旅の仲間 冒険者登録 3
「なんでまたダメなんだよ!」
冒険者ギルドの受付でハーフエルフが怒鳴る。
「ファーン!あんた評判悪いんだよ!あんた、パーティー組んだって何の仕事もしないそうじゃ無いか!戦闘になるとさっさと逃げてっちまうってみんな言ってんだよ!そんなじゃ、誰があんたと組みたがるかってんだよ!」
受付の、筋肉質で大柄の美女が怒鳴り返す。ファーンはその迫力に一瞬腰が引ける。
「で、でもオレは『探究者』だから、戦闘は参加するものじゃ無くって見るものなんだよ!」
すると、受付の美女が眉間にしわを寄せ、窓口のカウンターからヌッと手を伸ばしてファーンの胸ぐらを掴む。
「ああん?それで通ると思ってるのかい?みんな命がけなんだよ。大体『探究者』ってなにさ?戦闘に参加しないんだったら他にどんな仕事してるって言うんだい?!」
ファーンは半ば持ち上げられる様になり、息を詰まらせる。
「みんなあんたは何の仕事もしないで遊んでるって言ってんだよ!!」
「そんなことは・・・・・・」
と言うが、ファーンとしても、探究者としてはそれなりに頑張っていると思うが、パーティーメンバーには何一つ貢献していないという自覚がある。
「『探究者』が何する仕事かあたしゃ知らないけど、荷物持ちでもマッピングでも料理担当でも、あんたでも出来る事があるだろうが!そんな事もしてない奴にパーティー斡旋するあたしの立場もちったぁ~わかりやがれ!!」
美女が腕を振るってファーンを離す。ファーンは尻餅をつく。
「いいかい。あんたは仲間に対して出来る事を考えるんだ。『探究者』が戦闘に参加してはいけないってんなら、それを補う自分の役割を見つけて全うする努力をしな!誠意を見せな!冒険者はお互いの信用が無けりゃ、やっていけない仕事なんだ!それを考えてからもういっぺん出直して来な!!」
ファーンはワナワナと震える。腹が立つが、間違いなく相手の方が正しい。しかも、最後に「来な」と言う事は、まだ自分を見放したわけでは無い事を告げている。
「ち・・・・・・」
「ち?」
受付の美女の口元がニヤリとゆがむ。
「ちくしょう!お前は俺のかーちゃんかよ!!!」
ファーンはギルドを飛び出して行った。それを見送ると美女が笑う。
「はっはっはっ。ギルド名物の捨てゼリフ、ありがとうよ!」
飛び出したファーンと入れ違いになるようにカシムが冒険者ギルドに入ってきた。
「お?いらっしゃい。初めて見る顔だね」
美女がニヤリと笑うとカシムを迎える。
アカデミーを出た俺は、食事にすべく街道沿いの食堂を探す。すぐに見つかったので、そこに入る。
多少値は張るが、道を中に一本入ったりしたらすぐに迷いそうなので、街道沿いのこの店で食事を済ませた。
そして、食後すぐに歩いて冒険者ギルドに向かう。
リア街道をベルーガ大橋の方に向かって歩けば着く。
馬車の乗り合い所はアカデミーと冒険者ギルド本部の中間にあった。この街での利用率の高い2つの施設なので、乗り合い所をそこに設けていた。
乗り合い所を通り抜けると、少し先に、これまた大きな、そして立派な巨大建築が目に入る。
派手なオレンジ色の屋根をした、豪華な作りで、出窓やバルコニーがやたらと多く、絢爛豪華な建物だ。
これはかつてのカロン国公爵の館だったらしい。狂王騒乱戦争後にグラーダがそのまま接収して、冒険者ギルド本部に改修したそうだ。敷地も広く、試験場や様々な職の訓練場もあった。
俺が入り口に着くと、中から大きな声で「お前は俺のかーちゃんかよ!」と叫ぶ声が聞こえた。
「おお。ギルド名物の捨て台詞。本当に言う奴いるんだな~」
そんな事に感動しつつ、沢山の冒険者たちが利用している幅の広い階段を上り、冒険者ギルドの建物に入っていく。するとすぐに声をかけられた。
「お?いらっしゃい。初めて見る顔だね」
見ると、受付のカウンターに肘を乗せて、前屈みになってこっちに笑いかける、筋肉質のたくましい美女がいた。女性にしては背が高く180センチは越えているだろう。そして、褐色で逞しい体つきは、恐らくドワーフだ。
男性のドワーフは、身長も150センチ程度と小柄だが、ずんぐりとした逞しい体つきで、褐色の肌に、若くても豊富な髭を蓄えている。手先が器用で無口で頑固だそうだ。彼らはほとんどが鉱夫や職人で、鍛冶仕事、細工仕事に秀でている。建築技術も高い。
一方で女性のドワーフは、皆見事なプロポーションと、たくましい体を持っていて背が高い。男性よりも戦闘向きな体をしている為、冒険者になる者も少なくない。堅苦しいのが嫌いな奔放な性格故に、軍人になる者は少ないそうだ。
「ええ。実は冒険者登録をしたくて」
俺が言うと、その美女はまず腰の剣を見て、それから俺を上から下まで遠慮無く眺める。そして鼻を鳴らして笑う。
「フフン。ま、いいだろう。見た目以上に鍛えてそうだねぇ」
