黒き暴君の島 黒竜の宝 3
「で、ここからが本題だ!」
ひとしきり笑いが収まると、満を持してファーンが「月視の背嚢」から、大きく膨らんだ巾着袋を、重そうに取り出した。
「それは?」
リラが巾着袋を指さして尋ねる。
「報奨金だ!!」
「!!??」
リラの背筋が伸びる。
「ほ、報奨金?でも私たち、依頼を受けたわけじゃ・・・・・・いえ、でもそうね。飛び級でランクが上がるほどの事をした訳だし、ギルドから報奨金が出てもおかしくはないわね・・・・・・」
リラの頬を汗が伝う。
ファーンがリラと目を合わせて、リラの準備が出来たのを確認すると発表した。
「なんと、50000ペルナー!!金貨25枚だ!!!!」
「んなっっっ!!!!!!!」
リラは、その金額に驚愕して叫びそうになったが、飲み込むつばが気管に入り盛大にむせてしまう。
ミルがその背中をさする中、ファーンがリラのリアクションに満足げな表情を浮かべる。
「どうだい?リラ姉さんよ~。50000ペルナーだぜ?!これだけ有ったら・・・・・・宿、グレードアップして連泊しても良いんじゃね~のか?」
「んぐ・・・・・・」
むせるのからようやく回復しかけたリラに追い打ちをかける提案に、またしてもリラがむせかけたが、すんでの所で堪えた。
「リラ姉さんよ~。もっと豪華な料理に、混浴じゃ無い露天風呂のある豪華な宿に泊まったところで、4人で1000ペルナー程度だぜ~」
「ぐぐぐぐぐ・・・・・・」
ファーンがリラの耳元に口を寄せて地獄の魔物のように囁き掛ける。
「貸し切り風呂って手もあるよな~」
とたんにリラの顔が真っ赤になり、うな垂れる。
「・・・・・・黒竜との会合が成功したら、お祝いとして宿泊するのもやぶさかでは無いわね・・・・・・」
「やったー!!話せるじゃね~か、リラ!!」
ファーンが飛び上がって大喜びする。リラが思わずため息をつく。
「でも、そうね。報奨金の扱いは、私が勝手に決めて良い物じゃ無いわね。リーダーに確認すべきかも・・・・・・」
リラがふと思い至って、部屋の隅で小さくなっているカシムをチラリと見る。つられて、ファーンとミルもカシムに視線を送る。
視線に気付いてカシムが顔を上げると、愛想笑いを浮かべた上で、小さい声で提案する。
「金貨25枚だから、1人5枚ずつで、残りをパーティー運営費に充てたらどうだろうか?」
その言葉にファーンが口笛を吹く。
「太っ腹だね、大将!!」
「・・・・・・いや、均等割は当然だろ?それで、パーティー運営費はリラさんが管理してくれると助かる」
ファーンの明るい調子に、少しホッとした様子でカシムが答えると、リラも笑顔でカシムに声を掛ける。
「わかりましたわ、カシム君」
「ねえ、お兄ちゃんいつまでそんな所にいるの?こっち来て一緒にお話ししようよ~!」
ミルがカシムの所に走り寄って、腕を引っ張って立たせようとする。
「そうだぜ。もうオレの事は気にしなくて良いからさ。まあ、ショックっちゃショックだったけどよ」
「うぐっ!?・・・・・・す、すまん」
ファーンの言葉にカシムがまたうな垂れる。
「もう、ファーン!蒸し返さないでよぉ!!」
ミルがファーンに言うが、すぐにニヤリと笑う。
「フフ~ン。リラもファーンもそうやっていつまでも怒っていれば良いんだよ。ね~カシムお兄ちゃん!あたしだけはどんな事があってもお兄ちゃんの味方なんだからね~」
そう言うや、ミルはカシムの頬に頬ずりをする。
それを見たリラが、声にならない叫び声を上げるや、ミルの襟首を掴んでカシムから引きはがす。
「私だって!怒ってなんかいませんよ!!」
「怒ってるじゃん!!」
リラに対してミルが言い返す。
「怒ってません!!」
「言い方が怖いよ!」
