旅の仲間 謎の塔 1
俺とファーンが村に着いたのは、日が暮れてすぐだった。村の門が閉まる前に着く事が出来て良かった。
野獣から逃げる為にしばらく走ったおかげだろうか。
この村は「イーラ村」という、森の中にひっそりとある村だ。
俺たちは冒険者なので、こんな時間に、こんなあまり人も来ないような村を訪れても、村人たちは不審がらずに迎えてくれた。
俺たちは宿を頼んだが、この村には宿屋はないそうだ。
村長が離れを貸してくれると言う事で、俺たちは有り難くそこで寝泊まりさせてもらう事にした。しかも夕食をごちそうしてくれる事になった。
治安が良いのと、冒険者たちの普段の行いのおかげで、俺たちはもてなしてもらえたのだ。感謝、感謝。
あてがわれた離れには、ベッドとソファーがあった。水道やトイレなどの設備もちゃんとある。この村に来客があった時の為に村長が建てたものらしい。
荷物を置いて、装備を外し、くつろげる恰好になって一息つく。
「フ~~~」
隣を見ると、ファーンが俺を
「どうしたんだ?」
「いや、カシムって時々バカなのな」
藪から棒に「バカ」呼ばわり・・・・・・。
「何だよ、いきなり」
俺が抗議すると、ファーンは腰に手を当てて答える。
「いや、オレたちって冒険者じゃん。一応防具や武器が身分を示してくれる訳なんだよ。いわば身分証代わりだ。でも今のお前の恰好は、ほとんど只の村人だぜ」
「だから?」
「いや、だから、大きな街とか自分のホームとかならともかく、こういった旅先の村とかでは、ある程度装備を身に付けとけって事だよ。フルプレートの連中だって、サービス精神で村とか入っても全身装備外さないぜ」
そうなのか?いや、でも確かに街道や街中でも冒険者は一見して冒険者とわかる恰好をしている。
「中には寝る時も全身装備の
「おお。ファーンって時々頭良いな」
俺が言うと、まんざらでもない顔をする。俺が軽く馬鹿にしてみた事は気付いていないらしい。
「じゃあ、俺も装備し直すよ」
なるほど。冒険者は装備を調えて、冒険者らしい恰好でいることが、町や村の人たちの安心につながる訳か。冒険者であるとわかっている以上、冒険者自身も、ペナルティーを恐れて下手な振る舞いは出来ないしな。
「そうしろ。武器を持ってても無礼には当たらないぜ。逆に見せてくれってせがまれたりするしな」
おお。勉強になる。騎士の世界の常識とはまるで違う。
俺が再び装備を身に着けていると、食事の準備が出来たと呼び出される。
招かれて村長の家に入ると、村長一家だけではなく、数人の村人や子どもたちも集まっていて、みんなでごちそうになるようだ。
食事が進むと、子どもたちが冒険の話しをせがんできた。
ヤバい。俺、冒険者始めたばかりだ。考古学者の話しをしても面白くないだろうし、地獄教徒とのバトルは秘密だし・・・・・・。
「おう。いいぜ。アレは3ヶ月前の冒険だったな。『アインザーク』との国境近くのダンジョンでな~」
ファーンが得意げに話し出す。
助かった。ファーンは子どもたちにわかりやすく、しかも時々笑いを取りながら冒険の話しをする。話し慣れているし、何より子どもたちの事を思って話しているのがわかる。ファーンの対応は勉強になる。
子どもたちがファーンに釘付けになっている間、俺は大人たちと話しをすることになった。
大人たちは最近の王都の様子を知りたがったので、
「この村では最近変わった事とかってないですか?」
冒険者らしく困りごとでもあればと思って聞いてみる。
まあ、社交辞令だ。困りごとがあれば冒険者ギルドに依頼すれば良いし、俺たちが来た時点で相談してくるだろう。
ところが、村長を始め、みんな妙な表情で顔を見合わせてくる。
「実はですね」
