旅の仲間  謎の塔 3

「まあ、聞いてくれよ、君たち。20年の研究が、今ようやく完成したばかりなんだ。是非聞いて欲しい」

 壁際で男が言う。何とか逃げ出す方法を考えたいので、男がしゃべってくれるなら好都合だ。

「お前は何者だ!?」

 俺が叫ぶ。男はためらいなくすぐに答えた。

「私はゼアル・ギュンター。魔道師だ」

 聞いた事がない。

「いいよ。知らんだろう?何せ、私はほとんど俗世と交わってこなかったからな」

 ゼアルが笑う。やはり魔法使いか。


 ちなみに「魔法使い」と「魔道師」の差だが、国に仕える魔法使いの役職名が「魔道師」と呼ばれている。これはかつて魔法使いが少なかった時の名残で、現在もその役職名はそのままある使用されている。

 冒険者としての「魔道師」、或いは「魔道士」は、「魔法使い」の上位職名でもある。

 しかし、それ以外でも「自称」で見栄を張りたい時に「魔道師」と名乗ったりする。

 このゼアルはどう見ても国に仕えていないだろうし、冒険者でもなさそうだ。と言うことは、見栄を張りたいタイプだな。変にプライドが高い奴って訳だ。


「さて、私が何の研究をしていたのか教えてあげよう」

 よろしく頼む。この鎧の情報が知りたい。

「私の父は『ゲイル・ギュンター』。かつて魔人形シリーズを作った、狂った人形師だ」

「魔人形?!」

「ほう。そっちは知っているようだな」

 当然知ってる。怪談として子どもはみんな一度は聞いておびえる話しだ。


 狂った人形師「ゲイル・ギュンター」は、美しい金色の髪の人形を23体作った後、何故か体中がバラバラに引きちぎられて死ぬという凄惨な最後を遂げている。

 その為、23体の人形は呪われた人形とされていたが、あまりにも美しい人形だったので、世界中の好事家こうずかたちがこぞって手に入れようとした。

 だが、その人形を手に入れた人たちは皆不幸な死を遂げている。

 その人形は23体全て「ルシオール」と名付けられているため、「魔人形ルシオールシリーズ」と呼ばれている。

 後にほとんどが処分されたが、いまだに3体見つかっていないそうだ。


 魔人形の怪談は、大体の話がいろんな前段階を経て、「寝ていて目が覚めると、包丁を持った金色の髪の人形が青い目を光らせて立っている」というオチで終わる。


「私はね。その魔人形を1体持っていたんだよ」

「ええ!?あれ、ほんとの話だったのか!?マジこえぇぇぇ~~~!!」

 ファーンが叫ぶ。「バカかこいつ」と言いたいところだが、残念ながら俺も心から同意する。子どもの頃おびえていた怪談が、完全に事実だったとわかったら、大人になっても怖い。

 むしろ子どもの頃以上の深さで怖く感じる。

「魔人形って本当に動くのか?!」

 いいぞ、ファーン。それは俺も知りたい。怖いけど単純に興味がある。

 ゼアルが笑う。

「ああ。動くよ。私も何度も殺されかけたね。あれには魔法が効かないんだ。赤ん坊くらいの大きさの人形のくせに力が強くて、私の様に非力な人間では歯が立たなくて困ったよ。箱に閉じ込めておいても、何故か抜け出してしまう」

 おお。怖い怖い。

「じゃあ、どうやって保管してたんだ?」

 俺が尋ねると、ゼアルはニヤリと笑う。

「良い質問だね。だけど残念。それは答えられないな。そうだ、怪談ついでに、もっと怖い話しをしてやろう。あの魔人形はね、体をバラバラにされても、いつの間にか元に戻っていて、気がついたら枕元に立ってたりするんだよ」

「「うおお。怖い怖い!!」」

 俺とファーンが普通に叫んでしまった。子どもの頃におびえた記憶が蘇る。ゼアルは俺たちがおびえた様子に満足した様に笑う。

「はっはっはっ。私も怖かったよ」

「じゃあ、なんで処分しなかったんだよ!?」

 そんな人形を、後生大事に持ち続ける神経がわからない。

「まあ、父のかたきでもあるけど、父の形見でもあったしね~。・・・・・・って嘘だよ。正直父はどうでも良いんだ。私はあの人形が何故動くのか知りたかったんだよ。魔法が効かないんだから、魔法で動くわけじゃない。不思議だろ?」

