒鳴る。

「この破廉恥竜が!!!カシムがそんなアホな事願うわけがなかろう!!大方他の連中がふざけて書いただけじゃ!!のう、カシム」

 おお。さすがは妹だ。よくわかってくれた。

「そ、その通りだ、コッコ。あれはファーンが勝手に書いた物だし、山車に刺したのはリラさんだ」

「あら、そうなのですか・・・・・・」

 白竜ががっかりした様子を見せ、黒竜が勝ち誇る。

「わかったか!おっぱいお化けめ!!カシムはのう!ワシみたいな小さい子が好きなんじゃ!!!」

 ちっっっがーーーーーーーーーーーう!!!

 俺は脳内で全力で叫んだ。それは違うぞ黒竜!!俺はどちらかというと白竜派だ!!胸の大きさの好みは人それぞれだが、少なくとも俺個人としては、小さいよりは、やや大きめの方が好みだ。大きすぎるのもどうかと思うが、適度な大きさが好きだ!リラさんの胸なんて最高だと思う!!

「小さい胸といっても限度があると思いますよ。黒竜の胸なんて何もないではありませんか」

「馬鹿者が!!胸は胸じゃ!!!」

 何だ、この会話は。話が進まないどころか、不毛な上にくだらない・・・・・・。もうこの場にいるのもいたたまれないし、風呂もいい加減熱くなってきた。

「あの・・・・・・俺、そろそろ風呂出たいのですが・・・・・・・」

「ダメです!」

「ダメに決まっとろうが!!」

 俺は結局、この不毛な争いに巻き込まれ、のぼせる寸前まで風呂に捕らわれていた。

 



 結論は出ないまま、と言うか、あえてグダグダに終わらせて、ようやく風呂から解放されると、俺の服や装備は洗濯した様子は無いのに、すっかりきれいになっていた。ベタつきも無い状態だ。


 俺が服を着終え、装備を調えてからリビングのソファーで待つこと数分で、白竜と黒竜が、まだ口論しながら戻って来た。

 創世竜ってこんな性格なのか?幼く我が儘だし、思い込みも激しい。自分にとって都合が良い世界を創造することが出来る存在なのだから、やはり性格も我が儘なのか・・・・・・。

「なんじゃ?変な顔をしおって」

 コッコの顔でそんなこと言われたくない。お前、本当に俺のコッコを返せよな。

 ファーンは男だし、コッコは黒竜だし、創世竜は変な性格だし、なんか俺はこのところ裏切られてばっかりだ。おまけにおっぱい好きのレッテルも貼られている。

 それもこれも、全てはあのグラーダ三世とかいうクソ親父のせいだな、うん。

 俺は全ての責任をアクシスの父親に押しつけて、何とか気持ちを立て直す。


「それで、黒竜は俺の事を竜騎士として認めてくれたって事でいいんだよな?」

 無理矢理話題を戻す。

「おや?いつの間に話が進んでいたのですか?」

 白竜は昼飯を用意してくれた。

 創世竜なのに料理をするとは考えてもみなかったので、不思議な気がした。

 白竜がお盆に昼食のサラダとサンドウィッチを運んできながら、意外そうな表情を浮かべて言った。が、俺は咳払いをして誤魔化す。

「んっ!んんっ!それは今は良いじゃないか。それよりだ。と言うことは、俺が知りたいことを一つ教えて貰ってもいいのかな?」

 俺がこの無謀な旅をする理由は、グラーダ国王から指名依頼されたからでは無い。無論それもあるが、俺は俺なりにこの旅の目的を持っていた。

 それは、俺が考古学者としての好奇心を満たすという事だった。これまでの世界の成り立ちを知りたかった。伝えられていない歴史を知りたかった。

「そういえば、そんな事言っておったのう・・・・・・・。で、何が知りたいのじゃ?」

 黒竜が俺の隣でオレンジジュースを飲む。ここにもオレンジジュースがあるのか。・・・・・・まさか、また俺を口の中に放り込むつもりか?

 顔色を変えた俺に気付いて、黒竜もハッとしてブンブン頭と手を振る。俺は胸をなで下ろした。

「何をしているのですか?また話が進まないのですか?」

 白竜が指摘するが、確かに俺と黒竜だけでは脱線が激しくなりそうだ。


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