黒き暴君の島 黒竜の宝 4
「・・・・・・でよ!」
俺の隣のベッドで、ファーンが楽しそうに話している。俺は曖昧な相づちばかり打っている。話しの内容なんかちっとも頭に入ってこない。
気まずい・・・・・・。
リラさんとミルが隣の部屋。俺とファーンが同じ部屋で泊まる。これは決まっていた事だ。しかし、それは俺がファーンを男だと思っていたからである。
もちろん、これまでの旅で同じ部屋に泊まった事もあるし、何なら、リラさんやミルと同じ部屋で寝泊まりした事だってある。野宿だとみんな一緒が当たり前だ。
だから、今更「男」だ「女」だで、同室での寝泊まりに狼狽えたりはしない。
しかし、今は違う。
ずっと男だと思っていた奴が、実は女の子で、俺は今までその事に気付かずに接してきていたのだ。今更「女でした」って言われても、どう対応したら良いのかわからない。
それに、少しは気が紛れたと思っていたのに、2人きりになると、これまでの俺がファーンにした事を色々思い出して、より一層罪悪感とか、後悔とか、恥ずかしさが込み上げてくる。
例えば、風呂で一緒になった事もそうだが、野宿中に連れションに誘ったり、遠慮無く目の前で着替えたり、エッチな発言もしてきてしまった。
司書様を巡ってあんな事やこんな事を言った。同性であればと思って発言してきた事が、今更ながらに思い返されて羞恥心が爆発しそうだ。普通なら、軽蔑されて然るべき発言内容も多々あった事だろう。
そもそも、女の子を男と間違うだけで、とんでもない重罪ではないだろうか・・・・・・。
「だからよ!ちゃんと聞いてんのかよ?!」
ファーンが訝しげな表情で俺を見つめてくる。
「ああ・・・・・・。いや、すまん。正直聞いていなかった」
俺は正直に答えた。
ファーンはベッドの上にあぐらを掻いて、膝に肘を乗せて頬杖をつきながら、大きく息を吐き出す。
「・・・・・・カシム。お前、まだ気にしてんのか?」
「いや、気にするだろ?俺はずっとお前の事を男だと思っていたんだぜ。だから親友と思っていたし、何か雑な扱いとかひどい態度とかとってきたんじゃ無いかと思って」
俺が言いかけたところで、ファーンが「はあ!?何だと!!!!」と怒鳴り声を上げてきた。思わず俺は怯んで体を反らせる。
「お前はオレが女だったら、もう友達じゃねーってのかよ?!」
「い、いや・・・・・・そうじゃないけど」
抗弁しかけるが、ファーンは更に言い募る。
「互いに尊敬し合ってる相棒じゃなかったのかよ?!」
「そ、そうだけど」
「男か女でオレたちが乗り越えてきた事、一緒に旅してきた時間も無くなっちまうのかよ!!」
俺は立ち上がって頭を下げる。完全に俺が間違っているし悪い。そもそもが俺の勘違いのせいなのに、更にファーンを傷つける事を、俺は言ってしまった。
「悪かったファーン。男と勘違いした事もそうだけど、今の俺の発言は完全に間違いだった」
ファーンがふてくされたように横を向く。頬を膨らませて顔を赤くしている。そうした表情は、こうしてみると可愛らしい。
大きな目に、柔らかな頬の輪郭。さりげない仕草はどう見ても女の子だ。
どうして俺は、こんな勘違いをしてきたのか、不思議なくらいだ。
「ファーン。お前は俺にとってかけがえのない相棒だし、無二の親友だ。大事な俺のパーティーの一員だ」
そうだ。男とか、女とか関係なく、俺はファーンを尊敬しているし、助けられてきた。きっとこれからも互いに助け合う事が出来るだろう。
それに俺にとって、同性、異性関係なく、間違いなくファーンが始めての友達なのだ。
「・・・・・・んだよ。わかればいいよ・・・・・・」
ファーンが膨らませていた頬を縮ませて、口をすぼめつつモゴモゴと言う。
「だから最初っから『かしましパーティー』だって言ってたろうが・・・・・・」
ファーンの言葉にようやく合点がいく。確かどこかの偉い哲学者の格言に「女三人寄ればかしましい」というのがあった。言葉の由来はわからないが、「にぎやかになる」とか「やかましくなる」とかいう意味だ。
ファーンがそう言い出したのも、リラさんとミルがパーティーに加わってからだ。女3人だ。確かに言ってた。
「すまん。言ってたよな」
俺が言うと、ようやくファーンが笑顔になる。
「ヒヒヒ。だからカシムはダメダメなんだよ!」
その笑顔に、俺はようやく立ち直れそうだった。また俺はこいつに救われる訳だ。
とは言え、その夜はいつもよりドキドキしながら就寝した。
翌朝、俺たちは、いつもより遅い出発となった。宿の朝食を食べた為だ。
「朝から豪華だったな~!」
ファーンが満足そうに言う。
「朝も温泉入って来ちゃったしね~」
ミルが嬉しそうに言う。
「おう。今度は『女』3人で仲良く内湯に入ったぜ~~」
ファーンがニヤニヤして俺を見る。一夜明けるや俺をからかうネタにして来やがった。ちくしょうめ!!
「はいはい。じゃあ、今日の冒険が無事終わったら、好きな温泉宿に泊まって良いからな」
俺がそう言うと、ファーンが飛び上がる。
「やったぜ!カシム、愛してるぜ!!俄然やる気が出て来たぜ~~~!!」
く・・・・・・。これ見よがしに「愛してる」なんて言いやがって。
「今度は4人で貸し切り風呂だ~~~~!!」
ミルまでとんでもない事を言ってくる。
無視だ。無視無視。
それにしても、いつもなら、ここでミルを止めるリラさんが何も言ってこないが、実はまだ怒ってるのだろうか?
怖くてリラさんの方を見られないので、そのまま俺は先頭を歩き出す。
・・・・・・にしても、これからまた絶望的な死地に向かうのに、こいつらは、そして俺も何て脳天気なのだろうか?
白竜山に向かう時でさえ、決死の思いだったのに、白竜と違って凶暴で恐れられている、創世竜の中でも最大の竜、「暴君」黒竜に会いに行くのだ。その旅は「死」を意味している。
だが、俺はもう「自分は死んでも良い」とは考えていない。俺も、仲間もみんなで生き延びるのだと考えている。今も、当たり前のように、帰って来る事を考えていた。
それは良い事だが、そうだな・・・・・・。元より油断出来る状況では無いが、気を引き締めた方が良いだろう。
「いいか。これから白竜の時以上の危険があると思う。でも、絶対に誰も死ぬ事無く帰ってこよう。会合なんて失敗しても良い。出来なくても良い。生きて戻る事を第一に考えて行こう!」
俺の言葉に、パーティーメンバー全員が表情を引き締めて、その瞳に決意の光を宿して頷いた。
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