村長が話し出す。おいおい。嘘だろ?こんなところでクエスト発生か?俺は先を急ぎたいんだよ。そう内心で思いつつ、俺は村長の話を聞かざるを得なくなった。
村長の話によるとこうなる。
1年ほど前に、村の外れに1軒の家が建った。
街からやってきた業者がちゃんと手順を踏んで家を建てる申請をしたし、村長も許可を出した。税金も、村への納金も済ませている。
しかし、その家に住みだしたのが人間じゃなかった。ドワーフやセンス・シアや獣人でもない。
なんと「ハイエルフ」だ。ほとんどおとぎ話とかに出てくる種族だ。外の世界で生まれ育ったエルフでもなく、紛れもなくエルフの大森林から出てきた純粋種、ハイエルフだ。
このまま外の世界で暮らしていったとしたら、第一世代と呼ばれる事になる。外の世界で第一世代から生まれた子たちから「エルフ」とだけ呼ばれる様になる。
エルフとハイエルフの差はものすごく大きい。さっきも述べたが、詳しくは知らないが、俺が以前読んだ本によると、ハイエルフは実質寿命がなく若々しい姿のままで生きる。食事や睡眠も特に必要ないらしい。他にもちょっと理解できないような能力を沢山持っている。
だが、第二世代の「エルフ」からはその能力全てを引き継げない。長寿であってもちゃんと寿命はあるし年もとる。
第三、第四世代と世代数を重ねるほど人間に近くなっていくそうだ。
第五世代からは、もう普通のエルフと替わらなくなるそうだ。
エルフは排他的で、プライドが高い為、高位に位置するはずの第二~第四世代のエルフを、仲間として集団に入れない。
逆に高位のエルフも、第五世代以上の普通のエルフを見下すきらいがあるそうだ。
ハーフエルフともなると、ハイエルフの能力はほとんど引き継げないそうだ。ファーンは見た目こそエルフっぽいが、中身はほぼ人間らしい。
ちなみに何世代とか、ハーフエルフか、エルフか、はたまたハイエルフかとかの違いは、エルフの血が入っていれば見ればわかるそうだ。その点はファーンもそうらしい。
しかし、ハイエルフなんて、まずお目にかかれない。それはエルフの大森林がすぐ近くにあるこの村でも同じらしい。
これはとんだ珍事だ。
と、話が逸れたが、そのハイエルフだが、なんと一家で子どもまでいるらしい。
ハイエルフの子どもなんてこれまた珍事だ。なんでも100年に1人か2人生まれれば良い方という話しがおとぎ話にあった。
で、その一家、人間からするとかなりおかしな人たちらしい。
いつも怪しげな術の「修行」とか言って、森や山を走り回っているそうだ。
さらに、それと関係しているのか全くわからないが、この村からしばらく南西に進んだ森の中に、いつの間にか奇妙な塔が建っていたそうだ。
見つけた村人が近づくと、中から何人ものうめき声が聞こえたらしい。
その塔を見つけたのが3日ほど前だが、エルフの大森林がすぐ近くにある為、村人もまず近寄らない所なので、どうももっと前からあったのかもしれないそうだ。
現に、発見した村人も数年前にその辺りに行ったきりだそうだ。
そこで、村人たちで相談して、明日にでも冒険者ギルドに調査の依頼をしようとしていたところらしい。
しかも、今朝わかったのだが、ハイエルフの一家が姿を消したそうだ。
普段から、あまり村人と交流がなかったので、いつからいないのか誰もわからないとの事だ。
ああ。「塔」か「ハイエルフ」かどっちか一つにして欲しい。頭がこんがらがる。
ああ、食事ごちそうになるんじゃなかった・・・・・・。この場合冒険者としても、騎士としても、言うべき台詞は一つしかないじゃないか。
「わかりました。では明日早速、その塔に行ってみます」
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