女性の言葉に俺は曖昧に頷く。ペンダートンの名前はなるべく出したくない。いずれ名乗らなければいけないが、ギリギリまで誤魔化そう。
「じゃあ、試験があるから付いておいで」
そう言うと、美女はカウンター内に向かって指笛を一つ吹く。すると、これまた大柄な禿頭の男が出てきて、俺に向かってアゴをしゃくる。
「おう。こっちだ」
そして、2人が俺を先導してギルドの廊下を進んでいく。歩きながら美女が説明する。
「まずは簡単な筆記試験だ。あんたエレスの公用語は書けるかい?」
「書けます」
「なら公用語でいいか」
美女が笑う。
エレスにはいろんな国があり、言葉も多様だったが、昔からエレス共通言語があった。これは神や魔神が話す言葉だ。
狂王騒乱戦争後、グラーダ条約により公用語教育が熱心にされて、今ではほとんどの国がエレス公用語を母国語にしていた。
それでも、まだ公用語が話せない人や、話せても書けない人、読めない人はいるし、国や地域によっては、旧母国語と混じっていたり、方言のようになっていたりする。
グラーダ国も、公用語からするとかなり訛ったような言葉を使っていたそうだ。だが、グラーダ国自らが率先して、エレス公用語を母国語として、普及するように教育をして来たのである。
「次は職業を決める面接があるんだが、あんたは剣を使うんだろう?だから剣の実技を先にやっちまっていいかい?」
美女が言うので、俺は頷く。
「それで大丈夫です。でも、実技って何をすれば良いんですか?」
すると美女は笑って、先を行く禿頭の男をアゴで示す。
「心配する事はないよ。この男と軽く手合わせすれば良い。本気出したりすんなよ。こっちも本気は出さない。軽く手合わせするだけである程度力がわかる。まずはそれで充分だ」
「そんなものですか?」
俺は人に教えた事が無いので、その感覚はわからない。
「ん?まあな。高い力を持っていたり、教え方が上手い奴ほど、軽く手を合わせただけで相手の力がわかる。すごい奴になると、どの技を、どの位で習得するのかもわかるらしい」
美女の言葉に一つ腑に落ちる事があった。
あの「無明の行」だ。右目の視力を失った俺の死角を補う為に行った、暗闇の中で相手を察知したり、戦えるようにする為の修行だ。
祖父は俺がいつ修行を修了するか、どうも数日前から正確に把握していた節がある。
だから、あの授賞式とかいう、本当は俺をあの国王が陥れる為の式典が、俺の修行が修了するタイミングに合わせるかのように開催できたんだ。
本来であれば、少なくとも準備に2週間以上掛かるくらいの大がかりな式典だった。
俺は祖父の力に、改めてあきれる。
「それが終わったら適性テスト」
美女は説明を続ける。
「ま、冒険者に向いてないかどうかとか、悪い事しやしないかってテストだが、あんたは見た感じ問題なさそうだな」
美女が笑うと、前を行く男がチラリとこっちを見て、また前に向き直る。
どうも2人とも元冒険者らしい。
冒険者ギルドの受付は、とにかくもめ事や荒事が多くなるので、元冒険者とかのごっつい人がなる。で、先輩目線でガンガン意見したりするので、有り難いのだが、打ちのめされる人も出てくる。
ただ、受付の人は大体人情深い様で、まるで口やかましい母親の様だという。なので冒険者ギルドでは「お前は俺のかーちゃんかよ!」というさっきのような捨てゼリフが度々飛び出すそうだ。
「で、今回は、職業選択を最後にしよう。これは役割を明確化する為のものだ。パーティーを組む時に、いちいち『あれができて』『これが得意だ』って説明する必要がなくなる。まあ、中には聞いたところでさっぱり何をする仕事かわからんのもあるけどねぇ」
そう言うと美女は「はっはっはっ」と豪快に笑った。
「着いたよ」
美女が案内したのは中庭に面した部屋だ。中庭が訓練場になっていて、どうもあそこで実技をするようだ。そして、いくつか並んだテーブルには、他にも数人座っていて、筆記試験を受けていた。線の細い女性や、ムキムキの大男などが、試験用紙と格闘している。
毎日何人もの冒険者を希望する人が登録しに来ているらしい。美女は部屋の前方にある机の中から1枚の試験用紙を持って来る。
「じゃ、頑張って」
そう言うと美女は他の受験者の様子を見に行く。
俺は筆記試験の内容に目を通す。
エレスに住んでいる種族の特徴や、地理的な事、簡単な歴史、簡単な法律問題。後は一般常識問題。
なんてことは無いテストだ。もっと冒険者ならではの問題だったらどうしようかと思っていたが、これなら問題ない。相当アレじゃない限り落第する事はなさそうだ。
「あんた、マジかよ!!??」
後ろの方でさっきの美女が怒鳴っている。怒鳴られた男が狼狽えている。かなり筋肉隆々だが・・・・・・。まさかこの問題がわからなかったとでも言うのだろうか?