 俺は一つ思い当たる言葉があった。

「呪術か?」

 その言葉にゼアルが反応する。

「珍しい物を知ってるね。君は呪術師か?」

「・・・・・・違う」

「・・・・・・まあ、だろうね。私は呪術なんて信じてないからね」

 じゃあ、呪術じゃないのか。俺は呪術をこの身で受けてるから呪術が実際にあると知っているが、教える義理はない。

「まあ、その謎がわかった時には、私は『シニスカ』を追われる事になったんだよ。沢山の人間を実験台にしてしまった事がバレたからね」

 それで、「シニスカ」から逃げてここに来たのか。シニスカは隣の国だ。エルフの大森林の近くともなると、国境警備の目も行き届かないだろう。それを利用して人が寄りつかないこの場所に塔を建てたって事か。


 しかし、今聞き捨てならない言葉を耳にしたな。「沢山の人間を実験台にした」だと?!

「で、私は魔人形が動く仕組みを利用して、この鎧『悪魔の鎧』を製作してきたんだ。ただ、色々試したけど、どうしてか動かなかったんだ」

 俺はゼアルの言葉の一つ一つに嫌悪感を覚える。沸々と怒りが湧いてくる。

「こいつを動かして何をするつもりなんだ?」

 俺は当然の質問をする。どうせろくでもないことなのだろうが・・・・・・。

「うん。たかだか70センチ程度の大きさで、私よりも力がある人形だ。大きく作ったらどの程度の力があると思う?きっととんでもない力だろうね。まあ、完成してみればこの通りだったわけだがね。さらに魔法も効かない。ただ、魔人形と違ってコントロールは出来るよ。この通り」

 男が何か口の中でつぶやくと、目の前に立つ悪魔の鎧が剣を振りかぶって俺に斬りかかってくる。とっさに後ろに飛んで避けるが、剣の風圧を身近に感じた。当たったらヤバい。

「この悪魔の鎧を大量に作ったら、そうだな。シニスカを攻めに行こう。まあ、個人的な恨みもあるしね」

 おお。本格的な悪ですな。わかりやすくていい。

「だが、その前に、エルフの大森林に行く必要があるな」

「エルフの大森林?!正気か?」

「もちろん正気だ。私が行く必要がないのだからな。この鎧が行けばいいだけだ。そこで、ハイエルフを捕まえてくる」

「捕まえる?」

 ゼアルが嬉しそうに言う。

「そうだよ。これまで何人もの人間をさらってきてはこの鎧に閉じ込めて実験したけど、みんなほとんど動かす事が出来なくて死んでしまう。でも、先日ハイエルフの子どもがこの塔に来てね。他の連中と違ってさらったりしたわけじゃない。たまたまだよ。その子どもを悪魔の鎧に入れてみたところ、悪魔の鎧が動き出した」

 ゼアルはクスクスとおかしそうに笑う。だが、今の言葉は聞き逃せない。

「・・・・・・って事は、今この鎧の中にハイエルフの子どもが閉じ込められてるというのか?」

「その通りだよ。色々調整していて、さっき終わったところだ。うん。実に良い気分だ。その子どもの命はどの位保つかな?そこらはまだわからんから、君たちに実験に付き合ってもらう。君たちのレベルはいくつかな?楽しませてもらえると有り難いんだけどね」


 ああ。これで逃げるわけにはいかなくなった。ハイエルフの子どもを助け出さなければいけない。

「そこまで聞いて、黙って引き下がれるわけにはいかねぇ~なぁ!おい!!」

 隣でファーンが怒鳴る。同じ考えらしい。心強いな。

「おし!行け、カシム。鎧をぶっ倒せ!!」

 お?おお・・・・・・。

「じゃあ、魔法使いはお前に頼む感じだな?」

 俺が戦闘前にお互いの役割を確認する。

「バカかお前!鎧を倒したら、魔法使いもお前が倒すんだよ!」

「なんでだよ!お前は何するんだよ!!」

「何度も言わすな!オレは『探究者』なの!お前が戦うのを見るのがオレの仕事なの!」

「はあああ!?それマジだったの??」

「さいしょっからマジだっつーの!!」

 そう言うと、ファーンは大きく跳び退しさり、ウエストバッグから使い込まれた手帳を取り出し鉛筆を構える。

「前!!」

 ファーンが怒鳴ったので、文句を言ってやろうと思っていたのだが、あわてて前を向く。悪魔の鎧が剣を振りかぶって目前に迫っていた。

 俺はとっさに、剣を左手に持ち、右手で腰の後ろに装備している剣鉈を抜く。あの攻撃に剣1本では折られてしまいかねない。剣鉈なら俺の剣より分厚く丈夫だ。剣鉈を前に、剣と交差して構えて悪魔の鎧の攻撃を防御する。剣鉈の峰部分で攻撃を受ける。

 ギィィィィンッ!