ミルの指摘に、リラもハッとなって、深呼吸を一つしてからニッコリ笑顔を浮かべる。
「お、怒っていませんよ、カシム君」
「ヒヒヒ。わかってらぁ~。怒ってるんじゃ無くて、羨ましいんだもんな」
茶化すファーンをキッと睨んで黙らせると、一転して微笑みを浮かべてカシムに手を差し伸べる。
「もう・・・・・・。カシム君は私たちの大切なリーダーよ。私も怒ったりしてませんし、いつまでも気にしないで下さい」
リラの差し伸べた手に掴まり、ようやくカシムが立ち上がった。
「リラさん・・・・・・」
「そうだぞ。一番気にするべきオレが言うんだから間違いない。お前はオレの相棒で親友だ。それは変わらないぞ!」
「ファーン・・・・・・」
「見るとこ全部見ちまった訳だしな!!ヒヒヒ」
「ギャアアアア!」
カシムはファーンの台詞に思わず自分の股間と胸を手で隠す仕草をする。
リラは顔を赤らめ、ミルは頬を膨らませた。
その後、ミルは終始カシムにピッタリとくっつき、落ち込むカシムを慰めつつ話しがまとまっていった。
報奨金の50000ペルナーは各自10000ペルナー、金貨5枚受け取り、残りの10000ペルナーを、パーティー全体の資金にする事となった。
パーティーによっては、貢献具合やリーダーの腹づもりで取り分が決まったり、大半をパーティー全体の資金にしたりする中で、カシムの分配は公平というよりは気前が良いほうだ。 報奨金やダンジョンで得る利益、素材の換金などで得る利益の分配は、パーティー運営にとって大切な事である。
一時的なパーティーなら組む時点で分配方法を細かく決めたりするし、固定パーティーでも事前に取り決めをするものである。人間関係も、金銭が絡むとこじれたりしやすいので、そこはしっかり取り決めをする必要がある。
だが、カシムは実家が金持ちなので、そうした金銭感覚やデリケートな問題に疎い。それに、今までもカシムのパーティー運用はカシムの持ち出し金で行っていた。
今回、黒竜との会合が成功すれば一度グラーダに帰るし、その際にまた、カシムはパーティー運用資金として今回の報奨金並の金額は用意するつもりがあった。更に、白竜、黒竜との会合成功で、それなりの報奨金も出るだろうから、金銭に関して無頓着でいられた。
ちなみにカシムは、旅に出立するに当たって、あまり多めに持っていく必要は無いと考えて持ち出した金額が、10000ペルナーだった。それが、現在の残高が、2000ペルナーだ。リラが、温泉宿への宿泊を渋る理由がそこにあった。
報奨金が無いまま宿に泊まっていたら、残金は1000ペルナーを切る。グラーダまでの旅費を考えても、ギリギリだったのだ。
カシムには金銭の管理は任せられない。
ファーンは自分の分け前を素直に喜んだが、リラはこのパーティーにいる理由は報奨金目的では無い。生活したり、旅をスムーズに行えるだけの余裕は欲しいが、自分が欲しいものなど日用品や、消耗品ぐらいのものだ。つまり、パーティー運営資金でまかなうべき物が主である。装備も今は改める必要が無い。
ミルも金銭には無関心だし、装備は改める必要が無いほど、パーティーの中で一番性能が良い物を使っている。お菓子が食べたくなればリラにねだれば良いのだ。
結局、報奨金のほとんどがパーティー運用資金になる事となる。かなり潤沢な資金を持ったパーティーである。
喜んでいたファーンからして「いいか。いずれ装備を調えたくなった時のために、無駄遣いはするんじゃねーぞ」とミルに注意していた位だから、根本的にはリラと同様、パーティー運用資金と見なしている様子が窺える。
つまり、結局これまで通りに、ほぼ全ての財布の紐をリラが握る事となった。
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