「ああ。俺らの世界じゃ、こんな感じだ」
一緒に来ていた試験官の大男がボソリと言う。
「・・・・・・」
俺は無言で試験問題を解いていった。
10分もすると全て終わったので大男に手渡す。
「早いな」
大男の試験官は、驚いたように眉をひそめる。
そして、戻ってきたドワーフの美女が用紙を受け取る。大男は用紙を一瞥もしなかった。俺がちらりと大男の試験官を見ると堂々と「こんな感じだって言っただろ」と、こちらが何も言ってないのに答える。
「おお。合格だ!早かったな!見た目に寄らず頭良いんだな!」
美女が笑いかける。今日2回目の台詞だな、それ。俺ってそんなに頭悪そうに見えるのか?
しかし、ほんとに簡単すぎるぞ、この試験・・・・・・。
まあ、俺は学校には行ってないが、家庭教師に色々叩き込まれているからもあるし、こう見えて(で、悪かったな)自称、考古学者なのだ。学があって当たり前だ。
ちなみに語学も得意で、複数の言語が話せるし読める。
だが、次は実技だ。手加減って、何処まで手加減するのが普通なのか?そもそも俺の実力ってどの辺りなんだ?
はっきり言って、俺は、一緒に訓練した祖父の部下の兵士たちよりも弱い。祖父に付きっきりで訓練を受けてきたのに、他の兵士たちに敵わないのだから、凡人と言わざるを得ないだろう。
不安を感じつつ大男に先導されて中庭に出る。美女は筆記試験で
「お前の特技は、剣で良いんだな?」
大男の試験官が言う。
「はい」
俺が答えると、男は訓練用の木剣を手渡す。
「これで良いか?」
長さはロングソードぐらい。俺の腰の剣がちょっと短いのを気にしての問のようだ。面倒見が良い。
「大丈夫です」
「じゃあ、軽く手合わせしよう。体には当てないようにしろ」
寸止めか。それなら大丈夫だ。
俺が剣を構えると、向こうも構える。
防御の構えだ。とりあえず打って来いというわけだ。俺は力を抜いた状態で剣を振るう。剣は相手に簡単に受けられる。
「いいぞ」
男が頷く。そうか。こんな感じで良いのか。
次は向こうの攻撃の番だ。俺が防御の構えを見せる。意図が正確に伝わってる事に男は満足したように笑う。
「慣れてるな。中にはこうしたやりとりを無視してめちゃくちゃに攻撃してくる馬鹿もいる」
相手の攻撃を軽く受け流す。こんなやりとりを後数回すると、大男は剣を引いた。これで終わりらしい。俺も剣を引き「ありがとうございました」と礼を言う。
大男は軽く笑う。
「いや、やりやすかった。こっちこそ礼を言おう。楽な仕事だった。・・・・・・ところで、お前、どこかで正式に剣を習っているな?それも相当に・・・・・・」
男の指摘に頷く。
「はい。実は・・・・・・」
「いやいい!細かい事は言う必要は無い」
俺が答えようとすると男は慌てて止めた。
「いいか、そうした事や、冒険者としてのステイタスは秘密にしておけ。大事な個人情報だ。うかつに話すもんじゃない。公にして良いのは名前と職業とレベルと、後は冒険者ランクだけだ。覚えておけ」
大男は俺にそう教えてくれた。
そこで、さっきのドワーフの美女が筋肉ムキムキの男を連れてやってきた。
「終わった~?」
「ああ。合格だ。文句なしだ」
「おお。よかったじゃないの!」
美女が俺に笑いかける。
「じゃあ、次、この人の実技よろしく」
と言って、禿頭の試験官にムキムキ男を押しつけると、俺の手を引いて、元の受付のあった方へ戻る。
廊下を歩いていくと「そうじゃねぇだろうが!!」と、後方からさっきの大男の試験官が怒鳴っている声が聞こえた。
「さて、あとは適性検査だね。これは問題ないだろうから先に謝っとくよ」
長い廊下を歩きながら女性が説明し出す。