「っっっっっ!!!???」

 十字で受けたのに、俺はたやすく吹き飛ばされて、すごい勢いで壁に叩きつけられた。

「ぐああっ!!」

 3メートルは吹っ飛んだんじゃないか!?腕の骨が折れそうな衝撃と、叩きつけられた背中の痛みで、すぐには立ち上がれない。

「くっ・・・・・・」

「何やってる!すぐ来るぞ!」

 遠くでファーンが怒鳴る。そう、遠くで・・・・・・。あいつあんなに端っこまで逃げてやがる。逃げ足速いよな~。


「教えてくれて、ありがとよ!!」

 俺は毒づきながらも、突撃してきた悪魔の鎧の上段からの切り下ろしを、かろうじて立ち上がって、横っ飛びに逃げる。

 が、悪魔の鎧は切り返して横凪で俺を追撃する。俺は今度も十字で受ける。

 ギイィィィンッ!!

 簡単に腕が跳ね上げられ、俺は吹き飛ばされて床をゴロゴロ転がされる。

「ぐぅぅぅぅ・・・・・・」

 たった2撃受けただけなのに、もう全身が痛い。剣鉈が折れなかったのは、ガトーが良い仕事をしてくれていたおかげだ。だが、そう何度も受け続けられない。

 幸い、悪魔の鎧の動きは単純で、速さがそこまででもないから対応は出来る。落ち着けば攻撃が当たる事は無いだろう。少し余裕が出てきた。


「おい、ファーン!お前も戦えよ!!」

 俺が怒鳴る。俺1人ではこの鎧止められそうもない。

「断る!」

 ファーンの即答。

 っと!鎧が連続して剣を振る。受けたら身が保たないので、とにかく避(よ)ける。思いっきり振りかぶっての攻撃なので、難無く避(よ)けられる。

「ふざけるなって!お前の2本の剣は何だよ!!」

 すると、また本気であきれた様子でファーンが言う。

「カシムってマジでバカなのか?!今までオレの話し聞いてたか?昨日オレ教えたよな、お前に!!」

「何をだよ!」

 また剣を避ける。

「装備は冒険者の身分証代わりだって!」

「おう・・・・・・。つまり?」

「つまり・・・・・・飾りだ!!!」

 言い切りやがった!

「バカはお前だ!!役立たずがっ!!」

 ああ。もうコイツはあてにならない。俺は諦めて前に迫ってくる悪魔の鎧に集中する事にする。


 しかし、実際どうしたら良いのだろうか?

 普通フルプレートなら、鎧の隙間を狙って攻撃するのだが、鎧の中にハイエルフの子どもが捕らわれている。2メートルを超える巨大な鎧の何処にどんな体勢で捕らわれているのかわからない。

 関節部分を突いて、そこに捕らわれた子どもの体があったら目も当てられない。しかし、攻撃しないと助ける事も出来そうもない。

「くっそう!厄介だなぁ!」

 俺は試しに鎧の胸部装甲を試しに叩いてみる事にする。

 剣を思いっきり叩きつける。

 ギィイイン!!

 金属のこすれる嫌な音が響く。

 硬い!剣を持った手がしびれる。これは防御力が相当高い鎧だ。普通に攻撃したんじゃ、俺ではどうにもならない。

 反撃が来る。鎧の上段からの切り下げ。当たれば剣で受けても大ダメージ必至だが難なく躱す、と思ったが、振り降ろしの途中で剣の軌道が不自然に曲がる。鎧の剣が、振り下ろしから横薙ぎに変化し、俺の左肩に迫る。

ギャリリイイインッッ!!

