黒き暴君の島  黒竜の宝 2

「ええ?!私たちが青ランクに?!」

 リラが驚きの叫びを上げる。

「凄いじゃん!やったね!!」

 ミルが両手を挙げて飛び上がる。しかし、リラは深刻な表情をしているし、ファーンも微妙な苦笑を浮かべている。その様子にミルが首を傾げる。

「あれ?ランク上がっちゃダメだったの?」

「いや、ダメじゃ無いんだけどよ~」

 ファーンが頬を掻く。

「そうね。ダメじゃ無いのよ、ギリギリね」

 リラがため息をついて額を抑える。

「ギリギリ?」

 ミルが額を抑えたリラの頭を「いたいのいたいの、とんでいけ~」という様になでながら尋ねる。ミルのそんな様子に、しかめた表情を和らげてリラが説明する。

「冒険者のランクは白から白金まで、9段階あるわね。ミルは全部言える?」

「言えるよ!下から白、黄色、緑、青、赤、黒、銀、金、白金だよね」

「おお。偉いなミル!オレなんか、順番めちゃくちゃだぜ。ピンクとか銅とか無かったっけ、って感じだ!」

 ファーンが茶化すので、リラは「ありません!」と言ってから説明を続ける。

「今まで私とミルは黄色ランクで、カシム君とファーンは白ランクでしょ?」

 ミルとファーンが頷く。

 「冒険者ランクは、個人の能力、つまりステイタスやレベルでは無く、ギルドへの貢献度、信頼度を示すランクで、ギルドはそれによって依頼内容や難易度を決めるの。つまり、レベルが低いのにランクが高いと、それだけ身の丈に合わない危険な依頼されたり、勧められたりする事になるのよ」

「・・・・・・ああ。それは困っちゃうね~」

 ミルもどういうことなのかわかった様子で呟く。

「そうなの。・・・・・・で、青ランクなら、大体の適正レベルが15~19って所だから、私たちのレベルでは身の丈には合ってない事になるわね。でも、ファーンはともかく、私とミルはギリギリごまかせなくも無いと思うの。・・・・・・ただね・・・・・・」

 リラがしばし沈黙をする。

「ただ?」

 ミルの疑問符に、ファーンがリラに続きを促すように答える。

「白竜の件だろ?」

 リラが頷く。

「ファーンの報告では、ランクが上がった理由は、あの魔術師を倒した事と、ハイエルフの里との交流を持った事でしょ?それで全員が飛び級で青ランクになってしまったわけよね。でも、ギルドはまだ白竜との会合成功の事実を知らないでしょ?」

 リラの言葉にミルが手を打つ。

「そっか。白竜の話まで知られたら、またランクが上がっちゃうよね。・・・・・・えっと、青の次は赤ランクだから、リラの言ってた適正レベルだとどうなるの?」

「適正レベルなんていっても、『大体このくらいかな~』って感じで適当なのよ。でも、赤ランクだと確か20~24。黒ランクになると25~29。レベルは目安だけど、黒ランクからは間違いなく強い人たちになるわね」

「凄い数字だね~」

 ミルが思わずポケ~っとした様子で呟く。

「でもさ、オレたちって一応戦闘経験も積んだし、結構な死闘だったよな。オレたち地上人は戦いの経験値がステイタス上昇、レベル上昇につながってくじゃん?」

 ファーンの指摘通り、地上人と呼ばれる人間やドワーフ、獣人、センス・シアは、神と魔神の戦争期に神によって創造され、戦闘経験によって身体能力を強化出来るようになっていると言われている。精霊界から地上世界に進出してきたエルフも、ハーフ種族も同様に戦闘経験で強くなる。もちろん、トレーニングや修行でも強さは上昇する。

「戦闘経験は確かにしたけど、私たちって、ほとんどが逃げたり隠れたりばっかりだったわよね」

 リラが思い返しながら苦笑する。

「ああ。それがリーダーの方針だからな」

 ファーンが頷く。

「お兄ちゃんは優しいからね~」

 ミルが嬉しそうに言うが、リラが咳払いをして話しを元に戻す。

「確かに、戦闘経験もしたけど、地上人の私たちはそれで良いかもしれないけど、精霊族のハイエルフはどういう風にステイタスが上がるの?」

 リラの質問にミルが胸を張って答える。

「『勇気』と『愛』と『信じる心』だよ!」

「そっ!!」

 そんな訳無いでしょうと言おうとしたリラだが、ハイエルフの事はほとんどわかっていない。精霊と心を通わせるのに豊かな感受性が必要だという、不老不死の上位種族であるハイエルフだ。そもそものスペックが人間とは桁違いである。それならばもしかして・・・・・・。

「ってパパが言ってたよ!」

「ウソね!」

「ウソだな!」

 リラとファーンが同時に断言した。黄色い派手な服を着た、心の小さな忍者かぶれの、ふざけたハイエルフの顔が思い浮かび、即座に信じるに足る材料が皆無だと確信できた。

「ひっど~~~~い!」

 ミルが抗議するが、2人は取り合わない。

「まあ、それはステイタス鑑定してもらえれば、何かヒントが得られるかも知れないわね」

 リラの言葉にファーンが頷く。

「そうだな。でも、まだ鑑定士は研修旅行中で不在だ。ついで言うと、オレは戦わないのが仕事だから、ああは言ったけど、戦闘経験なんかほとんど積んでないぜ!!」

 何故かそこでファーンが胸を張るが、リラはため息をつくだけでスルーする。「探究者」が何なのか、ファーン以外は実はよく分かっていない。

「取り敢えず、ランクに少しでも見合う様になっている事を願いましょう。とは言っても、その頃には白竜の事も知られてランクアップさせられちゃうかも知れないわね・・・・・・」

 リラが思わずため息をつくと、ミルがクスクスとおかしそうに笑う。

「なぁに?」

「リラって、おっかしいんだ」

「何が?」

 リラは首を傾げる。

「だって、あたしたちって、とっくに白金ランクでも出来ないような依頼をされてるんだよ」

 ミルのあっけらかんとした指摘に「プッ」とファーンが吹き出す。

「ちげ~ね~や!」

 ファーンが笑い出す。

「・・・・・・」

 ぽかんと口を開けたリラだったが、やがて、ファーンにつられるように笑い出す。ミルも一緒に3人で笑い合っている。

 そんな中、カシムはひたすらうつむいて部屋の隅で正座を続けていた。双子の兄たちが思った様に、カシムはとんでもない事をしでかしていたのだ。別の意味で・・・・・・。

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