「あいにくだけど今は4月だ。鑑定士たちが資格更新の講習の為にアカデミーに1ヶ月行ってるんだ。だもんで、あんたのレベルやステイタスの鑑定、魔法やらなんやらの適性審査ができない。職業は自分で選べるけど、それに対する適性があるかどうかわかんない。すまないね」
そうか、4月になっていた。
鑑定士というのは、今のエレスでとても大事な職業だ。
元々は骨董品を鑑定する人や、占いとか、霊能力者とか、とにかく怪しげな仕事に就いていた人たちなのだが、あの「賢聖」リザリエ様がその真の力を理解して、そうした人たちを大人数集めた上で、その見抜く力を体系化した。
どうも、そうした人々の中には、本当に人から何やらいろんな色に光る揺らめきが見えていたようで、揺らめきが見えている人たちに、とにかく沢山の人を見せて話し合わせた。その結果、光の見え方を統一させ、数値化することに成功した。
気の遠くなるような行程だったらしい。そうして、その人の能力を細分化して数値化する事に成功し、それを総じてレベルに表記できるようになった。
何の為かというと、任務の内容や難易度を個人に合わせやすくする為。自己判断の材料とする為。パーティーを組みやすくする為。また、個人の向上心にもつながっているとのことだ。
鑑定士により数値化されたのは「力」「俊敏性」「体力」「器用さ」「運」そして「魔力」。更に「魔法特性」もわかる。
魔力の有無と魔法特性の2つが分かるようになったことはとにかく重要で、魔法のシステムを根幹から作り直したと言われている。
更に「潜在能力」もわかるらしく、こっちは数字ではなく「E」から始まり「A」まで。更に高い能力だと「S」から「SSS」まであるらしい。
あと希に特殊能力やスキルが判明する場合もあるらしい。
「賢さ」や習得した技術や特技まではわからない。例えば俺が先日身につけた「無明」なんてものは鑑定士でもわからない。
しかし、鑑定士がいる事で、冒険者だけではなくかなり多くの人々が助かっている。
かつては「インチキ」「うさんくさい」と
ただし、鑑定士は特殊技能で、これも生まれ持っての才能「鑑定眼」がなければなれない。しかも「鑑定眼」は希少な才能である。
それ故にかなりの高給取りで、「鑑定眼」を持つ人間は誰もが鑑定士となるべくその目を鍛えているという事だ。
鑑定士の資格は厳しい研修と試験を通らなければ取れない。しかも、1年更新で、更新する為に1ヶ月の講習を、全ての鑑定士が受ける必要がある。
その講習は試験的なものでは無く、再び、全鑑定士たちでおびただしい人々を鑑定して、その数値化を確認し合うのだ。
その研修が毎年4月の1ヶ月間ある。
大人数鑑定士が集まらなければ出来ない講習なので、大体は国の王都に集まる事になる。その為地方によっては前後1ヶ月の3ヶ月間は鑑定士が町から消えることになる。
グラーダ国内では、アメルのアカデミーに集結している。
俺はまだ鑑定士によるステイタス鑑定など受けた事がなかった。
普通に生活している人のほとんどは受ける事はない。受けるのは大体冒険者だ。普通に受けると高額になるが、冒険者は格安で鑑定を受けられる。
かつては冒険者の鑑定料はギルドが負担してくれていた。
ただ、毎日のように更新を希望する奴が多くいた事で、冒険者も一部負担するようになったそうだ。これは冒険者の話で良く聞く笑い話だ。
他には兵士。彼らは時々自費で自分のステイタスを確認している。
まあ、気持ちはわかる。普通は兵士ともなると自分の強さを知りたいものだ。
俺は周囲がすごすぎるので鑑定を受けたいとは正直思わないが・・・・・・。
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