「っっっっっ!!??」

 ぎりぎりで剣鉈を鎧の剣と俺の体の間に滑り込ませる事に成功した物の、俺は思いっきり吹っ飛ばされる。

「うわああああああっっ!?」」

 空中を何回転もしながら飛ばされてしまった。しかも斬撃が届いていて、肩から鮮血が飛び散る。もう一つついでに、剣鉈を持っていた手のひらの骨にヒビが入ったようだ。肩の傷は深くはないが、両手とも、充分に力が入らない。

 悪魔の鎧。とんでもない力だ。

 地面に叩きつけられる前に、身を翻して足からの着地に成功するが、一瞬膝から力が抜け、片ひざを付いてしまう。思ったよりダメージはでかいようだ。

 鎧の奴、速くなってきてる。攻撃にも変化が出てきている。


 すると、奥で高みの見物を決め込んでいる魔法使いが手を叩く。

「いいぞ~。段々馴染んできているようだなぁ」

 まさか・・・・・・。

「時間が経つほど、どんどん強くなってしまうぞ。どうする?」

 その様だ。どうする?考えろ。

 悪魔の鎧の元は、狂った人形師の作った魔人形。魔法でも呪術でもないのに動く殺人人形だ。あの魔法使いが長年研究して、動く仕組みを見つけ出す。


 仕組みは俺にはわからんが、人間を鎧の中に入れる事で鎧を動かす仕組みで、あの悪魔の鎧にはハイエルフの子どもが入れられている。んん?って事は?!

「うお!!」

 ブンッッ!!

 再び迫ってきた鎧の剣が俺を襲う。思いっきり後ろに跳んで避けるが、鼻先をかすめる。もうギリギリになってきた。


 後ろに跳んだ勢いで、壁際まで走って逃げる。鎧は攻撃の後、少し硬直して方向転換に時間が掛かるようだ。その隙に距離を稼ぐ。そして、ファーンの近くまで走って逃げる。

「ちょ!?バカ、こっち来んな!」

 ファーンがふざけた事を言いながら、足で「あっち行け」をする。手は手帳に何か書き込んでいるのに忙しそうだ。コイツは何をやってるんだよ。

「いいから協力しろ!お前は窓を塞いだ鎧を調べてくれ!」

 魔法使いに聞こえないように小声で指示を出す。

「やだよ!オレはオレで忙しいんだよ!」

「バカな事言ってる場合じゃない!あっちの鎧の中にも、どうやら誰か捕らえられているようだ」

 そう。鎧を動かすのに、人間が動力となるからには、窓を塞ぐ為にわずかでも動いた以上、あの鎧にも誰かが入れられているに違いない。

 俺の言葉を聞くと、ファーンは表情が変わる。

「そういうことなら仕方ねぇ」

「お前は、あの鎧からどうやったら中の人を助け出せるか調べてくれ」

「わかった。・・・・・・でも、あいつがそれをほっとくと思うか?」

 確かに魔法使いがそれを放置しているとは思わない。

「大丈夫だ。それは考えがある。ただし短時間だけだ」

 俺が言うと、ファーンは迷わず答えた。

「よし!じゃあ、頼んだぜ!」

 迫って来る鎧から逃げるように、ファーンが勢いよく窓を塞いだ鎧の元に走る。

「そっちこそ!」

 俺はファーンに言い返すと、正面に迫ってくる鎧に向かって、剣と剣鉈を構える。


 鎧の攻撃を受けるのはマズイ。受ければ受けるほどダメージが蓄積してしまう。

 鎧に対してはこっちの攻撃は効かなそうだし、効いても困る状況だが、救出のヒントを得る為にも、攻撃を仕掛けてみるべきだ。

「シィィィツ!」

 鋭く息を吐きながら、剣で鎧の腕を切りつける。鎧は剣で受け止めようともしないで、そのまま攻撃を受ける。

 ギャリィィ!

 金属音が鳴って、いともたやすく弾かれる。そして、攻撃を防御する必要のない鎧は、この隙を見逃す事なく横薙ぎの一閃を繰り出す。

 当然俺はそれを読んでいたので、のけ反って避けつつ、右手の剣鉈で攻撃してくる大剣の側面を下から迎撃する。

 ガインッ!

 剣鉈に攻撃の方向を逸らされて、鎧の剣は、体をのけ反らせた俺の顔の上を通過する。が、油断は禁物だ。人間と違い、筋肉の負荷を考える必要の無いこの鎧は、急に剣の軌道を変化させる事が出来る。

 顔の上を通過しかけた剣が急に向きを変えて、俺の顔面目がけて落下してくる。

 俺は、仰向けにのけ反った姿勢から、右足を軸に反転して、うつぶせ姿勢になり、右足のひざと両手の肘を地面に付くと同時に、左足を真後ろに蹴り出す。

 振り降ろされてくる剣に対して、完全に背を向けて四つ這いになる体勢なので、かなり怖いが、この蹴りは、両肘とひざを発射台とした蹴り技で、(本来なら手のひらを付く)イヌが後ろ足を後ろに伸ばしただけにしか見えないような、残念な見た目以上の威力がある体術だ。

 人間相手だと、一瞬視界から消えるので、無防備な相手に強烈な一撃を与えることが出来る技だ。「三支脚砲打」と言う技だが、名前がちょっと長い。「砲打」とか「砲脚」で良いんじゃないかとも思うが、そんな事祖父には言えない。


 ガシャンッ!

 実際、鎧のひざ部分に当たると、2メートルを越える怪力の鎧が、後ろによろける。

 下半身が軽い?!しかもあの感触は空洞だ。鎧がよろけた瞬間、俺はすかさず立ち上がって後ろ回し蹴りを胴体に叩き込んだ。

 ゴッッッ!!

 かったい~~~~!足の骨がじんじんしびれる。

 だが、よろけていた鎧は更にバランスを崩し、後ろに倒れそうになる。

 更に、足からの感触で、胴体部分に重みを感じた。

 大体わかった。ハイエルフの子どもは、あの悪魔の鎧の大きな胴体部分に膝を抱え込むような姿勢で捕らわれているのだ。

 つまり、胴体以外は攻撃しても大丈夫と言う事になる。

 ・・・・・・たぶん。


 剣の斬撃は全く効かないが、打撃などの衝撃はある程度効果がありそうだ。少なくとも動きを止める事は出来るかも知れない。特に下半身が軽く隙もある。

 俺は剣を構えながら、体術で挑む為に、前傾の姿勢から、後傾の姿勢に変える。左足が後ろで軸足として、右足で蹴り技を放つのに適した構えだ。

 神経を研ぎ澄ませて鎧との間合いを計る。鎧が剣を突き込んできた。速い!!

 だが、俺も利き手である右手に思いっきり力をいれて、突きに来た剣を払い、軌道を俺の左側面を通過するように逸らしつつ、左の剣で更に下から切り上げて、完全に相手の大剣をかち上げる。

 鎧の体勢が伸びきった瞬間、俺は相手の胸を蹴り上げようとした。しかし、俺の下から黒い塊が急接近する。

「まさか!?」

 そう思った瞬間、俺の体は天井に激突していた。

「ぐはっっっ!!」

 恐らく、俺が鎧の剣をかち上げたその勢いを利用して、鎧は下からの蹴り上げを俺にしたのだろう。しかも後方宙返りをする事で威力も上がる攻撃となる。


 などと考えている余裕はない。落下する俺の体目がけて剣を横凪する構えだ。こいつ俺の動きを見てどんどん戦い方を学習してやがる。だが、これは知らないだろう。

 俺は落下が始まる前に足の裏を天井に付ける。充分に踏み込む事は出来ないが、「圧蹴」もどきだ。

 俺の体が加速する。鎧の反応が遅れる。その間に俺は着地・・・・・・もとい、地面に勢いよく叩きつけられる。

「グガッッッッッッ!!」

 その俺の直上を鎧の大剣がかすめる。俺は必死に転がって横に逃げた。着地時に打った腕と顔が猛烈に痛い。目の前に星が飛びまくっている。

 この回避技、もう二度とやらない!!


 立ち上がるが、ダメージがでかくて尻餅をついてしまう。その体勢で必死に距離を取ろうと後ずさる。


「おや?あの雑種は何をしてるんだい?」

 壁際で楽しそうに俺の戦いを見ていたゼアルが、ファーンの動きに気付く。

 やばい。思ったより早く気付きやがった。俺は焦るが、それよりもゼアルの発言に何故か無性に腹が立った。

「ざ、雑種だと!?」

「ん?どうした?人間でもエルフでもない半端者の雑種如き、どうして気にかける?」

 ゼアルはさも当然の様にファーンを見下して言い放つ。

 ファーンはいい加減だし、戦いでも助けにならないふざけた奴だ。擁護してやる義理もないはずなのに、ゼアルに言われて何故か妙に腹が立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る